第9話 懸賞金
帝都セレニャール。
皇太子宮殿。
リュシアンは苛立った様子で、窓の外を睨みつけていた。
「くそ……まだ見つからないのか……」
背後から、ヴィオラが静かに近づく。
「リュシアン様」
「ヴィオラか」
振り返ったリュシアンが問いかける。
「何か策はあるのか?」
「ええ」
ヴィオラが、妖艶に微笑む。
「セリナは、おそらく変装しています」
「変装……?」
「あの女も馬鹿ではありません。
いつまでもあの目立つ桃髪のままではないでしょう。
今の手配書では見つけられない可能性があります」
ヴィオラが端末を操作し、画面に映像を映す。
そこに映ったのは――ソフィ。
「侍女のソフィは、どうでしょう?」
リュシアンが目を細める。
「……なるほど」
「セリナは、この侍女をとても大事にしています。
ソフィを捕まえれば、セリナも罠に落ちるでしょう」
そして――決定的な提案。
「裏社会に懸賞金を流しましょう。
陛下が判決を保留にしていますから、正式な指名手配は出せません。
ですが裏社会なら――金さえ積めば動きます」
リュシアンが頷く。
「いくらだ?」
「セリナに千万ニャーラ。
ソフィに五百万ニャーラ」
「高いな……」
「でも、確実です」
ヴィオラが薄く笑う。
「賞金稼ぎたちが、血眼になって探しますわ」
リュシアンは、決断した。
「……分かった。やれ」
「かしこまりました」
・ ・ ・
中継惑星ヴェルニャを出発して五日後。
巨大ガス惑星ニャルーレンの衛星――
熱帯惑星ニャルーレンⅣに立ち寄った。
「ここを越えると、しばらく補給地点がない。
念のためここで食料を補給する」
ユーリが説明する。
「セリナ、お前は船に残れ」
「え……でも……」
「髪型を変えても目立つ。
俺たちだけで十分だ」
そう言った直後、カイルが茶々を入れる。
「何言ってるの、ユーリも残りなよ。
新妻を一人にしてどうすんのさ!」
「ばっ、馬鹿を言うな!」
「いや、冗談でもないぜ。
誰かは残ってセリアを守った方がいい」
「……分かった。仕方ない。
お前たちだけに任せる。セリアもそれでいいな?」
「……はい」
セリナが少し不服そうに頷く。
すると、カイルがさらに畳み掛けた。
「ほらみろ、ユーリ。
日頃から冷たいから、奥様は二人きりになるのが嫌みたいだぞ?」
「はっ!?」
ユーリが本気で驚いてセリナを見つめる。
(えっ、なにその真剣な目!?)
たじろいだセリナは慌てて手を振る。
「い、いえ! そうじゃなくて!
新しい星を見てみたかっただけで……!」
「……カイル、余計な口を叩くな。行け」
(え?なんだったの?さっきの)
レオン、ソフィ、カイルの三人は街へ向かった。
・ ・ ・
街の市場。
南国らしい色鮮やかな食材が並んでいる。
「わぁ、すごい。食べ物も全部トロピカルですね!」
ソフィが目を輝かせる。
「ソフィ、あまり離れるな」
レオンが周囲を警戒しながら声をかける。
「はい!」
ソフィが果実を選んでいる横で、カイルは野菜を物色していた。
「お、これうまそう」
その瞬間――
数人の男たちがソフィを取り囲んだ。
「……!?」
レオンが即座に気づく。
「ソフィ!」
男の一人がソフィの腕を乱暴に掴む。
「おい、こいつだな。可愛いお嬢ちゃん」
「離して!」
「大人しくしとけ」
男がレーザーガンを取り出した瞬間――
レオンのレーザーブレードが閃く。
男の腕を斬り、思わず傷口を押さえる。
手放した銃が地面に転がった。
「汚い手で触れるな」
低く言い放つレオン。
だが周囲の男たちが五人、さらに十人と増えていく。
「くそ……!」
レオンがソフィを庇いながら戦う。
「レオン!」
カイルが駆けつけ、レーザーガンで応戦する。
「カイル、ソフィを頼む!」
「了解!」
三人は路地裏へ逃げ込んだが――
追手は多すぎる。
「囲まれた……!」
ソフィが震える。
レオンはソフィを抱き寄せ、低く囁いた。
「大丈夫だ。俺が守る」
「レオンさん……」
レオンがカイルに小さな受信機を投げる。
「これを持ってユーリに知らせろ!」
「でも!」
「お前は素早い!お前だけなら逃げられるだろう。
ここは俺が食い止める! 行け!」
カイルは決意し、駆け出した。
・ ・ ・
船内。
「遅いな……」
不安が胸を掠めたその時――
カイルが飛び込んできた。
「ユーリ! 大変だ!」
「レオンとソフィが襲われた!」
「何だと!?」
セリナが立ち上がる。
「ソフィが……!?」
カイルが受信機を見せる。
「レオンがここで戦ってる!」
ユーリは即座に動いた。
「行くぞ、カイル」
セリナが叫ぶ。
「私も行きます!」
「ダメだ」
即答。
セリナの目に涙が滲む。
「ソフィは……私の大切な人です!
私も助けたい!」
ユーリがセリナの目を見つめる。
そこには――強い意志。
「……お願い、ユーリ」
セリナは彼の手を掴む。
ユーリは短く息を吐き、頷いた。
「……分かった。
だが、俺のそばを離れるな」
「はい!」
「俺を信じろ。
ソフィを助ける。
そしてお前も守る。
だから勝手な行動はするな」
胸の奥で熱い光が灯った。
「……ありがとうございます」
三人は船を飛び出した。
・ ・ ・
路地裏。
レオンはすでに満身創痍だった。
ソフィを背に庇いながら、十人以上を相手に戦っている。
「く……そ……」
限界が近い。
男たちが一斉に襲いかかろうとした時――
「そこまでだ」
路地の入口に、ユーリが立っていた。
カイルと――セリナも。
「ユーリ!」
レオンが安堵の声を漏らす。
男たちが叫ぶ。
「何だてめぇ!」
ユーリが冷静に銃を構える。
「相手を間違えたな。
そいつらは――俺の仲間だ」
放たれた数発のレーザーが、敵の銃だけを正確に撃ち落とす。
(ユーリ……強い……!)
セリナも構えを取る。
レオンに守られながら震えていたソフィも、ナイフを起動させた。
ユーリが一歩前に出る。
「覚悟しろ」
反撃が、始まった。
”そしてお前も守る。” 殺し文句ですね。こういうセリフを吐けるのはイケメンの特権なのです。
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