第7話 赤毛猫海賊団
ついに、目的地が見えてきた。
「あれがニャルディアだ」
カイルが窓の外を指差す。
巨大な惑星が青白く輝き、その周囲を無数の宇宙船が行き交っている。
まるで蜂の巣のような賑わいだ。
「すごい……」
セリナは思わず顔を近づけた。
「商業惑星だからな。銀河中から商人が集まる」
ユーリが答える。
「ここなら追手の目もごまかせる」
軍艦はゆっくりと降下し、巨大な宇宙港が姿を現した。
無数の船がドッキングしている。
「着陸許可取得。ドッキングベイ247に降りるぞ」
カイルが操縦桿を握り、軍艦は静かに着陸した。
ドッキングベイを出ると、そこは喧騒で満ちていた。
様々な種族の商人たちが行き交い、荷物を運び、商談をしている。
怒号と笑い声が入り混じるカオスな光景だ。
「わぁ……」
ソフィが目を丸くした。
「帝都とは、全然違いますね」
「ああ。ここは金さえあれば何でも手に入る」
ユーリは周囲に目を配りながら進んだ。
五人は人混みに紛れて宇宙港を抜け出す。
外には巨大都市が広がり、
高層ビルが立ち並び、空には浮遊広告が踊っていた。
「まず宿を取る。それから……船の処分だ」
「処分……?」
セリナが聞き返す。
「ああ。軍艦は目立ちすぎる。民間船に乗り換える必要がある」
「でも、どうやって……」
「それが問題だ」
ユーリが立ち止まり、細い路地裏へ視線を向ける。
「正規ルートでは軍艦を交換できない。
となると──非合法ルートしかない」
宿に荷物を置くと、ユーリは一人で街に出た。
セリナたちは宿で待機だ。
「ユーリ、大丈夫かな……」
セリナが窓の外を見つめる。
「大丈夫だよ」
カイルが笑った。
「あいつはこういうの得意だから」
「色々と活躍してる腕利きの特務官だからな。
裏の世界にも顔が利く」
レオンも頷く。
その頃、ユーリは薄暗い酒場に入っていた。
妙な匂いと、喧騒、そして様々な種族の客。
ユーリはカウンターに腰を下ろした。
「何にする?」
バーテンダーが問いかける。
「今日の夜更けはネコが騒がしい」
ユーリが小声で告げる。
「そりゃ大変だ。こっち来な」
合言葉は通じたようだ。
ユーリは奥の個室に案内される。
「赤毛猫は元気かい?」
「……高くつくぜ」
「金は払う。できれば幹部クラスを頼む」
ユーリは金貨袋を置く。
バーテンダーが重さを確かめる。
「……いいだろう」
メモを手渡された。
「ここだ。赤毛猫海賊団の幹部連中が遊びに来てる。
ローテッド商会を懲らしめた帰りらしいぞ」
「ローテッド……あの非合法薬の密輸商人?」
「ああ。身ぐるみ剥がされて脱出ポッドで宇宙に放り出された。
対賊艦隊に拾われて御用よ。
赤毛猫に目をつけられたら終わりだ。団長は悪党が大嫌いだからな」
「海賊の言う台詞じゃないな」
「だよな」
二人は鼻で笑い合った。
「軍船と商船を交換したいんだ。非合法で。
赤毛猫なら在庫は多いだろ」
バーテンダーは頷き、カウンターへ戻っていく。
「赤毛猫ならセリナに交渉させた方がいいか……」
ユーリはメモを見つめ、席を立った。
──翌日。
五人はメモにあった場所、倉庫街の外れに向かった。
「……大丈夫なんですか?」
ソフィが不安げに言う。
「分からん。だが他に方法がない」
倉庫の扉を叩くと、無言でインターホンに切り替わった。
「ゴキ沸かせたら死刑」
ユーリが意味不明な合言葉を伝える。
「あ、どうぞ〜」
若い女性の声とともにロックが解除された。
中に足を踏み入れると──外観と真逆の光景が広がった。
洋風の上質な調度品、磨かれた床、よい香り。
まるで高級サロンだ。
黒い海賊装束の女性たちが礼儀正しく挨拶してくる。
セリナも緊張しながら頭を下げた。
「ここ……本当に海賊団のアジトなんですか……?」
「ああ。間違いない。……まあ、あいつららしいが」
大ホールに入ると──。
「モカっ!!痛い!!誤解だってば!!」
赤毛の女性が、もう一人の赤毛に追い回されている。
「なんでおねーちゃんの部屋から私のクレカが出てくるのよ!
この支払い何っ!?」
「ま、間違えてモカのカード使っちゃった?」
「嘘ッ!おねーちゃんブラックリストだから
カード持ったことないでしょ!!」
「ち、違うって!? 理由が……!」
「あるわけない!!」
逃げる赤毛を追う赤毛。
拳骨が容赦なく飛ぶ。
「あー待った!お客さん来てる!!」
逃げていたほう──カタリナが、こちらに気づいた。
ユーリたちは呆然とする。
「あ!ユーリじゃん、久しぶり!」
一際派手な赤毛の女性、カタリナが笑いながら近づいてきた。
腰には二刀のレーザーブレードと怪しげな魔剣。
「カ、カタリナ……幹部がいるとは聞いてたが、お前か」
「モカ、どいて!」
客前ではさすがに喧嘩を続けられず、モカも仕方なく手を止めた。
「この方たちは?……あ、私から名乗るか。
私はカタリナ。赤毛猫海賊団の団長よ」
「えっ、団長の……カタリナ!?」
セリナが驚きの声を漏らす。
赤毛猫海賊団。
三万の団員と、国家戦力級に匹敵する五つの船団を持つ大海賊団。
そのトップがこんなにフレンドリーなのかと、セリナは目を瞬かせた。
ユーリはセリナの経緯──冤罪、極刑、逃亡──を説明した。
カタリナは眉間にしわを寄せる。
「ムカつくわね、その皇太子と馬鹿女……」
「おねーちゃん、神聖帝国に喧嘩売って皇太子ぶっ飛ばすとか言わないでね」
「大丈夫よ。喧嘩は売らずに皇太子だけぶっ飛ばす。
モカ、今すぐ作戦考えて」
ガッ。
副団長のサクラモカの拳骨が顎に炸裂し、カタリナは崩れ落ちた。
モカが仕切り直す。
「ごめん、姉はバカだから放っておいて。
近衛艦隊の最新型フリゲート級軍船と商船の交換ね?
──応じるわ。うちにとっても悪くない話。
船の名義変更と偽造身分証も作る。ミネ、お願い」
控えていたミネが黙って頷き、端末を操作し始める。
「そこまでやってもらえると助かる」
ユーリが頭を下げた。
「反撃が成功したら、相応の礼はする」
モカは満足げに笑う。
「はい、よろしく〜」
その横で、カタリナがセリナをじっと見つめていた。
視線に気づいたセリナはたじろぎつつも、真正面から見返す。
「あなた、いい目してる」
「え……?」
「諦めない目。私、そういうの好きよ」
カタリナはニッと笑った。
「決めた。最大限協力する」
「本当ですか!?」
「最初に誰を殴ればいい?皇太子?悪逆令嬢?
それともついでに皇帝殴っとく?」
ユーリが額を押さえる。
「頼もしいが……派手にするな」
「え〜。退屈してたのに」
「おねーちゃん、すぐ騒動に首突っ込む……」
二人のやり取りに、セリナは思わず笑ってしまう。
「ふふ……ありがとうございます。
なんだか大船に乗った気分です」
「気にしないで」
カタリナがケラケラと笑う。
「困ってる人を助けるの、好きだから」
そして窓の外を見る。
「それに──」
赤毛の瞳が楽しげに光った。
「面白くなりそうだわ」
・ ・ ・
宿へ戻る道すがら、ユーリがしんみりとした様子で口を開いた。
「カタリナは本物の義賊だ。味方につけられたのは大きい」
「はい……海賊にも色んな方がいるんですね」
セリナの胸は温かく満たされていた。
「……あいつは例外すぎるがな」
ユーリは苦笑をこぼした。
三つの月が浮かぶ夜空の下、
ニャルディアの夜は静かに更けていった。
明日は船の交換。
そして──追手との戦い。
新たな冒険が、始まろうとしていた。
赤毛猫海賊団は私の別の物語の主人公のゲスト出演です。
おバカだけど超前向きな美少女達がガチャガチャわちゃわちゃ、
文化祭のノリで成り上がるコメディです。
よかったらそちらもご一読をー!
赤毛猫海賊団
https://book1.adouzi.eu.org/n3640lb/
ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。
もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。




