神と血6
5個目ぇー
その瞬間、空間が割れた。
というよりも、虚霊頒神が初めて姿を表したと表現する方が適切だろうか。今まで、全ての攻撃がすり抜けていた朱雀《虚霊頒神》。だがたった今、明確に圧力が変わった。全ての小型朱雀、中型朱雀が消えているというのに以前よりも強くなった熱気はステータスに『状態異常:火傷・脱水』と表示させるまでに至っているし、所々に存在する炎は輝きを増していた。急いでMP回復薬を飲むがMP残量的に厳しくなるのは間違いないだろう。
『耐えてみせよ、越えてみせよ。我が領域、我が炎界が壁となる』
『示せ、魅せよ、我が望む、汝が望むその生を』
『我が熱風をう』
「だからそれ火炎放射ッ!?」
『……』
羽を広げ、その内側から大量の火柱を放ってきた朱雀。チラッと見えた火炎放射機が朱雀が人工物で有る事を象徴していたが……
「なんでそんな急にっ!?」
第一試練、第二試練はまだ余裕があって、勝てないと思った時はあったが死ぬと思った時は無かった。第三試練も無理じゃねとは思いはしたものの、明確な死はそこまで感じ取る事が出来なかった。
だけれども。羽の下からレーザーの様な火柱を6本放ち続け、分身までしだした朱雀は流石に納得がいかない。未だスキルは封印されているし、状態異常の所為でHPが本当に危ない。今の所は回復薬のクールタイムなどを考えても生き残れはするが、何か一つでも攻撃が直撃すればすぐにでも死ぬだろう。
『『『『我は今汝、レンジを個として正式に認めた。義を尽くそう、試すのでは無く、正式な相対せし者と認めよう』』』』
『『『『故にこそ、我は汝を撃滅しよう。乗り越えよ、踏み越えよ。我が認めた個、レンジよ。我が望む生を、汝が望むその生を、貴様の手で勝ち得てみせよ』』』』
『『『『領域支配:«炎界»』』』』
頭上で俺を囲むように旋回している4体の虚霊頒神達がそう唱えた瞬間、大量の小型朱雀、中型朱雀が顕現した。
辺り一体を覆わんばかりの朱雀の群れに、その奥に気がついたら出来ていた炎の壁。俺を中心に出来上がったその包囲網は、俺を絶対に殺すという明確な意志が有るように感じられた。
MP回復薬のクールタイムが丁度良く終わったのを確認し、MP回復薬を飲んでからスキルを発動する。
「【包囲射撃】」
その瞬間、今残っている全MPを代償に俺の周囲には空間の歪みが発生していた。勿論、前回の様な包囲しての攻撃だった場合俺が自滅するだけなので、今回は包囲している朱雀に対する攻撃という明確な意志を思い浮かべてスキルを発動している。
あの時の攻撃との差は矢が内側に出るか外側に出るかのみ。空間の歪みが俺の動きに伴って移動する事もなければ、俺が行動不能になる事もない。
まあ、周囲を空間の歪みが囲っているので動けない事には変わりないのだが。
攻撃こそが最大の防御。誰が言ったのかは全く知らないが、その言葉の意味が今この場で証明されていた。たった10秒間。されど10秒間もの間出続けた矢の群れは虚霊頒神を倒すには至らなかったものの、小型・中型朱雀の大半を倒す事に成功していた。
『『『『良い、良い。されど未だ至らず。魅せよ、我に魅せよ。その輝きを』』』』
再び現れだした小型朱雀、中型朱雀に軽くめまいを覚えたものの、ここまで来たのだから負けたくは無い。もう【領域射撃】の様なスキルを使う事は出来ないだろうが、全力を尽くそう。
「二連撃、九連撃、九連撃……」
二連撃で発生する矢の本数は4本で小型朱雀を倒すには1本多いが、ちょうど3本にしようとすると効率が下がってしまうからこれは仕方がない。ただでさえ少ない残MPが二桁を切った辺りでもう負けるまでのカウントダウンが俺の頭の中では始まってしまっていたが……
『『『『魅せよ、示せ。何故汝の生を示さない。我に魅せよ……その生こそが我が、汝が渇望。求めよ、貌を爆ぜよ』』』』
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MPが共有されました
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「は?」
あー、うん?
MP欄が∞表示になった事に一瞬困惑したが……これだと俺が知る中でもトップレベルに簡単なボスになってしまう。『撃滅しよう』などと言われていてボコボコにされるのも覚悟していたのだが、守護神獣からするとこれは戦闘ですら無かったのだろう。
要するに、俺は真面目に勝とうとしていたが相手は遊び気分でしか無かったと。
「……ぶっ飛ばす」
『『『『良い、良い!その瞳に込められし生こそが我が求む物。魅せよ、我に魅せてみよ!汝の望む生の頂き、その頂きを体感せよ!我こそは朱雀《虚霊頒神》。汝を個と認め、汝の守護をせし者。至れ、破れ!汝の生のその先へ!』』』』
「【包囲射撃】」
一番最初に行ったのは、時間無制限の【包囲射撃】だ。MPを気にしないで良い今、これがまずは俺のスタート地点となる。インパクト、ブラストなどを付与できればもっと簡単に倒せていたのだろうが……無い物強請りをしても仕方がない。次に、弓聖術にあったミリオンアローなどを虚霊頒神に向けて連射し続ける。このぐらいすれば、流石に一体ぐらいは倒せるだろうと願って。
矢の弾幕が、視界を支配する。頭上など、虚霊頒神の姿など見えないぐらいの矢の群れが……
消し飛ばされる。
『『『『汝の求む生はその程度か。飢え、求め、そして至る。上が見えぬ限り、汝の生がその程度でしかないのであれば、汝はその程度にしか至らぬ』』』』
『『『『超えよ、爆ぜよ、汝の楔は今ここに潰える』』』』
『『『『汝の生、汝の魂を超えよ。巡り会え、我が同胞は汝を暖かく迎え入れるだろう。そして学べ。貴様の生の小ささ、されどその深さを。再び会わん時、我が意を超えんように』』』』
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【朱雀の加護】を獲得しました
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・人工守護神獣
人々を守り、道を示す者。
彼等の行動理念は人を導く事にしかなく、故に人を殺す事は無い。
導き、試練を乗り越えし者にはその先を自らの手で確認させる。
彼等が求むのは人族の安寧。故にこそ、彼等は人々を導き続けるのだ。
その行動理念に従って。




