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 35話


「ゴォォォォォッ!!!」


 フレイムゴーレムが雄叫びを上げた。

 ようやく戦闘体制に入ったか、この間抜けめ。


 ズシンズシンと地面を揺らしながら、ワシを目掛けて走り出す。


「な、なによあれ……」

「無理無理無理無理!あんなの勝てるわけないし!」

「わ、わたしの盾じゃ、なんの役にも立たないです」

「レイヴァリアさん!どうして動かないのです!早くお逃げなさい!」


 ヴィオラ達が慌てるが、ワシは動かない。


「ゴワァァッ!!」


 フレイムゴーレムが燃え盛る拳を放つ。

 ワシはそれを見ながら、欠伸を噛み殺した。


「なんじゃ、このトロい攻撃は……。これなら目を瞑っても避けられるぞ」


 誇張でも、ハッタリでもない。

 実際に止まって見えた。


 大きさも、前情報では20メルと聞いておったが、見たところせいぜい10メルじゃろう。


 魔力も小粒じゃし、なにより戦闘のセンスが皆無じゃ。

 ワシのような怪しい敵には、初手遠距離攻撃が定石じゃろう。

 ぬるい環境で育つと、こんなにも間抜けになるものなのか。


 ワシはノロノロと迫り来る岩拳を左拳で受け入れた。


 ゴバンッ!!


 フレイムゴーレムの右腕が根本まで砕け散る。

 は?

 なんと根性のない拳なのじゃ。


「ゴワァァァッ!!」


 失った腕の根本を抑え、ゴーレムが後ずさる。


 なんじゃこいつは。

 弱すぎじゃろ?


 あまりに弱すぎて、予定が狂ってしまったわい。


 本来ならば、ゴーレムの拳を、気をまとったワシの拳で止めるだけのはずじゃった。

 まさか、ここまで脆いとは。


 ワシを警戒してか、フレイムゴーレムが動きを止める。

 まさかの戦闘放棄である。


 はぁ。

 仕方ない。予定変更じゃ。


 ワシは神気を消し、両腕をダラリと下げた。

 さぁ、これで怖くないじゃろ?


 現金なもので、ゴーレムは再び戦闘モードに入った。


 ガガガガガッ!


 失った腕がゆっくりと再生していく。


 どうして相手が準備するのを突っ立って待たねばならんのか、と間抜けな自分の姿にイライラしながらワシは待った。

 ここまでのやり取りで、20回は殺せておる。


 それほどまでに、この魔物は弱すぎて、未熟すぎた。


「ガァァァァッ!!」


 ようやく準備の整った巨岩が、再び失笑の拳を繰り出す。


 ワシは無抵抗でそれを受けた。


 調子に乗ったゴーレムが次々に拳を放つ。


 ガンッ!ガンッ!ガンッ!


 土埃が舞い、視界がゼロになり、衝撃波にも似た轟音が響き渡る。


「レイヴァリア!」

「レイっち!」

「レイちゃん!」

「レイヴァリアさん!」


 おっと、いかんな。

 一部始終をヴィオラ達に見せねばならぬというのに土埃が邪魔じゃな。


 ワシは殴られながら、一瞬だけ神気を解放して、土埃を吹き飛ばした。


 視界がクリアになったのを確認すると、殴られながら後ろを振り向いて、ヴィオラ達に向けて叫んだ。


「己の魔力を変換し、操作を極めれば、このように攻撃を正面から受けることもできる!――さらに!」


 ワシは地面を蹴って、ゴーレムの足元へ跳んだ。

 燃え盛る岩の足を、ガン、ガンと両足ともに蹴り飛ばす。


「ゴワァッ!!」


 ゆっくりと後ろに倒れるゴーレムを、真下に立ち、持ち上げた。


「全身に巡らせた魔力で身体を防護し、強化することも可能じゃ!――さらに!」


 ワシは持ち上げたゴーレムを投げ飛ばした。


 ズーーーンッ!!


 30メルほど飛ぶと、ゴーレムは頭から地面に激突した。


「変換した魔力を武器に流し込むと、こんなことも出来る!」


 ワシは右腕に握った剣――神器アビーに魔力を流し込んだ。

 魔力が刀身を覆い、巨大な剣へと変貌する。

 まぁ、わかりやすいように魔力に色をつけておるのじゃがな。


「はっ!」


 ワシは大ジャンプをして、巨大化した剣を、立ち上がるゴーレムに叩きつけた。


「ゴワァァァッ!?」


 ゴーレムの右腕が切り飛ばされた。


 我ながら、なんとわざとらしい演出じゃ。

 普段ならこんな隙だらけでみっともない攻撃は絶対にしないのじゃが、今回はあくまで戦闘指導じゃ。

 なので、わかりやすさを優先したわけじゃな。



「そして、最後に!」


 ワシは魔力を操作し、空中に集め、変換し、圧縮した。

 ワシの周りに、巨大な氷のランスが10本現れる。


「体内の魔力量を増やし、一属性に特化して、操作を学めば、このような攻撃もできる!――はっ!」


 ワシが芝居じみた掛け声をかけると、一本の氷の槍が音を残して放たれた。


 ガギンッ!


 槍が貫き、フレイムゴーレムの左腕が落ちる。


「はっ!とりゃ!せぃっ!ほっ!」


 恥ずかしい掛け声と共に、槍が一本、また一本と飛んでいく。

 これも演出の一環じゃな。


 ガギンッ!ガギンッ!ガギンッ!ガギンッ!


 次々に放たれる矢は、ゴーレムの体を貫き、砕き、巨大な岩の体を削っていく。


「これでトドメじゃ!――はぁっ!」


 ワシは最後の矢を放つと、ヴィオラ達の元へ瞬時に移動して《結界》を解いた。


 額に大穴を開けたゴーレムの瞳が次第に色を失っていき、やがて全身の炎と共に熱をなくしていった。


「ゴ……ゴァ……」


 断末魔の声と共に、ゆっくりと体が傾いていき、


 ズーンッ!!


 大きな揺れとともに、地面に倒れ落ちた。


「と、まぁこんな感じじゃな。どうじゃ? 少しは見直したかのう?」


 ヴィオラ達はポカンと口を開けたまま、まるで死んだゴーレムのように固まっていた。


 はて。

 少し刺激が強すぎたかのう。


 


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