26 お弁当を持って
26話
ゴーンゴーンと2鐘が鳴るとほぼ同時刻。
待ち合わせ場所の空き地へ到着した。
さすがワシ。
ギリギリ間に合ったようじゃな。
不機嫌そうな4人娘が待っておったので、ワシは爽やかに挨拶をした。
「おはよう、小娘共。ワシの分の食料は買ってきたじゃろうな?」
ごく普通の挨拶じゃな。
「「「「へ?」」」」
4人が間の抜けた声を出しおった。
「あんた、なんで手ぶらなのよ?それにその格好……」
ヴィオラがキレ気味で言った。
「めっちゃナメた格好してんじゃん?ウケる」
「あれぇ?もしかして、行くの、わ、わたし達だけ?」
「そんなかわいい格好で来られましても、ねぇ?」
弓娘、盾娘、杖娘は三様の対応じゃった。
かわいい格好、か。
カカカ。
杖娘め、なかなか見る目のある奴じゃ。
この膨らんだスカートは、ワシのお気に入りトップ10に入る代物じゃ。
じゃが、けしからんな。
人間としての基本がなっておらん。
「小娘共よ。普通は、まず挨拶じゃぞ?人間関係の基本は挨拶なのじゃ。——それに手ぶらではない、ホレ」
手に持った小袋を掲げてみせた。
「——一応聞くけど、なにそれ?」
「宿屋『猫の尻尾亭』の名コック、ゴウ殿特製ウマウマ弁当じゃ。愛情と栄養がたっぷり詰まった究極の弁当じゃぞ? もちろんアビーの分も入っておる」
「にゃんにゃん♪」
ワシとアビーは、満面の得意顔で自慢してやった。
知っておるぞ。
今日の弁当には、なんとワシの大好物の旨味たっぷりチキンソテーが入っておるのだ!
今からヨダレが止まらんわい。
「……あのねぇ、あんた、私達の格好見て、なんとも思わない?」
「ん?」
言われてよく見ると、4人全員が巨大な荷を背負っておった。
特に巨漢盾娘の荷の量は、ワシが5人は入るのではなかろうか。
「3日分の旅装にしては多いのう」
「10日分よ!」
「3日分でよいといったじゃろ?」
「んなわけにはいかないでしょ!イースティア村まで片道3日!つまり往復6日かかるのよ?」
「ふむ。説明が面倒じゃな。——小娘共よ、荷を下ろして一箇所にまとめるが良い」
「なんなのよ、いったい……ブツブツ」
小娘共はブツクサ言いながら、ワシの前に大荷物を置いた。
「置いたわよ。で、どうすん——」
「——《無限収納》」
ワシがそう呟いた瞬間、大量の荷物が地面から消え去った。
「「「「はい?」」」」
小娘共の反応がいちいち面白いが、時間がないでのう。
「《転移》」
問いも許さず、一瞬でその場を移動した。
‡
次の瞬間、ワシの眼の前に知った顔があった。
「——は?」
「久しぶりじゃのう。ハンス殿」
初日に世話になった門番の男——ハンス殿じゃ。
「な、な、な、な!?」
「これこれ、落ち着くが良い、まずは深呼吸じゃ。ホレ、スーハースーハー」
ハンス殿が深呼吸をしていると、ワシの後ろがワーワーキャーキャーとやたらうるさい。
「へ?こ、ここって……塀の外だよね?」
「はは、ウチってまだ寝てるんだ。変な夢ー。超ウケる」
「こ、ここって……北門ですか?」
「空間……転移!?魔法陣なしで!?ホホホ……こんなのありえませんわ!」
「呆けてる時間はないぞ?——アビー!」
「にゃー!」
ボンッ。
一瞬でアビーが変化する。
今までで一番の大きさじゃ。
ピョンとアビーに飛び乗り、あんぐりと口を開ける4人娘に言った。
「さっさと乗るがよい。グズグズしておったら、アビーが咥えて運ぶことになるぞ?」
「「「「は、はい!」」」」
妙に素直な返事のあと、小娘共は慌ててアビーによじ登った。
「では、ハンス殿。これにて失礼するのじゃ。——ゆけ、アビー」
「にゃっ!」
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」」」」
小娘共の絶叫を残して、ワシ達はハンス殿の職場を風のように走り去った。




