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 49話


 レイヴァリアが『スノーレギンス』の4人からもみくちゃにされている頃。


 ルクセルティア南部のトランスロア地区では、どんよりとした曇り空の下、ロギスとファルトンが『ブラッドハウンド』のパーティーハウスに呼び出されていた。


「ひゅー♪ これがAランク冒険者の住処か。すっげぇな」


 ロギスが眼の前の家を見ながら呑気に言った。


「……そうだな」


 ファルトンは内心で舌打ちしながら言った。

 ロギスのクズと同じ感想なんていいたくないが、たしかに立派な家だった。


 家が建っているこの場所は、トランスロア地区で有数の高給住宅地で、土地代だけでもかなりの額が必要だ。

 Aランクの冒険者になると、この家を買えるほど稼げるのか?

 答えは、NOでありYESである。

 たしかに、Aランクの冒険者になると、クエスト次第で大金を稼げる。

 だが、よほど節約をしない限り、ここまでの家は買えないはずだ。


 ではなぜ豪遊を繰り返す『ブラッドハンド』が、この豪邸に住めているのか?


 それは、この街だけに存在するAランク冒険者特権に関係がある。


 その特権とは——『ルクセルティアではAランク冒険者の居住費の半分をギルドが負担する』である。


 隣でアホ面をしているロギスの横顔を見て、ファルトンは闘志を燃やした。


 ——『ブラッドハウンド』に入るのはこの俺だ。クズのロイズじゃねぇ。


 ファルトンは相棒であるはずのロギスのことを憎んでいた。

 殺したいとすら思っている。


 なぜなのか?

 それは二人の過去に関係があった。


 元々二人は、Cランク冒険者『レッドファング』のメンバーだった。

 メンバーは四人。

 リーダーで盾役のゼイガーはお人好しのいい奴で、魔法使いのシルビアはゼイガーの幼馴染のいい女だった。


 ファルトンはゼイガーに邪な気持ちを抱いていた。

 とはいえ、自分の立場が悪くなるようなバカな真似をするつもりは微塵もなかった。


 なのにあの夜……。


 あるクエストを受けての遠征中ロギスのバカが、シルビアのテントに押し入りやがった。

 ロギスは他の三人の食事に眠り薬を仕込み、ゼイガーとファルトンは深く眠り込んでいた。

 だが魔法耐性、毒耐性を持つシルビアは、不幸にも『行為の最中』に目を覚ましてしまった。

 シルビアの叫びが森の静寂を破る。


 ロギスは止まらなかった。

 いや、止める気はなかった。


 次の日の朝、リーダーであり、シルビアの幼馴染であるゼイガーは、当然ブチギレた。

 だが、その対応が悪かった。

 いや、悪かったどころではない。

 最悪だった。


「今からお前を憲兵に突き出す! 大人しく法の裁きを受けろ、このクズが!」


 ゼイガーはこう言い放ったのだ。


 ゼイガーの言い分は間違っていない。

 だが状況が悪すぎた。

 ゼイガーは薬が残っておりフラフラな状態。

 さらに四人のいる場所は、憲兵や騎士団のいない森の中。


 この後どうなるか。

 そんなこと、子供でもわかることだ。


 ロギスに迷いはなかった。


「じゃあ仕方ねぇな」


「なっ!?」


 ロギスの剣がゼイガーの胸を貫き、大量の血が吹き出した。

 あまりの展開に固まるシルビア。


 次の瞬間、ロギスは何の躊躇いもなくシルビアの杖を奪い取ると、膝でへし折った。


 触媒のない魔法使いは、魔法を使えない。

 どうとでもできる。

 そう。

 どうとでも。


 ファルトンはその時のことを思い出し、今でも夢に見る。

 ゼイガーの断末魔。

 パニックになったシルビアの叫び声。

 そしてロギスの、あの言葉——。


「今からオレと一緒にシルビアで楽しもうぜ。それともオレと殺し合うか?

 ——どうする、ファルトン? チクタクチクタク」


 ファルトンは思う。


 ——俺は悪くない……。俺は悪くないんだ。悪いのは全部ロギスなんだ。俺がシルビアを犯したのも、殺したのも、全部ロギスが……。



 お互いに弱みを握っている今の状況では、身動きができない。


 だからこそ『ブラッドハウンド』に入る。

 そしてAランクの冒険者になる。

 そうすればAランク冒険者の『不逮捕特権』で、忘れたい過去をウヤムヤにできるかもしれない。


 ファルトンは改めて心に誓う。


 ——俺はAランク冒険者になる。たとえどんな手を使っても。

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