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54話
「驚いたわ。よく似合ってるじゃない、レイヴァリア様」
待ち合わせ場所の広場に現れたワシを見て、ヴィオラが目を丸くした。
そうじゃろうとも。
「ワシもそう思う」
ナズナ殿が編んでくれた三つ編みに、トワ殿のお古の服。
今のワシは、どこからどうみても普通の子供なのじゃ。
こんな格好でも、似合ってしまうのがワシなのじゃ。
「……それ、自分で言っちゃうんだ。
まぁいいわ。それで例のものは持ってきた?」
「無論じゃ。ホレ」
ワシは《無限収納》から袋を一つ取り出し掲げてみせると、ヴィオラは、うんと頷いた。
「準備万端ね。それじゃあ行きましょう」
ワシとヴィオラは目的地に向けて歩き出す。
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「対等な力関係だと友達になりやすい?
……言われてみれば確かにそうかもしれないわね。
そのことを教えてくれたヤーゴさんっていったい何者なの?」
道すがらヴィオラが言った。
「ヤーゴ殿はアビーの知り合いで、ここら一体を束ねるボス猫じゃな。
その知識と風格には頭が下がる思いじゃ」
アビーがさらにその上の大ボスになったことは、まぁ言わんでもよかろう。
ちなみに、今日はアビーとは別行動じゃ。
アビーには残りの『スノーレギン』達の護衛をしてもらっておる。
二度あった襲撃の三度目がないとは限らんからの。
「そ、そう。レイヴァリア様は猫と交流があって、しかも頭下げちゃう感じなのね」
「うむ。良い出会いであった」
「話を戻すけど、対等な力関係ってことは、レイヴァリア様を普通の子供として紹介するってことでいいのよね?」
「お願いできるかの?」
「それはかまわないけど、問題はレイヴァリア様よ。
あなた、普通の子供として振る舞えるの?」
「無論……とは言えんのじゃ。
なにかアドバイスはないかの?」
「そんなの簡単よ。
子供たち相手に、あなたのデタラメな能力を使わなきゃいいの」
「カカカ。なんじゃ、それだけか」
「あのね、その簡単なことができないから友達が一人もいないんじゃないの?
怪我をしてる子がいても治癒魔法を使わないこと。
体の大きな子に意地悪されても殴らないこと。
年上の子が言うことは、絶対服従すること。
あと、奇跡を起こして聖女を誕生させないこと。
できる?」
「なんと、それではまるで普通の子供ではないか」
「あなた自分がなにを言ってるかわかってる?
とにかく、失敗は許されないから。
あなたが一度でもいつもの行動をしたら、二度と対等な関係になんてなれないと思ってちょうだい。
当然友達なんかできないわね。
できるのは敵とあなたの崇拝者よ」
「普通の子供とは、なんとも理不尽な世界で生きておるのじゃな……」
「言っとくけど、大人になっても変わらないから。
意地悪してくるのが貴族や権力者になるってだけで、理不尽なのは同じなの。
さらにいえば、子供の頃と違って、大人になってから、たとえば貴族に逆らったりしたら簡単に命がなくなっちゃうのよ。
場合によっては自分の命だけじゃなくて、大切な人の命もね。
だから子供のうちに、そう言った世間の理不尽に慣れて、我慢や、上手い立ち回りを学ばなきゃいけないの。
それが『普通の人』の『普通の生活』で『普通の人生』なのよ」
「……この先を生きていく自信がなくなってきたのじゃ」
「まぁ『普通の人』には『普通の人』の苦労があるってことね。
なんでもかんでも奇跡の力や腕力で解決できると思ったら大間違いよ」
「ワシには無理な気がしてきたのじゃ」
「私は力になれないからね。
子供には子供の世界があるの。
大人が首突っ込んだら余計にややこしくなるんだから。
――そろそろ、着くわよ。覚悟はいい?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。
まだ心の準備が……」
「いまさらビビってんじゃないわよ。いいから来なさい」
そしてワシは試練の門――孤児院の扉を開いたのじゃった。




