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夜空に瞬く星に向かって 第二部  作者: 松由実行
第十二章 トーキョー・ディルージョン (TOKYO Delusion)
9/82

9. 炎狼改4型

 

 

■ 12.9.1

 

 

 偶然居合わせたのだろう、勢いよく開け放たれた扉の向こうに上下黒ずくめの服を着た男が一人、驚いた顔をしてこちらを見ていた。

 反射的にトリガーを引く。

 一瞬で男の下半身が粉砕され、血飛沫と肉片が飛び散り、男が苦悶の声を上げる。

 しまった。

 弾種を変更するのを忘れていた。

 不幸な男に心の中で謝りつつ、弾種をメタルキャップ9mmに変更する。

 

 蹴り開けられたドアの音と不幸な男が撒き散らした身体の破片と声が、近くに居る数名の男達の注意をこちらに集めることになった。

 数mの距離に居る四人ほどの男達が一斉に手に持ったSMGをこちらに向ける。

 不意を突かれたわけでは無い分、こちらの方が少し早かった。

 

 左側の男にライフルを向けると同時にトリガーを引く。

 200発毎分ほどの速度で撃ち出される9mm弾が幾つも男の身体を捉える。

 男はボディアーマーを着用していたようだったが、下半身は防御されていない。

 太腿に何発も撃ち込まれた弾の衝撃と痛みで、男はその場に倒れ、痛みに叫び声を上げる。

 

 その右側の男に対しても俺の方が早かった。

 二人目の男も一人目と殆ど同じ運命を辿り、殆ど同じ様にその場に倒れ込んだ。

 

 さらに右側の男には、発砲するだけの時間があった。

 男の右手の火薬式SMGが何回か火を噴くのが見えた。

 が、火薬式のSMGの弾がAEXSSに敵う筈も無い。

 俺は腹の辺りに何かが当たったような軽い衝撃を感じつつ、男に向けて引き金を引いた。

 逆に俺が撃った弾は、男のボディアーマーを中心に着弾し、男は着弾の衝撃と痛みに身体を少し引く。

 俺の撃った弾のうちの一発が男の剥き出しの右手を撃ち抜き、地味な血飛沫が上がると同時に男はSMGを取り落とした。

 

 最後の一人は銃を構えて撃つだけの充分な時間があった。

 が、じっくり時間を掛けたからといって火薬式のSMG弾がAEXSSを貫通できるわけもなく、身体のあちこちに着弾を感じつつもライフルを向けた俺の撃った弾に下半身を何カ所も撃ち抜かれ、他の三人と同じ様に床に倒れた。

 

 呻き声を上げ床をのたうち回る男達を余所に、俺は左手に見えるドアを開けて中を確かめる。

 伊島組の若頭とママさんの元愛の巣の玄関のすぐ脇のそのドアの中は武器庫だった。

 もとからそれだけの量があったのか、それとも中華マフィアが持ち込んだのか、六畳ほどの広さの小部屋には木箱が幾つも積み上げられていた。

 蓋を開けられていた三箱ほどの木箱の中を覗き込むと、SMGやハンドガンとそのマガジン、携行型のロケットランチャーと思しき筒状の物体などがいずれの箱の中にもぎっしりと詰まっているのが見えた。

 多くは火薬式の対人武器であるようだが、一部コイルガンなども含まれているようだった。

 

 部屋の中身を全て使い物にならなくしておいた方が良いかとも思ったが、どのみちAEXSSを着た俺達に損害を与えられるほどのものでも無いので、そのまま放置することにする。

 各階に一人ずつ突入して掃討戦を行っているので、中華マフィア側に武器を使える人員も残らない。

 一応、催涙ガスを放出するガスグレネードを部屋に放り込んでからドアを閉める。

 

 玄関前ホールとでも言うべき部分を抜けて反対側に続く通路に向かう

 三階フロアはまだ1/3ほど残っている。

 ライフルを構えて通路を進み、左のドアを開ける。

 簡単な事務所か詰め所のような部屋に人影は無い。

 さらに通路を進み、右側のドアノブに手を掛けた時に通信が入った。

 

「こちらアデール。五階に例のHASを見つけた。QCU(量子通信ユニット)を置いた。ノバグ、頼む。私はここでHASの動きを監視する。」

 

「諒解。QCU起動。通信確立。HASに接触を試みます。HAS沈黙。戦闘モードの全通信遮断状態(フルシャットアウト)です。接触、侵入は不可能。量子通信はID不明。HASと接触できません。」

 

「六階クリア。目標が隠遁できる端末の類は確認できません。五階に合流します。」

 

 アデールの手引きでノバグが例の中華製HASを探っているが、探知や侵入を防止するための完全遮断状態に入っている様だった。

 続いてルナが六階の確認を終えた声が聞こえた。

 

「四階クリアじゃ。事務所の中に幾つか端末があったが、違うの。アレじゃ容量が小さすぎて隠れるのは無理じゃ。五階に合流するぞえ。」

 

 俺ももうすぐ三階の探索を終える。

 通路の終わりから二つめのドアを開けると、中は小振りの事務所の様になっていて、乱雑に色々な物が散らかった部屋の壁際に幾つものラックが見え、配線の化け物の様な固まりが見える。

 独立したパワーユニットを持っているらしく、ラックにセットされた大量のユニットのあちこちに動作中を示すランプの明滅が見える。

 部屋には人影は無い。

 

「三階ででかいサーバユニットらしきものを見つけた。QCU設置する。ノバグ、こっちも頼む。ユニットは独立電源を持っているらしい。動作中だ。」

 

「諒解。多分それがそこの事務所全体のゲートサーバと中央サーバですね。QCU起動確認。通信確立。ネットワーク確認しました。侵入を試みます。」

 

 サーバユニットはHASの様にいきなり物理的活動をし始めたりはしないので、俺がこの部屋に居る必要は無い。

 俺はドアにロックを掛けて部屋を出た。

 通路の終わりの最後のドアを開けて中を確認するが、保存食品から靴まで様々なものが乱雑に積み重ねられた倉庫の様なスペースだった。

 

「三階確認終了。俺は一階に降りてクニ達の状況を確認する。クニ、状況は?」

 

 非常階段に続くドアを開けて上下を伺う。

 人影も無ければ、足音もしない。

 まあ、いきなり停電して一階と上階に侵入者がいるのが判っているのに、今頃非常階段をウロウロしているバカも居ないか。

 

「クニ? 聞こえるか? マサシだ。クニ?」

 

 階段を降りながら、クニから応答が無いのを訝しむ。

 

「お、おう。ワシか。出入りの最中に通信する言うんが、どうにも慣れんのう。」

 

 応答があり安心する。

 

「三階から上は無力化した。俺達も目的のものを見つけた。そっちはどうだ?」

 

「はー、もうか? さすが傭兵団は凄えのう。こっちはちいとばっかし拙い事になっとるんじゃ。姐さん等はどうにか確保したけえども、脱出に失敗したんじゃ。店の奥の部屋に立て籠もっとるんじゃが、三人やられたわ。あれらあ、機関銃持っとるんじゃ。クソが。ワシらもなんぼかチャカ持っとるんじゃが、相手んなりゃあせん。もうすぐ弾も()うなるわ。」

 

「窓か何か無いのか?」

 

「それがのう、運が悪かったんじゃ。姐さんが居った部屋言うんが、窓の無い部屋じゃったんよ。皆が部屋ん入ったところで、外を囲まれて動けんようなったんじゃ。」

 

「壁をぶち抜け。」

 

「・・・アホか。おまあ等と一緒んすな。ワシらあしがないヤクザ(もん)じゃで、そがあなモン持っとる訳なかろうが。」

 

 おかしい。

 運送業者がヤクザに引かれるとはどういう事だ。

 確かに今回の仕事は、少々運送業の範疇から外れる事も多いが。

 

「判った。今そっちに向かっている。非常階段側から突入する。もう少し待て。」

 

「おう、地獄の仏じゃのう。済まんのう。頼むわ。」

 

 会話をしている内に二階を通り過ぎて一階に辿り着いた。

 二階より上階は非常階段に直接接続しているが、一階の非常出口は例のクニが夜中に放り出されていた鉄扉になる。

 俺はライフルの弾種を再び徹甲に変え、外から非常口のドアの蝶番に向けて弾を叩き込んだ。

 そのままおもむろに近付き、裏口の扉を力任せに蹴り飛ばす。

 破壊音と共に外れてへし折れた哀れなスチール扉が吹き飛ばされ、建物の中に消える。

 ちょうど良い買い換え時だろう。

 弾種を再び9mmメタルキャップに変えて、扉の外れた暗がりに向けて一掃射する。

 幾つかの叫び声が聞こえ、すぐに火薬式のSMGの発射炎が光り、AEXSSが幾つもの弾を弾く感覚がある。

 

「クニ、三つ数えたらフラッシュバンを放り込む。眼を閉じて耳を塞げ。」

 

「お、おう。」

 

 太腿のポケットに入っていたフラッシュバンを取出し、起動してビルの裏口から中に投げ込んだ。

 大音響と閃光。

 ヘルメットのシールドバイザーはフラッシュバンと連動して、爆発の瞬間に強いスモークを掛けるので俺の目が眩むことは一切無い。

 

 停電で暗闇になったビルの中で使ったフラッシュバンである程度無力化できているだろうし、先ほど三階で見かけた武器類から想像するに、中華マフィア達がAEXSSで脅威になるほどの武装をしているとは思えなかったが、とは言え軍がスクラップにしたHASを横取りして持ち込んでくるような奴等だ。

 余り油断するのも宜しくなかろうと、パッシブセンサーに加えて、アクティブセンサーを有効にして裏口から建物に入る。

 電磁波を用いたアクティブセンサーがビルの中の細部までをスキャンし、マップを映し出す。

 裏口から少し入ったところに、十人ほどの人間が固まっている部屋がある。

 その入り口と思しき場所を、別の十人ほどが囲んでいる。

 その場所を目指して裏口から少し進んだところで、アデールの声が聞こえた。

 

「HASが起動した。周囲をセンサーで探っている。やる気だぞ、こいつは・・・探知された。ちっ。」

 

 アデールの声に、建物伝いに上階から伝わってくる破壊音と振動が重なって聞こえる。

 破壊音は断続的に続いていてまだ収まらない。

 

「容赦ないな、コイツ。HASのショルダーランチャは小型のGRG(重力レールガン)の類だ。好きにやりやがって。ルナ、ニュクス、無事か?」

 

「問題ありません。無力化しますか?」

 

「動きがトロいのう。慣れぬ義体で上手く動けぬのか?」

 

 三人の会話を聞く限りでは、どうやら五階で例のHASが暴れ始めたようだった。

 こちらも手早く済ませて、本来の目的であるHASの中身を捕まえるサポートに回らねばなるまい。

 俺は一階の通路を曲がったところで腰だめに構えたライフルの引き金を引き、クニ達が立てこもっているであろう部屋の前にたむろしている中華マフィアどもを一掃する。

 連中が防弾ベストやアーマーの類いを着用している事を想定してメタルキャップ弾で掃討したが、そうで無ければオーバーキルだったかも知れない。

 

 そのまま部屋の前まで歩みを進める。

 部屋の入り口前の通路は身体の様々なところを抑えて呻き声を上げる男達で埋まっていた。

 

「クニ、迎えに来たぞ。よい子はおうちに帰る時間だ。」

 

「おう、助かったわ。もうダメか思うたわ。」

 

 クニの声が聞こえると同時に、部屋の隅に固まっていた一団が動き始める。

 腕や腹を押さえて歩く者もいるようだ。

 見れば男だけでなく、女が五人ほど混ざっている。

 美姫というこの店のママと、多分店で働いていた女達だろう。

 

「行けるか? ビルの裏から出る。」

 

 裏口は、今俺が歩いてきたばかりだから安全な筈だ。

 

「ヒロ、シゲ、世話あ無いか?」

 

「ウッス。大丈夫っす。」

 

「かすり傷っす。」

 

 腹を押さえて足を引き摺りながら歩くのはどう考えてもかすり傷ではない筈だが、そこは放っておく。

 そこまでやくざ者の面倒を見る義理はない。

 こっちも一階のことは早く済ませて、乱闘状態になっているであろう五階に早いところ合流したいのだ。

 

「付いて来てくれ。俺が先頭を歩く。」

 

 そう言って踵を返し来た方に戻り始めると、部屋の中にいた者達が後を付けてくるのが分かった。

 

 途中、死んだふりをしていたのか、まだ元気だったのか、床に倒れている男達から二度ほど撃たれるが、火薬式のハンドガンやSMGの弾を通すようなヤワなスーツではない。

 こちらを憎々しげに見つめる顔に一発撃ち込めば、事切れて静かになる。

 男達もそうだが、一緒に逃げている女達も、さすが最下層の住人と言うべきか、そのような俺の対応に悲鳴を上げるような者はいない。

 

「レジーナ、周囲の状況は?」

 

「路上には人っ子一人居ないわ。」

 

「オーケイ。じゃ、こっちは後は任せた。」

 

「諒解。」

 

「クニ、俺は戻って例のHASの相手をしている奴等に加わる。ここの周囲は安全だ。」

 

 そう言っている間にも、五階の戦闘音が暗く静かな路地に響く。

 

「おう、世話んなったのう。ワシぁ姐さんらを安全なとこまで連れて行くけえ。」

 

 打ち合わせた手筈では、この後ブラソン達が手配したアシの着かないビークルが数台、クニ達を迎えに来ることになっている。

 ここまで来れば、もう大丈夫だろう。

 

 と、安易なことを考えたときだった。

 

 頭上でひときわ大きな破壊音がして、吹き飛ばされた建物の破片が雨の様に降り注ぐ。

 流石に女達が悲鳴を上げる。

 

 反射的に上を見上げた俺の視野に、ビルの壁面にあいた大穴の中から何か巨大なものが飛び出してくるのが見えた。

 とっさにライフルを構える。

 

 ビルの破片と共に落下してくる黒い物体の動きがスローモーションのように見えた。

 その物体には「HAS:炎狼改4型」と、シールドバイザーに投映されたタグが重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 もう少し更新頻度を上げたいなあ・・・

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