開放と加護
書籍化決定!
詳細は活動報告にてお知らせさせていただきます。
果敢に穴へと飛び込んでいくプレイヤーの方々を横目に見ながら、俺は神殿に向かって歩き始めた。レッサーザラタンが攻略されていない今、周囲の森を除くと一番の最前線となり、経験値効率が良いとされる墓地迷宮。匂いとグロさに目を瞑れば、それだけ潜る価値が有るのだろう。
まあ、俺だと周囲の森の方が圧倒的に経験値効率が良いので、最奥地付近に有るちょっとした目的地に一回行ければもう行くことは無いだろうが。
「【精霊召喚】『リム』『ヤミ』『ファイ』『アース』『ライ』『ティア』『ファン』」
レベリング中に気づいた、手っ取り早い召喚方法。ロリ率100%という事に関しては目を瞑るとして、一応は精霊の王様に祈る訳だから全員を召喚したのだが……このカオスさを考えると、神殿に着いてからの召喚で良かったと真面目に考えさせられる。
「……落ち着けー」
安定して頭の上へと消えていくヤミ、ライがこの際有り難い。元気に飛び回るファイに、狼狽えながらそれに振り回されるアース。リムはそれをニコニコ眺めているだけで、ティアもリムを盾に俺を見てきているのでまあ、良い。……で、ファンはちょっと意味がわからない。相変わらず虚空に視線を向け、何を考えているのか良く分からない顔でふわふわと漂い始め、あろうことかファイ達が飛び回っている方向へと吸い込まれるように移動をしていく。
「……行くか」
ファンと衝突して驚いているファイに、衝突した事にも気づいていなそうな顔で未だ漂い続けるファン。……俺が対応できる領域を越えている。
……神殿は如何にもといった作りの神殿を老朽化させたような見た目をしていた。普通のゲームに必ず有ると言っても良い神殿、教会が存在しない理由は『Black Haze』を開発するような人間が二度と現れないようにするため。みたいな事がボードには書いてあったが、この神殿は逃げてきた人々の最後の懺悔場の様な場所だったらしい。神々を信仰していた人々は神殿の周囲に墓地を作り、そこに埋葬される事を願っていた。たとえ神々に見放され、醜い姿となりて魂が現世を彷徨うとしても。
……やっぱり、墓地迷宮に行く気にはならない。
神殿の中に入ると、殺風景な風景が視界に飛び込んできた。本来あったであろう長椅子は長い年月を経て朽ち果て、祀られている竜、獣、精霊の像は何処から生えてきたのか良く分からない蔦が絡みつき、よく見えなくなっていた。墓地区なのにそこだけ緑が生い茂っている事を考えると、本当に超常的な何かが有るように思わされる。精霊達も少しだけ落ち着きを取り戻し、3柱の像を眺めていた。
「取り敢えず、綺麗にするか」
これと言ったアイテムを持っていない為全て手作業となってしまうが、精霊達に協力してもらって像を綺麗にしていく。蔦などを全部引っ剥がして水洗いする事ぐらいしか出来ないがそれだけでもだいぶ違うだろう。
最終的に、ある程度までは綺麗になったタイミングで地面に魔法陣が出現し、その上に乗ると最大レベルが開放されると共にレベルが上がったという通知が来た。
「これで終わり、か?」
思ったよりも呆気なく終わってしまった最大レベルの開放。そして、【到達者】の称号取得。すでに持っている【到達者】は100レベ超えバジリスクを倒した時に貰った物だが、それとは別に貰えているという事は100レベ到達、100レベ超え討伐は別物という事なのだろう。なんなら装備作成の【到達者】も有りそうだし、楓さんに聞いてみよう。
軽く祈っていくかー……みたいなノリで祈った結果、さらに3つも称号を取得できたのだが、内1つは誰にでも獲得できそうな称号だったのでクラン員の人達には気が向いたら知らせるつもりだ。
「……加護思ったより簡単に手に入っちゃったよ」
問題は……いや、問題ではないし良いことなのだが、何故か取得できてしまった【精霊王の加護】。効果は色々と有るが、一番強そうなのは精霊の同時召喚制限の撤廃。それが、圧倒的にやばいのだ。俺は元から風精霊をもう一体召喚する事が出来たが、ライと同時に召喚する事が出来なかったので召喚していなかった。
だが、【精霊王の加護】を獲得した今はそんな事を気にせずに同時に召喚することが出来る。
【精霊王の観察対象】からして、【精霊王の加護】の獲得条件は全変異属性の開放だと思っていたのだが、こんな所で獲得できたのは予想外すぎる。
「後で召喚するか」
AGIが上がる風精霊を召喚しない理由もないので、一度クランに戻って一息ついてから召喚をするつもりだ。
「行くよ」
何故か精霊神の像の周囲を囲っていた精霊達に声をかけ、神殿を後にする。
最大レベルも開放したし……レベリングの再開だな。
100話目ェッ!




