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「今回の食事はまぁまぁじゃったな。さて、片付けが終わり次第、出発じゃ」
「相変わらず偉そうで腹立つわね。っていうか、なんで全身からちょっといい匂いさせてるのよ? 顔も髪も小綺麗なままだし。昨日と違う服着てるし」
なるほど、ヴィオラ達は昨日より少し薄汚れておる。
「カカカ。それは乙女の秘密じゃよ。ほれ、さっさと準備するがよい。今日はやることがてんこ盛りじゃぞ?」
「そう思ってんのなら、あんたも手伝いなさいよ!」
「嫌じゃが?ほれ、口よりも手を動かすのじゃ」
ブツクサ言いながら、四人とシスターが片づけと準備をする。
準備が終わると、まとめた荷物を《無限収納》に入れ、すぐに出発した。
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坑道の入り口に着くと、シスターが祈りを捧げた。
「ご武運を。皆様に女神アウレリア様の加護がありますように。ルーメン」
シスターとはここまで。
ワシとヴィオラ達はそのまま坑道に入っていく。
「あんた、なに普通に歩いてんのよ?」
「せめて武器を持つし」
「そ、そうだよ!人のいない洞窟は魔物達の溜まり場になるんだから!」
「……でも、魔物の気配はしませんわね?」
昨日の旅装束と違い、ヴィオラ達は各々が装備を固めておる。
全員が緊張した面持ちじゃった。
「……どうして魔道ランプが点いてるのかしら?」
ヴィオラの言う通り、坑道には10メル間隔で魔道ランプが明かりを灯している。
地面中央に走っているトロッコ用の線路がくっきりと見える。
通常の魔石ならば、魔道ランプだと二週間ほどで魔力が切れる。
「うむ、不思議なこともあるものじゃ」
魔道ランプに魔力を注いだのはワシじゃがな。
無言で進む。
ピチャン、ピチャン。
しっとりとした空気に、天井から落ちる水滴の音。
奥へ進むにつれ、足元に落ちている魔物の死体が増えてくる。
「……なんか魔物の死体が多くない?」
「魔物同士で争った、ってことなら、じゃあ残った魔物はどこって話だし」
「あ、あの。死んでる魔物を調べたんだけど、傷がどこにもないの……」
「魔力の残滓も見当たりませんわ。毒の反応もありませんし、不気味ですわね」
「うむ、不思議なこともあるものじゃ」
やったのはワシじゃがな。
今回の目的は、あくまでフレイムゴーレムじゃ。
なので、他の細々した魔物は昨晩のうちに片付けておいた。
万一にも、ヴィオラ達に怪我をさせるわけにもいかんからな。
無意味な討伐は主義に反するが、少しでも意味があるなら躊躇せぬ。
我ながら過保護じゃと思うがな。
歩き始めて、約一刻。
当初大人両手2人分だった道幅が、今では大人5人分まで広がっている。
これはゴーレムがいる証で、ゴーレムが自身に快適な空間を魔力で作り出しているのだ。
魔力による空間の歪みじゃな。
「道が大分広くなってきたわね」
「そろそろってことじゃろう」
それから少し歩くと、ワシ達は巨大なドーム状の広場に到着した。
広さは半径100メルほど、高さは30メルほどじゃな。
天敵がいないからといって、ここまで調子に乗って巣を広げるとはな。
ドームの中央に燃え盛る巨大な岩が一つ。
炎のおかげなのか、視界に困ることはない。
「あいつが……」
「フレイムゴーレムだし……」
「むむむ、無理です、あんなの!か、勝てっこないです!」
「圧巻……ですわね。他の冒険者が諦めたって話も納得ですわ」
「お主達はそこから動くでないぞ?――《結界》」
ワシはドームの入り口に障壁を張った。
あの程度のフレイムゴーレムではビクともしない代物じゃ。
「な、なによ、これ!」
「レイっち!これじゃ援護できないし!」
「わ、わたしも戦うよ!こ、怖いけど、戦うから!」
「レイヴァリアさん!この障壁を外してくださいまし!」
「お主らはそこで見ておるのじゃ。一瞬たりとも見逃すでないぞ?――アビー!」
「にゃ!」
アビーがジャンプすると、空中でくるりと回転し、一振りの剣となった。
ワシは神器アビゲイルとなったアビーの柄を握ると、巨大な炎岩へ向けて歩を進めた。
「猫が剣になった!?」
「へ?どう言うことだし!」
「あ、アビーちゃんが剣になったの!?」
「まさか……魔剣、いえ、あの神聖なる光は……『聖剣』……?」
元々は素手で戦う予定じゃった。
だが、自分もいいところを見せたいっすと、アビーが駄々をこねたので、共同戦線になったというわけじゃ。
20メルの距離までワシが近づくと、燃える岩が動き出した。
ワシは立ち止まり、待った。
やがて巨岩が立ち上がり、人を模した形となる。
赤く燃え上がる双眸が、ワシを視認して困惑の色を浮かべる。
ふむ。
鈍いやつじゃ。
では、これならどうじゃ?
ワシは神気を少しだけ解放した。
大量の土埃がワシを中心に広がっていく。
巨岩の空気が変わる。
ようやく気づいたか。
ワシがお主を殺すつもりじゃと




