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夜空に瞬く星に向かって 第二部  作者: 松由実行
第十五章 マーキー・ラナウェイ
64/82

19. 戦闘開始


 

 

■ 15.19.1

 

 

 敵の陸戦隊は四十機ほどがそれぞれ約2kmほどの間隔を開けて南北に80KM弱ほどの真っ直ぐな横隊を形成しており、その横隊が約5kmの間隔を空けて三列存在する。

 俺達が居る大まかな位置は把握しているようで、ほぼ正しい方角でこちらに向かって進んでくる。

 

 俺達との距離が130kmを切った辺りから、二列目の横隊が一列目の横隊を飛び越えて約5kmほど前に前進し、前進して新たに一列目となった横隊が皆地上に降りて周囲を確認した後に、二列目となった横隊が先頭となった横隊を飛び越えて約5km、即ち10km前進して着地し、周囲を探るという、確かビルハヤート達が「コップル前進」と呼んでいたものと全く同じやり方でこちらに近付いて来る。

 確か俺達も一緒に突入したベレエヘメミナで、索敵をしながら慎重に前進する時にそのやり方をしていた記憶がある。

 

 「コップル」とはハフォンにいる爬虫類に近い動物で、地球にいるカエルのように発達した後ろ足で撥ね回る性質を持つ。

 つまり俺達地球人的に訳すなら、「蛙跳び前進」とでも呼べば良いところなのだろうが、どうやらこの進軍法は各国の陸戦隊に共通の定石らしい。

 ちなみに三列目はその蛙跳び前進には加わらず、戦線が5km進むごとに三列目を維持して後ろを付いてくる。

 前の二列が見逃して網を抜けた敵を潰すためか、或いは前二列の歩兵がやられたときにすぐにその穴を補充するためか、いずれにしてもそんなところだろう。

 

 着地点の地形の問題もあるのだろう、完璧な横一直線と、完璧に同じタイミングで蛙跳びを繰り返す事はさすがに出来ない様だが、それでも何回も繰り返される蛙跳び前進の中で、横隊を殆ど崩さずにこちらに向かって戦線を真っ直ぐ確実に押し上げてくるその様は、間違いなく敵が訓練された正規軍であることを示している。

 海賊どもの様な寄せ集め集団にこんな芸当が出来る筈は絶対に無かった。

 

「敵陸戦隊歩兵最前列、100kmラインを突破しました。次の敵部隊ジャンプで攻撃開始です。

「遅ればせながら。現在最前線の横隊を部隊A、次にジャンプする二列目の横隊を部隊B、三列目を部隊Cとします。」

 

 戦いの始まりを前にして静かだった通信回線に、無感情で、しかし強い意志を感じさせる落ち着いた声が響く。

 誰からの返答も無い。

 俺も声を出さない。

 しかし皆が全神経を集中して、攻撃開始の瞬間を待っているのは伝わってくる。

 

 そしてその静かな中、レジーナの声が戦いの始まりを告げる。

 

「敵部隊B、ジャンプしました。攻撃開始。」

 

 俺とニュクスが待機しており、すぐ後ろにはディング達が隠れたシェルタがあるこの仮想陣地の前方、縦横数kmの領域の密林の樹木の海から、大量のミサイルが突然現れ空に向かって消えていく。

 光学迷彩を纏い姿を消し、空力飛行で対重力探知性能を持つ中口径レーザー移動砲台が、空中に見えない光条を無数に撒き散らす。

 距離が近く曲射が出来ない為、これもやはり光学迷彩と対重力探知性を持たされた中口径長砲身GRGが超音速衝撃波の轟音と共に白熱した物理弾体を打ち出し、大気を切り裂き炎の尾を引く弾体が僅か数秒で100km先に到達し、空中を移動中のHASを捉えて眩い衝突光を発する。

 その頃になるとのんびりと十秒近くもかかって戦線に到達したミサイルが空中で爆発する。

 敵兵に当たったわけでもないのに妙だ、と思っていると、爆発した無数のミサイルから大量の小さな何かが辺り一面に散布された。

 

「あのミサイルはなんだ?」

 

 と、思わずニュクスに訊いた。

 どうせロクなもんじゃ無いのは分かっているが、気になる。

 

「うん? おお、アレは小さめのナノボットブロックじゃよ。あの辺り一帯をナノボットトラップ化しておるのじゃ。敵兵が入り込んだらナノボットが付着して急速に装甲を分解されるんじゃ。直接接触する分には、光学迷彩も何も無いからのう。そして装甲の無いHASなど、裸で戦場を走っておるのと変わらぬわ。何なら中身ごと分解しても良いしの。前線があのエリアを通り過ぎたら、今度は敵の後方で大量の兵器を生成して、後ろから狙い撃ちじゃ。ごく僅かのナノボットが付着しただけで、マーカ代わりになるしの。」

 

 とんでもなくえげつない兵器だった。

 

「ルナ達が突っ込んで行っただろう?」

 

「阿呆か。味方を攻撃するほど頭の悪いナノボットなんぞおりゃせんわい。」

 

 銀河種族達はAIを使用しない。

 無数に存在するナノボットを制御するには、AI級の処理能力が無ければ不可能だ。

 生身の人間の処理能力と、それを補助する程度のシステムでは絶対に追いつけない。

 そもそも、ナノボット自体を禁止している国もある。

 つまり、ナノボットを利用した兵器は機械達の専売特許、銀河種族達に絶対に真似されること無く、そして同じものを持たない彼等では対抗策を正しく戦術に組み入れることが出来ない必殺兵器となり得る、というわけか。

 陸戦じゃほぼ無敵か、機械達(こいつら)

 

「・・・なあ。大量のナノボット辺り一面にぶちまけるだけで良かったんじゃ? それともさすがに処理能力が不足するのか?」

 

「お? そこに気付いてしもうたか。お主の頭蓋骨の中の筋肉も、割とものを考えられるようじゃの。

「実はその通りじゃ。処理能力なんぞなんぼでもバックアップできるわい。何ならメイエラに並列処理を任せても良いしの。じゃが、それでは面白うあるまい? やはり戦場とは、弾が飛び交い辺り一面爆発が巻き起こり、敵味方の最新兵器がしのぎを削り、その中を恐怖に耐えて駆け抜けるような血湧き肉躍る所じゃろ。ボットで全部分解して終わりとか、廃棄物処理工場と変わらぬわ。面白うもない。」

 

 ・・・そうだった。

 兵器オタクで割と戦闘狂気味な奴だった、コイツは。

 

「つまり、かなり余裕があるという事か。」

 

「ほんに筋肉しか詰まっとらんのう。考えてもみよ。形振り構わず本気でやるなら、百万の戦艦でこの星を囲んで、百万の義体で構成された陸戦隊を降ろせば一瞬でカタが付くじゃろうが。

「じゃがそのようなことをしたら後に響く。儂ら本体が姿を現すことなく、儂らが関与しておったと気取られることなく、最小限の影響で確実に勝たねばならぬのじゃ。今この状況で余裕なぞ有りはせぬわ。」

 

 成る程。

 言われてみればその通りだ。

 だが、彼女の言ったことを逆に捉えれば、絶体絶命の事態に陥れば援軍が来るということか。

 

「お主。ヤバイ事になったら助けが来るとか考えておろう? 儂自身は幾らでも換えが効くのじゃぞ。お主等は換えが効かぬから最大限の努力はするが、儂ら種族の存続という絶対目的と較べれば、どちらが優先かお主でも分かろう。

「じゃから今ここでできる限りの事が、実際に現実に出来る事じゃ。わかったか。」

 

 確かに。

 彼女の言った内容は、冷徹だが、しかし正しい。

 幾ら友誼を結び、人類社会への窓口となっているとは言え、数十億、事によるとそれ以上の彼女達全体とを天秤に掛ければ、どちらに傾くかなど考えるまでも無い。

 甘い考えは捨てろ、とニュクスは言っているのだった。

 下手に機械達の船がこの場に姿を現したりすれば、彼女達が行っている銀河人類との宥和政策のその後の展開に響きかねない。

 

「まあもっとも、レジーナに儂が乗って居るのは、最近では割と知られた話になっておるのじゃがのう。」

 

 マジか。

 別の心配が出てきた。

 いや、今は眼の前の戦場に集中しよう。

 

 俺達が話をしている間にも戦況は進んでいる。

 ジャンプしたところを狙い撃たれた敵部隊Bは、慌てて退避したか着地点もバラバラで横隊は崩れ、数も半分ほどに減っていた。

 空中で無防備だったとは言え、わずか数十秒で二十機ものHASを仕留めるとは、凄まじい攻撃力だ。

 とても二十分程度の急ごしらえで用意した兵器類とは思えなかった。

 

 とっ散らかってしまい、多分損傷も少なくない部隊Bに対して、二列目の部隊Aが密林の中を移動して追い付こうとしている。

 空中を移動すれば狙い撃ちにされるので密林の中を移動しているのだろうが、HASとは言えさすがに移動しにくいのだろう。

 部隊Aの歩兵を示す輝点の移動はそれほど速くない。

 そして移動が遅い理由は密林だけではない。

 頭上から次から次へと降り注ぐ実体弾とレーザーの嵐。

 

 敵陸戦隊は密林の中に居て直線の射線は通っていないのだが、ニュクスはお構いなしに攻撃を続ける。

 レーザーに灼かれた木々が燃え上がり、実体弾の着弾で地面ごと森が剥がされて宙に舞い、バラバラに砕け散っていく。

 赤茶けた土が空に向かって飛び散り、着弾点には巨大なクレーターが無惨に残る。

 運悪く実体弾の直撃を食らったHASは、地面にめり込み、着弾の応力を逃がすことが出来ずに地中で圧壊するか、着弾の衝撃で出来たクレーターの生成で大量の土砂と共に空中に放り出される。

 いずれにしてももうまともに行動など出来ないだろう。

 

「実体弾、すげえな。」

 

 今にして思ったことではないが、質量兵器の威力を眼の前で見せつけられて思わず呟いた。

 

「ふふん。アハトアハト(88mm口径)、タングステン-バナジウム系合金の耐熱性徹甲弾体じゃ。50km/sで大気中を飛ばしても数秒保つのじゃ。二秒ならほぼ固体のまま、灼熱した高温の弾体がぶち当たって侵徹する。最高の着弾距離じゃの。

「装甲が破れんでも、直撃すれば200Gほどの衝撃で吹き飛ばされるのじゃ。HASの小型ジェネレータの慣性制御で突発200Gの衝撃が吸収しきれるかの。ふふ。」

 

 そう言ってニュクスは、相変わらずヘルメットを被らず素顔をさらしたままで嬉しそうに嗤う。

 アハトアハトとか・・・中二病兵器オタクが。

 

 ちなみに。

 砲弾が直撃し、慣性制御で衝撃が吸収しきれなかった場合は、当然中身が潰れる。

 空力航空機のようにゆっくりとGが増加するのではなく、突然高Gがかかるのだ。

 吸収しきれなかったGが例え僅か10Gであっても、中の人間には致命的な負荷となる。

 

 そう言っている間にも、地平線の向こう側、100km彼方では森が抉られクレーターが生まれ、木々が燃え上がる。

 実体弾が直撃したHASが吹き飛ばされ、レーザーに灼かれた者はセンサーや間接などの脆弱な部分が動作不良を起こし、行動不能に陥る。

 土塊と共に吹き飛ばされ、剥き出しになった高温の地表に叩き付けられてその姿をさらす。

 

「環境保護もクソもないな。」

 

 と、この星の管理態勢を思い出して思わず声が漏れるが、それは地獄絵図となっている戦場が地平線の向こう側にある現実味の無さからか。

 

「問題無いぞえ。全て終わったら、全て元通りに戻す・・・まあ、完璧に元と全く同じという訳には行かぬが、森も地形ももとの様には戻すぞえ。なんなら動物まで復元しても良いじゃろう。

「少なくとも、どこぞの企業か国家の調査船がやってきても、見分けが付かぬほどには戻すつもりじゃ。アフターサービスもバッチリじゃ。」

 

 ・・・そうかい。

 まあ、民間企業としては、サービスの善し悪しが顧客満足、延いては売り上げの良不良を左右するからな。

 そういうことにしておいて聞き流す。

 

「ところで、俺達はこうやってのんびり戦場を眺めているが、敵は攻撃してきてないのか?」

 

 というと、呆れたという表情でニュクスがこちらを向いた。

 

「阿呆かお主。腐っても相手は正規軍じゃぞ。攻撃して来ぬ訳が無かろうが。さっきからひっきりなしにミサイルだの実体弾だのが飛んで来ておるわ。」

 

「・・・飛んで来てないぞ?」

 

「本気で阿呆か? 全て儂が撃ち墜としておるに決まっておろうが。上を飛んでおるのは、何じゃ? レーザー移動砲台が五十機も飛んでおるのじゃぞ。」

 

「上で思い出したが。敵艦隊に動きは? これだけ味方がやられたら、そろそろ痺れを切らして直接手を出してくるんじゃないか?」

 

 民間人居住惑星や施設に艦隊が直接攻撃を加えるのは、汎銀河戦争の禁忌となっている。

 とは言え、こちらも充分な禁忌である民間人居住惑星へ軌道降下兵部隊を投入し、その民間人を相手に戦闘を仕掛けているのだ。

 惑星ベルヤンキスは、民間企業所有の惑星であり、少数とは言え民間人が居住していることには違いはない。

 逆にもともと民間人以外居留していない。

 そんな奴らが艦隊からの直接艦砲射撃をどれ程思い止まるか、知れたものではなかった。

 

「今のところ、敵艦隊に攻撃の動きはありません。」

 

 と、レジーナ。

 

「案外、苦戦しておるから逆に手を出せぬようになったのかも知れぬの。」

 

「どういう意味だ?」

 

「圧倒的戦力でこっちを一瞬で叩き潰せば、そのまま証拠隠滅も出来たじゃろう。じゃが手こずるどころか、今の時点では地上戦に限れば連中の方が旗色が悪い。これだけ派手にやらかせば、なんぼEMJ掛けておっても周りも気付くわい。そこで艦砲射撃なんぞしようものなら、証拠隠滅も何もあったもんじゃなかろうしの。

「演習に見せかけて上手いこと誤魔化したかったのじゃろうが、四十六隻に陸戦隊一個大隊などという中途半端な数が徒になったのう。どうせなら思い切って一千隻も居れば、この星系丸ごと殲滅して口封じも簡単に出来たものをのう。くくく。」

 

 ニュクスがまた楽しそうに嗤う。

 バカ言うな。

 そんな事になって貰っちゃ、こっちが困る。

 

「敵部隊AおよびB、合計数の半分を割りました。敵部隊Cは変わらず。部隊Cに損害無し。戦線後方約15kmまで下がっています。」

 

 うん?

 弾が届かないという訳でもないだろうに、部隊Cは攻撃していないのか?

 というよりも、最前線が酷いことになっているのに、部隊Cは何でそれを眺めているだけなんだ?

 という困惑顔の俺を見て、ニュクスがまた嗤った。

 

「ルナ、アルファ、ベータ、最前線を突破しました。損害無し。エナ、ディオ、最前線に到達。予定の行動を開始します。レイシャ、最前線到達まであと200秒程度の見込み。」

 

 と、更に続けてレジーナが言った。

 

 その報告内容に目を眇めてニュクスを見ると、こちらを見上げて見返してくるニュクスがさらにニイと嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 戦闘開始なのですが・・・なんか、マサシがまるで観戦武官のように余裕ブッこいて後方から戦線を眺めているのがちょっと気になります。自分で書いておいて。w

 まあ、知識無しやる事無し殆ど出る幕無しとは言え、一応船長であるので総司令官ですので、本来これで正しいのかもしれませんが。

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