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 38話


 村まであと数百メルじゃな。


 ワシ達は林の中を歩いておった。

 前を行くヴィオラ達四人に、ワシとシスター・ルシェルが続く。


「しかし、腹が立つな」


 ヴィオラが誰へともなし、言った。


「わかるし。ウチもそう思うし」


 イリスがヴィオラの肩に手を置き、うんうんと頷いた。


「で、でも村の人には関係ないし、これでよかったんだよ」


 セレーヌが、ねっねっ、とヴィオラやイリスを宥めるように言った。


「わたくし達はレイヴァリア師匠の思し召すままに動けばいいのですわ。たしかにムカムカしますけれど……」


 リリエットが口元を歪めながら言った。


 ん?

 なにを怒っておるのじゃ?

 ワシはヴィオラ達の背中を追いながら、隣のシスター・ルシェルに声をかけた。


「ルシェル殿よ。彼女らがなにを話してるのかわかるか?」


 するとシスター・ルシェルが驚いた顔になった。


「えっと、おそらく、というか、間違いなく村長のことだと思うんですけど」


 え?なんでそんなことも分からないの?って顔をされてしまった。

 実際わからなかったワシは普通ではないのじゃろうか?


「村長のなにがムカつくのじゃ?」


 ワシらの声を聞いたのか、ヴィオラが後ろを振り向いた。


「そうよ!レイヴァリア様は悔しくないの?300万ZLの報酬を50万ZLに値切るだなんて、前代未聞だわ!」


 イリス、セレーヌ、リリエットもワシに顔を向け憤慨した。


「たぶん、差額の……えっと、大金は村長が懐にいれると思うし。あー!やっぱり超ムカつくし!」


「に、250万ZLだよ、イリスちゃん。は、腹が立つのは、わ、わたしもだけど、ギデオンさんに報告したら、どうかな?ギルドマスターなら、なんとかしてくれるんじゃないかな?」


「オススメできませんわね。ギルドに報告となると、ペナルティーを負うのは、この村の方達ですわ。契約違反により、今後イースティア村の依頼は受け付けてもらえなくなりますわ……」


 ああ、なるほど。

 ヴィオラ達からしたら、たしかに腹が立つじゃろうな。

 この件で既にスッキリしていたワシは、ようやく彼女らの言い分を理解した。


「私からしたら、どうしてレイヴァリア様が平然としているのか不思議なんだけど?」


「レイっち様は悔しくないし?あんな奴の言いなりになって」


「ま、まぁまぁ。この件についてはいいじゃない。レイちゃん様が回収してくれた素材を売れば、300万ZL以上になるだろうし」


「甘いですわよ、セレーヌさん。フレイムゴーレムの体には貴重な鉱石——金、銀はもちろん、金剛石や紅玉や翠玉や黄玉、それにオリハルコンがふんだんに含まれていましたわ。あれだけの量を売れば1000万ZLは下りませんわ」


「「「1000万ZL!!」」」



 ヴィオラ、イリス、セレーヌが目を丸くさせた。

 ほう。

 そんなに高く売れるのか。

 勘違いさせたままじゃと忍びないので、今のうちにはっきり言っておくか。


「お主たち、たしかにワシは素材を回収したが、それは村に渡すためじゃぞ?」


 訪れる沈黙。

 そして——


「「「「えぇぇぇぇっ!?」」」」


 今日何度目かわからぬ絶叫が響くのじゃった。


「当たり前じゃろう。フレイムゴーレムや魔石トカゲや鉱蟲の体は、もともと鉱山の石からできておるのじゃ。じゃから正確に言うと、渡すのではなく、本来の持ち主へ返すわけじゃな」


「で、でもレイヴァリア様……そうすると私達へ渡すってお金はどうするのよ?」


「てっきり、素材を売ったお金をウチたちに分けてくれるんだって思ってたし」


「れ、レイちゃん様の貯金は5万ZLだよね?」


「もちろんわたくし達は、レイヴァリア師匠に無理をさせてまで受け取ろうとは思いませんけど、なにか考えがお有りですの?」


「特に考えておらぬが、大丈夫じゃろ。正しい行いをしたものには、正当な対価を、悪しき行いをしたものには、相応の罰が与えられる。世の中は得てしてそういうものじゃ。そうじゃろう、ルシェル殿?」


 ワシはシスター・ルシェルにウィンクをしてみせた。

 シスター・ルシェルは驚いたような、泣き出しそうな、なんとも言えない顔をした。


「そうだといいんですけど……」


 ‡




 村へ到着するなり、駆け寄る人影があった。


「みな無事だったか!」


 鉱山組合の組合長、ゴルム殿じゃ。


「お嬢ちゃんに言われたことを考えて、あれからオレは反省したんだ。たった50万ZLで危険な依頼を頼むのは、たしかにどうかしてるってな」


「あ、あの、ゴルムさん?」


「シスターもすまなかったな。まずはゆっくり休んでくれ。もしあんた達に文句を言うやつがいたらオレに言ってくれ。そいつらにガツンと言ってやる」


「えっと、依頼は完了したんです、ゴルムさん」


「だから依頼を放棄したことは気にしなくて……ん?」


「だーかーらー!フレイムゴーレムの討伐は完了したんですよ、ゴルムさん!——レイヴァリアさん、お願いします」


「うむ。——《無限収納》」


 突如現れる巨大な岩、フレイムゴーレムの頭部じゃ。


「うぉっ!こ、これは!?」


 ゴルム殿が腰を抜かす。


「村の主だった者を集めてもらえるか?少し話をしよう」


 ワシが言うと、ゴルム殿はブンブンと首を縦に振る。


 さて。

 まずは村長に報告じゃな。

 ワシラの顔を見て、どのような反応をするか楽しみじゃ。

 カカ。



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