24 いい機会
24話
「わ、わたし達をどうしようっていうのよ!」
「まぁそれは追々——」
「ギデオンさん、大変です!」
部屋に飛び込んできたのは、受付嬢のミレーヌ殿じゃった。
「会議中だぞ。どうした?」
「と、とにかく来てください」
ミレーヌの切羽詰まった様子に、ギデオンがワシの顔をうかがう。
まぁよいじゃろ。
話は終わったも同然じゃしな。
「行ってやるがよい」
ヴィオラが何か言いたげじゃったが、約束通り口を閉ざした。
仕方なかろう。
ギデオンめ。こやつは年端もいかぬセレナ殿の無謀も止めず、『ブラッドハウンド』とやらの暴挙も野放しにしておった男じゃ。
事情はどうであれ、敬意を払う理由がない。
「申し訳ない。——では」
ギデオンがミレーヌ殿を追って出ていった。
面白そうじゃな。ワシもついていくか。
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「か、考え直してください!ガルヴァンさんたちに抜けられたら、このギルドは潰れてしまいます!」
ミレーヌ殿が話しかけているのは『ブラッドハウンド』の大斧男じゃった。
なるほど。
先の件での懲罰が気に入らぬと。
「だとさ。——どうする、お前たち?」
大斧の男——ガルヴァンは厭らしい笑みを浮かべ、後ろの男二人に話しかけた。
「いまさら泣きついてきても遅ぇんだよ、オレ達を軽く見たこと見やがって。せいぜい後悔しろ、間抜け供」
クロスボウを持った男が憎々しげに吐き捨てた。
「これまで貢献してやった恩を仇で返されたんだ。——そうだな、とりあえず土下座してもらおう」
大剣を背負った大男がギデオンを見ながら言った。
「……土下座すれば、残ってもらえるのか?」
「考えてやろう。——なぁお前たち」
ガルヴァンの言葉に、二人が頷く。
「そうか……」
ギデオンは膝を床につき、両手をガルヴァンの足元に置き、頭を下げた。
「ギデオンさん!」
止めようするミレーヌを、エルミナが制止した。
スノーレギンスの四人は、怒りに満ちた表情で状況を見つめている。
力では解決できないってことを、エルミナ殿と小娘達は理解しておるのじゃな。
「どうか……どうか、このギルドに残り、私達に力を貸してもらえないだろうか?」
ギデオンはクズ男達に見えぬところで、歯を食いしばっておった。
ほう。
プライドを捨てて、頭を下げるのか。
なんのために?
おそらく、ギルドで働く職員のため、そして力無き市民のために、じゃな。
ふん。
気に入らん。
なにかよくわからんが、とにかく気に入らん。
「おいおい、『どうか、お願いします、ガルヴァン様』だろ?」
ガルヴァンは土下座するギデオンの頭を踏みつけた。ワシの我慢はここまでじゃった。
「足を降ろすがよい」
ガルヴァンが、声の主——ワシを見た。
「あ?なんだって?」
「その汚い足を降ろせと言ったのじゃ、クズが。——シッ」
ガルヴァンの顔面に高速の回し蹴りを放つ。
ガンッ!
ワシの蹴りは、大斧に防がれ、ガルヴァンは2メルほど飛ばされ、踏みとどまった。
やるな。
手加減したとは言え、気絶させるつもりだったのじゃがな。
「なにしやがる!」
「カカカ。すまんすまん。お主同様、ワシも足癖が悪くてのう」
「——いいのか、そんな態度を取って?俺達は別にここを辞めても構わないんだぜ?」
「そのことじゃがな。一つ賭けをせんか?」
「賭けだと?」
「一月じゃ。来月の今日、お主達と試合をして、こちらが勝てば、このままお主らがギルドに残り、今まで通り依頼をこなしてもらう」
「は?お前一人で俺達と戦うってことか?」
「いや、戦うのはワシじゃない」
後ろを指さして、言った。
「戦うのは『スノーレギンス』じゃ。勝負方法は勝ち抜き方式。お主らが勝てばワシ等全員をお主らの好きにするがよい」
一瞬の沈黙、そして——
「「「ギャハハハハハ!!」」」
クズ男共が爆笑した。
「その小娘たちが俺達と?ハッハッハーッ!そいつらの事知ってんのか?その小娘共はBランクとは名ばかりのゴミクエスト拾いだぞ?」
「好きにするばいいって、スノーレギンスの四人とお前ってことか?頭大丈夫か?」
「撤回するなら今のウチだぞ?」
「ふむ、言いたいことは、それだけ—」
さてこれから煽ろうとしたところで、何者かの手によっ止められた。
「な、なに考えてんのよ、あんた!」
手の主——絶賛反抗期な娘、ヴィオラがワシの耳元で、ヒソヒソと言った。
「なんじゃ?自信がないのか?」
「あるわけないでしょ!?」
「情けないことを言うでない。奴らもお主らも、同じBランクではないか」
「あのね、今はどっちもBランクだけど、内容がぜんぜん違うのよ!あいつ等の言う通り、私達は細かいクエストを数こなして、温情でBランクになっただけなの!元Aランクのあいつらとは違うのよ!あいつ等みたいに大物クエストをいくつも達成したわけじゃないの!」
「ほう。つまり、戦わずして白旗を振ると?」
「……そうよ。だって勝てるわけないもの」
「なるほどのう」
「わかってくれた?とにかく、勝負なんてできないから!」
「――で、話はまとまったのか?」
斧男のニヤケ顔に、笑顔で言った。
「言った通り、勝負は来月の今日じゃ。せいぜい首を洗って待っているが良い」




