10 普通にキモい
10話
「なんじゃ?相手はたった一匹か。四匹同時でもかまわんぞ?」
「いくらなんでもそれは認められん。それで君の武器はどうするんだ?」
ギルドマスターのギデオンとやらが、無粋なことを言った。
「む?武器が必要かの?」
あやつらレベルに武器を使うまでもないと思うのじゃが。
「武器の熟練度を見るためでもあるからな。
これは君の試験だということを忘れないでくれ」
いかつい顔の割に、細かいことを気にする男じゃ
じゃが、それが普通というならば、従うしかあるまい。
かといって、ワシの愛剣であるアビゲイルは猫姿じゃしな。
ワシはキョロキョロと見回すと、闘技場の隅に丁度よいもの見つけ、テクテク歩いていき、置いてあった木剣を手に取った。
「木剣?相手は真剣だぞ? 本当にそれで良いのか?」
「十分じゃ。ワシの相手はどの猿じゃ?」
「俺だ」
それだけ言って前へ出たのは細身の猿じゃった。
キザったらしく前髪を片側だけ垂らしてるのが普通にキモい。
ん?
此奴が持つ剣は——
「お主、もしや剣に操られておるのか?」
ワシの言葉にキモ男は二チャリと笑った。
うむ。
笑い方もキモい。
「この剣に気付くとは、やるなお前。だが間違ってるぞ?
剣に操られているのではない。
俺がこの剣を支配しているのだ。
この魔剣ブラックヴェイルをな、キヒヒヒ」
なるほど。
キモ男の言うことはある意味正しい。
まるで剣がキモ男の体の一部であるように邪気が融合しておる。
つまり操られるのも同意上なのじゃな。
じゃが、こいつこそ間違っておる。
あれは魔剣ではない。
呪剣じゃ。
呪いが意思を持ち、持ち主に代償を強いるキモい呪いを纏う武器じゃ。
キモ男の病的な細身は、そういうことなのじゃろう。
持ち主のキモ男と同じで、ワシの嫌いなタイプじゃな。
ある意味お似合いのコンビじゃ。
ベストキモカップルじゃ。
「俺はお前みたいなキレイなガキをいたぶるのが大好きなんだ。簡単に降参するなよ?お前の顔を傷だらけにするまではな。キヒヒヒ」
その言葉にワシは眉をひそめ、密かに半身の能力を使った。
「子供を——斬ったのか? その剣で」
《半神の告解》――これでキモ男は、ワシの前で嘘をつけない。
「いいや? そんなもったいないことはしないさ。動かなくなるまで殴り続けるだけだ。
声が出なくなるまでな。
今まで何人も殴り殺してきたが、一度もバレたことはないんだぜ?ヒヒヒヒ」
「なっ!?」
突然の罪の自白に、ギデオンが前へ出ようとする。
じゃが、エルミナ殿によって止められた。
「もうよい。黙れ。それ以上口を開くな、ゲスめが。
——ギデオンとやら、さっさと試験を始めるがいい」
これ以上こやつの言葉を聞きたくない。
セレナ殿の耳を汚したくないしの。
軽く撫でてやるつもりだったが、予定変更じゃ。
こやつには、ちと痛い目を見てもらおう。
「し、試験者ダリス・スレイド、受験者レイヴァリア——両者前へ。——それでは試験開始!」
「死ねぇ!」
開始の合図と同時、ダリスと呼ばれたキモ男は2メルほど跳躍した。
——アホかこいつは。
いきなり地の利を放してなんとする。
しかも狙いがバレバレじゃ。
ワシは、キモ男の狙う左腕を、あえて横に広げた。
ほれ。
これで斬りやすくなったじゃろ。
「馬鹿め!その腕もらった!」
やらんが?
ワシは振り下ろされるキモい剣を木剣で軽く薙ぎ払った。
パキャン。
弾き飛ばすだけのつもりが、キモ剣が根本から折れおった。
なんと根性のない剣じゃ。
信じられないという風に目を見開くキモ男が着地する寸前、ワシは木剣を真下から振り上げた。
グチャ。
剣先からキモい感触が伝わってきた。
ワシはキモ男の股間に食い込んだ木剣を戻すと、キモ男が苦悶の表情を浮かべたのをたっぷりと鑑賞してから、顎を拳で打ち抜いた。
この間1秒足らずか。
こやつ、ワシを見て股間を膨らませておったからな。
つまりそういう趣味なのじゃろ。
女神殿から指令に『子作り』とあるのじゃが、こいつみたいなやつはお断りじゃ。
キモ男に背を向け、元いた場所へ二歩ほど進むと、後ろからキモ男の倒れる音が聞こえた。
呆然とするセレナ殿と、なぜか険しい顔のエルミナ殿の元へ戻った。
キモ男の方を見ると、なんと失禁して泡を吹いておった。
カカカ。
最高にキモくて、最高に笑えるわい。




