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夜空に瞬く星に向かって 第二部  作者: 松由実行
第十五章 マーキー・ラナウェイ
63/82

18. アルファ、ベータ、エナ、ディオ


 

 

■ 15.18.1

 

 

「両舷GRG発射準備完了。WZDホールショット、両舷二射。マサシ、四人送り込みます。ホールアウト高度300km、速度50km/s。」

 

 しばらくしてレジーナからの通信が入った。

 やはりそう来たか。

 戦闘能力の高い増援が来るのは素直にありがたい。

 

「諒解。歓迎する。撃墜されないように気をつけて来てくれ。」

 

「ま、その辺りは運じゃからの。じゃが、そうそう撃ち落とされるようなヘマはせぬよ。」

 

 と、袋に入った大量のEMPグレネード(Electro-Magnetic Pulse:電磁パルス手榴弾)を俺に渡しながら、すぐ脇のニュクスが言う。

 上空にはベルヤンキスを取り囲むように配置した敵性の軍艦隊が存在する。

 ホールショットを使うとは言えども、要は敵前軌道降下を行おうというのだ。

 

 敵前軌道降下というのは、陸戦隊軌道降下兵が行う作戦の中でも花形と言って良いものだ。

 つまりそれだけ危険で、そして成功した場合には戦局を大きく左右することもある作戦と言える。

 本来なら、シリュオ・デスタラのような強襲揚陸艦が敵中を突破して惑星の大気圏すれすれまで突っ込み、灼熱して炎を引く艦の降下ポッド発射管から一瞬で大量の降下ポッドを大気圏内にばら撒き、周囲の敵艦や地上からの迎撃の砲撃の嵐の中、少なくない撃墜の損害を出しながらもまるで隕石群のような数と速度で自らも炎を引いて大気圏に突入し、強引に敵地のど真ん中に多数の陸戦隊軌道降下兵を投入するというやり方をする。

 それに比べれば、ホールショットでの軌道降下は目立たない分多少は安全だろう。

 ホールアウトした瞬間から敵に探知され、迎撃されるのは間違いないだろうが。

 

「両舷斉射。次弾装填。斉射。ホールアウト確認。四機降下中。最大減速中。大気圏突入まで7秒、5、4、3、2、1、高度100kmに到達。大気圏突入成功。速度10km/s。エアブレーキ展開。」

 

 上を見上げると、密林の木々に重なって四つの青いマーカが視野に映る。

 エアブレーキの展開角度と、ポッドに備わったジェネレータを使って最大限にランダム機動を行っているのだろう、四つのマーカはふらふらとさまようように動いている。

 軌道上に占位した艦隊からの迎撃を受けているのだろう。

 もしかすると、地上に展開した軌道降下兵達からも迎撃されているかもしれない。

 ヒトの肉眼では殆ど見えなくとも、大気中の塵や水の粒子に当たって僅かに発行するレーザー砲の光路は、レジーナが操るドローンからならば検知可能だろう。

 

 もちろん、射線を見て避けるという意味では無い。

 砲撃されているという事実が分かれば、命中させないようにランダムに機動して、命中する確率を下げるという意味だ。

 あくまで命中する確率を下げるだけで、運が悪ければ当たる。

 機械知性体の反射速度であっても、光を避けることなど出来ない。

 まあ、敵の射線を観測して照準の癖やアルゴリズムを割り出し命中する確率を更に下げるような機動をする、程度までは出来るかもしれないが。

 

 青いマーカの横に表示されている距離が見る間に減少し、信じられない勢いのまま森に突っ込んできた。

 まるで実体弾が着弾したかのような衝撃と轟音を伴って、光学迷彩がかかった透明な何かが俺達から少し離れたところに着地する。

 森の木々をなぎ倒し、土煙が巻き上がりクレーターが生まれる。

 

 こんな派手な着地をしたら、何もかもバレバレじゃないかと思うのだが、まあ今更か。

 着地した透明な何かが、下生えを吹き飛ばしながらこちらに接近してくる。

 透明な四つの物体が全て高速でこちらに急接近してくる様は、それが味方だと知っていなければなかなかの恐怖だ。

 

 無茶な着地と強引な地上移動を眼にして、半ば呆れながらそれを眺めている俺と、得意げに腕を組んでいるニュクスの目の前で彼女達が止まり、姿を現した。

 成人体のニュクス二人と、幼女体のニュクス二人。

 

 成人体の二人はAEXSSに似たボディスーツに身を包み、一人は赤色の眼を持っており、もう一人の眼は金色だった。

 幼女体のニュクス二人はやはりというべきか、俺の隣にいるニュクスと同じ様な黒を基調としたゴスロリ服に身を包み、片方は赤色のリボンで艶やかな長い黒髪をツインテールにまとめ、もう一人は金色のリボンでポニーテールに結っている。

 

「これで戦力は数倍増しじゃの。」

 

 と、元々俺の横にいたニュクスが上機嫌に言う。

 

 幼女体の生身(?)のままでHASと殴り合い、スカートの中から際限なく武器や兵器を取り出す奴だ。

 成人体は当然それ以上の戦力として期待して良いのだろう。

 

「今の軌道降下で敵陸戦隊の注意を集めました。キャンプ周辺に散っていた兵士達が、キャンプの西側に集結しています。周辺に散らばっていた部隊もキャンプの方角に移動しています。」

 

 それはまあ予想していたことというか、いずれそうなるだろうと分かっていたことだ。

 ニュクス四人の軌道降下は、それを少し早めたに過ぎない。

 

「上の艦隊に動きは?」

 

 今目の前に居る直接の脅威は陸戦隊だが、俺はどちらかというと、上空に展開している艦隊の方が気になる。

 問答無用に艦砲射撃で焼き払われたり、大型の反応弾を撃ち込まれたり最悪惑星破壊弾などを使われると、逃げる間もなくやられてしまう。

 HASやAEXSSと軍用艦船では、兵器としての破壊力の桁が違う。

 民間が所有する惑星に対して、戦場でも無いのに警告無し問答無用でEMJFを展開するようなイカレた奴等が、そう云った無差別無思慮な大量破壊に走らないという保証などどこにも無いのだ。

 

「今のところ目立った動きは見られません。が、観測精度は高くないです。」

 

 兵器としての破壊力だけで無く、性能も桁違いだ。

 小型の空力式ドローンが空中を飛んでいても、相手がHASならば気付かれない可能性もあるが、例え無推力であっても小型のプローブが戦艦などに接近すると、放射熱や密度の違和感からドローン或いはプローブであると特定されてしまうことがある。

 だからプローブを敵艦隊に不用意に近づけるわけには行かないレジーナは、多分プローブを数万kmかそれ以上の距離に置いて敵艦隊を観察しているのだ。

 当然そうなれば探知精度は下がり、艦隊の詳細な動きを追うのは難しくなる。

 

「構わない。見えないより遙かにマシだ。そのまま観察を続けてくれ。」

 

「諒解しました。」

 

 さて、上も気になるが下は下で迎撃しないとな。

 

「ニュクス。敵陸戦隊に対応するのは任せても良いか?」

 

「リーダーはお主じゃぞ。それに儂は艦隊戦の方が得意じゃ。」

 

「陸戦隊の指揮にも慣れておいた方が良いと思うぞ?」

 

「そっくりそのまま返してやるわい。新興傭兵団の団長サマ。」

 

「うるせえ。俺は船乗りだ。」

 

 と、下らない会話を交わしながらも、ニュクスが生成した武器を次から次に山積みにしていく。

 助っ人にやって来た四人のニュクスが、その中から気に入った者を選び出して次から次へと身に付けていく。

 

「彼女達をどう区別すれば良い? 全員お前なんだろう?」

 

 と、そんな四人を見ながら、元々側に居たニュクスに尋ねた。

 

「それじゃ。本当なら、ネメシス、タナトス、ケール、モロス、といきたいところじゃが、お主の極小容量の脳ミソじゃ覚え切れまい? デカい赤いのがアルファ、金色のがベータ、小さい赤いのが甲、金色のが乙でどうじゃ?」

 

 とニュクスが言うと、四人がこちらを振り返って同じ顔でニイと笑う。

 ちなみに、俺自身が覚えきれずとも、AEXSS内蔵の戦闘支援システムや、全体を総括して支援するレジーナは当然ちゃんとすぐに覚える。

 

「いや、甲乙はやめろ。違和感ありすぎる。」

 

「しょうが無いのう。ちっこい赤はエナ、金はディオ、でどうじゃ。」

 

「オーケイ。アルファ、ベータ、エナ、ディオ、な。」

 

 と、俺が声に出して言うと、彼女達に重なるように表示されているAARのマーカの脇に、α、β、1、2と表示された。

 

「敵陸戦隊の最前列が距離200kmを通過しました。」

 

 レジーナの声に、表示しっ放しになっている視野の右端の戦術マップを見ると、三十機ほどの小隊単位で多重の横列を組んでこちらに向かってくる陸戦隊のマーカのうち、最前列の横隊がちょうど距離200kmのラインを越えたところだった。

 200kmというと、HASを着用した陸戦隊が携行する中長距離兵器が、近すぎず遠すぎず丁度良く射程内に収まる距離だ。

 

「まだじゃ。100kmまで引きつけてから一気にやる予定じゃ。まだ一部の兵器は仕上がっておらぬしの。」

 

 ニュクスがナノボットを使って次々と兵器を産み出す為の原料資材に使用されるため、辺りの森の木々は随分間引かれ、地表もあちこちが抉られたように不自然なクレーターを作っている。

 そのクレーターの脇には、多分ミサイルか何かを打ち出すランチャーや、大口径のレーザーが幾つも設置されている。

 すでにこの辺りはちょっとした要塞並みの兵器が配置されているのだが、それでもまだ仕上がってないという。

 

「なんじゃ、気になるのかえ? そうじゃろう、そうじゃろう。」

 

 と、得意気な顔のニュクスが腕を組んでフフンと笑いながらこちらを見る。

 そう言えばこいつ、兵器オタクだった。

 多分その辺に配置されている兵器は、余り耳にすることのないちょっと特殊でマイナーな機能を持った、どこかの国で開発されたマニアックな兵器ばかりに違いない。

 

「いや、全然。敵が墜とせればそれで良い。それ以上の興味は無い。」

 

 話に乗ってしまうと、延々と兵器談義を聞かされる。

 兵器の名前と機能や動作原理に始まって、その兵器の特性が要求された背景や最も効果的な状況、他の類似した兵器に比べて現在の状況でどれほど有用で選択が正しいか、などなど。

 暇つぶしには丁度良いのだろうが、流石に今そんな心の余裕は無い。

 

「なんじゃ、つまらんのう。儂の絶妙なチョイスの選りすぐりの兵器達じゃというに。」

 

「そろそろ前に出て準備します。」

 

 数の上では絶体絶命で、もうすぐ戦いの火蓋が切って落とされるというにもかかわらず、微妙に間延びしたような会話を続ける俺達の脇から、ルナが声を掛けてきた。

 

「おう。気をつけろ。よろしく頼む。」

 

「お任せください。」

 

 そう言って、AEXSSの光学迷彩機能をアクティブにしたルナの姿が、森の木立の中に溶けて消えた。

 続けてニュクス・エナ、ディオの姿がすっと透けてそのまま透明になった。

 

 機械知性体であり、俺達生身のヒトに比べて高い膂力を持ち精確な照準ができる彼女達だが、しかし一番得意な戦闘スタイルというものがある。

 夜間であればベストコンディションなのだろうが、昼間であってもこれだけ鬱蒼と生い茂る密林の中であれば、存分にそのスタイルを発揮できるだろう。

 透明になりはしたものの、AARで表示される青いマーカが目を見張るような速度で森の中を駆け抜けて遠ざかっていく。

 

「どうなってるんだ? 大丈夫か?」

 

 レイシャに手伝ってもらって役に立たなくなった狩猟用スーツを脱ぎ、週末郊外の森にちょっとキャンプを楽しみに来ました程度の恰好になったディングとダンダスが心配そうな表情でこちらを見ている。

 その向こうには威圧感を発しつつも控えめに佇む、レイシャの濃紺のHASがこちらを見ている。

 

「なんだ、まだ居たのか。早いところ穴に潜っておけ。戦いが始まったらすぐにこの辺は生身の人間じゃ生存できない状態になるぞ。

「どうやら連中の目標はアンタで決まりの様だ。さっき敵陸戦部隊の先端までの距離が200kmを切った。100kmまで引きつけて全力を叩き込む。当然向こうも反撃する。その恰好で戦場のど真ん中にいたくはないだろう? 穴の中はニュクスが整備してくれている。案外快適なはずだ。」

 

 地表にクレーターを作るだけでなく、地中深くにトンネルを掘り進めながら、そこから得られる物質を材料としてニュクスは武器兵器を生成した。

 地下100m近い深さにまで掘り進めたトンネルは、ついでに壁面を補強し、幾つもの隔壁を設置して内部を整備し、快適な地下シェルタに変貌しているはずだ。

 少なくとも最前線に掘られる塹壕よりは遙かに快適且つ安全に過ごせるものになっているだろう。

 袋小路にならないように何本も通路を作っていたみたいだしな。

 地下100mのシェルタを脅かすような攻撃を受けるなら、それは広範囲殲滅兵器か或いは地殻や惑星を破壊するレベルの兵器なので、そんなものはHASを着ていていようが、シェルタに入っていようが生存は怪しい。

 その場合は運が悪かったと諦めてもらうしかない。

 

「分かった。済まないが俺とダンダスは、足を引っ張らないように避難させてもらう。レイシャはこのまま地上に残って闘うつもりだが、問題無いか?」

 

 互いの得手不得手も知らず初顔合わせのレイシャだが、今は一人でも多くの戦力が欲しいところだ。

 その申し出はありがたく受けさせてもらう。

 

「ああ。もと陸戦隊工兵なんだろう? 頼りにさせてもらう。」

 

「分かった。レイシャ、すまんが頼む。」

 

「心得ました。」

 

 ディングとダンダスが、森の中の地面に不自然にぽっかりと空いた手近な通路を下っていくのを見送り、俺は的陸戦隊が接近してくる方角に向き直った。

 未だ敵までの距離は遠く、直接視野の中に直接マーカが表示されては居ないが、視野の右端に寄せた戦術マップには三重の横隊を作ってこちらに向かって近付いてくる陸戦隊の部隊が表示されている。

 

 それを眺めながら、他に聞かれないように軽く溜息を吐く。

 確かにお貴族サマの趣味の狩猟の行き帰りとお楽しみ中の護衛をセットで請け負ったのではあるが、なんでこんなところで正規軍の陸戦隊大隊を相手に地上戦をやらかそうとしているのだろう、俺は。

 船乗りになったつもりだったのだがな。

 生きて帰れたら、エベンツェチに文句の一つも言ってやろう、と思った。

 そして自分のその思考に思わず苦笑いする。

 

 大軍を前にして恐慌に陥らずに「生きて帰れたら」なんてことを冷静に考える程には、この手の荒事に慣れてしまったか。

 

 

 

 

 

 

 


 いつも拙作にお付き合い戴き有り難うございます。


 いつかやろうと思っていた、複数ニュクスです。w

 要するに、たまに出動機会のある成人ボディのニュクスとその予備、いつもの幼女ニュクスとその予備と予備の予備が全部同時出撃です。

 その気になればニュクスは無限増殖することも出来ますが、レジーナのそれほど広くない自室の中では四つ置いておくのが限界なので、四人です。

 

 イヴォリアIXからWZDホールショットで無限のニュクスを送り込む、というムチャはやる予定がありませんのであしからず。


 ちっこい方のニュクスの呼び名は、ギリシャ語で1と2です。

 夜の女神「ニュクス」がギリシャ神話なので、当初4人ともギリシャ神話から名付けるつもりでしたが、作中の理由で記号に変更。


 それを調べているとき、GOOGLE先生が妙なことを言いました。

 「ギリシャ語で1はモノ、2はジ、3はトリ・・・」

 え? それラテン語では? ラテン語だとガッコで習ったけど?

 どうやら、WEB上に間違ったことが書いてあると、それをそのまま学習するAIは間違った知識を身に付ける模様。

 登場人物がかなりの割合でAIなこの作品に対して、ちょっと象徴的な出来事で笑ってしまいました。

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