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 48話


「賭けの内容を変えたじゃと?」


 ヴィオラの言葉に耳を疑った。


「な、なによ! だってしょうがないじゃない! 元の条件じゃ私達にメリットがないんだし、2000万ZLくらい当然でしょ!——シッ!」


 槍戟を繰り出しながら、ヴィオラが言った。

 ワシは大人姿でヴィオラの攻撃を躱しながら考えた。


 まずい。

 これはよくない状況じゃ。


 たしかに、元の条件はヴィオラ達に利はない。

 逆に、ガルヴァン達にとってはデメリットはなく、メリットだけじゃった。


 勝っても『ブラッドハウンド』の連中がギルドに残るだけ。

 負ければ『スノーレギンス』の4人が『ブラッドハウンド』の言うことをなんでも聞く。


 ヴィオラの言う通り、これでは『スノーレギンス』にメリットが皆無じゃ。


 じゃが、それはワシが敢えてそうしたからじゃ。


 なぜか?

 ガルヴァン等の性分からして、リスクを負う勝負をまともに受けるとは思えなかったからじゃ。

 ああいったタイプは、負けられない勝負になると、搦手を使ってくる。

 必ずじゃ。

 追い込まれると、どんな卑怯な手でも使ってくる。

 そうなることだけは、避けたかったのじゃ。


 危険を極力排除し、『スノーレギンス』を負けられない状況へ追い込み、修行の効果を最大限に上げる。

 それがワシの狙いだったのじゃ。

 だから、『フレイムゴーレム』の討伐を他の冒険者に秘密にさせて、他の高難度クエストもコッソリと受けるように言っておいたのじゃ。


 勝負の世界の汚い部分を、ヴィオラ達はまだ知らない。

 圧倒的に経験が足りないのじゃ。

 真剣勝負の世界では、命乞いをしていた相手が次の瞬間に背中を刺してくるなど、日常茶飯事なのじゃ。

 ワシか?

 ワシは前世で魔族相手に、嫌と言うほど経験しておる。


 ——2000万ZLか……。


 考えると、腹が立ってきた。


 ワシからすればたったの2000万じゃ。

 かわいい弟子を危険にさらすには安すぎる金額じゃ。


 このバカ娘どもが。

 ワシの言いつけを破り、はした金に目がくらみおって。


「ぐぇっ」


 ワシのケリをまともに腹に受け、ヴィオラが吹っ飛ぶ。

 おっといかん。

 怒りでつい力が入って……いや待てよ。


 ふむ。

 ついでに、他のバカ共にも少しお灸を据えてやるか。


「ふぎゃっ!」

「ぶへぇっ!」

「ぶふぉっ!」


 イリス、セレーヌ、リリエットが仲良く吹っ飛んでいく。


 地面でのたうち回る4人を見下ろし、ワシは言った。


「このタワケめが! ワシの決めたことを勝手に変えおって! 

 2000万ZLじゃと!? そんなに金が欲しいのか! 

 お主たちの夢はなんじゃ! 

 金で買える程度の安いものなのか! 

 そんな夢なら捨ててしまえ!」


 ワシの言葉が心に届いたのか、4人はよろよろと立ち上がり、ワシの前に跪いた。


「申し訳ありません……レイヴァリア様」

「あいつらだけ得してるみたいで悔しかったんだし……ごめんなさい、レイっち様……」

「た、たしかに軽率でした。あ、あとお金も欲しかったんですぅ。お許しください、レイちゃん様……」

「ああ、わたくしはなんと愚かなことを……。崇高なるレイヴァリア大師匠様の言いつけに背き、欲に振り回されるなど……大変申し訳ありませんでした! もういっそ殺してくださいまし!」


 4人の瞳に嘘はない。

 どうやら心から反省しておるようじゃな……。


「わかったのならもうよい。

 それに、ワシも悪かったのじゃ。

 最初から、お主たちの気持ちを考えるべきじゃった。

 すまなかった、ヴィオラよ、イリスよ、セレーヌよ、リリエットよ」


 ワシは、弟子たちの頭を順番に撫でていき、こっそり治癒魔法をかけておいた。 

 最初こそめんどうでしかなかったのじゃが、今ではこの娘達がかわいくて仕方ない。


 『ブラッドハウンド』がどうでるかわからぬが、やってしまったことは仕方あるまい。


 なにか起こる前に、ワシが全力で守って……ん?


 なにやら弟子たちが、まるで生まれたばかりのクレイドリンクのような、うるうるした瞳でワシを見つめておる。


 あーこれはあれか。

 いつものパターンじゃな……。


「レイヴァリア様!」

「レイっち様!」

「レイちゃん様ぁ!」

「レイヴァリア師匠ぉ!」


 予想通りに、4人が一斉に抱きついてきた。


「なによ! いつもいつも、いきなり優しくしてきて! こんなの好きになっちゃうしかないじゃない!」

「鬼のときと、女神のときのギャップがすごすぎるし! マジ萌える! マジ女神! マジ愛してる!」

「お、大人バージョンのレイっち様にやさしくされると、胸が熱くなるんですぅ! この胸の高まり、どうしてくれるんですかぁ!」

「あぁレイヴァリア師匠……わたくしのレイヴァリア師匠……クンクンクン……なんていい匂いなのでしょう。もう死んでも構いませんわ! いっそ殺してくださいます!?」



 ワシは抵抗することなく、バカ弟子どもの好きにさせた。

 な?

 かわいいじゃろ?


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