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夜空に瞬く星に向かって 第二部  作者: 松由実行
第十五章 マーキー・ラナウェイ
52/82

7. 乗組員紹介


 

 

■ 15.7.1

 

 

 ニュクスの向こう側の空間に現れたのは、当然ながらレジーナの船内ネットワークに住む三名の美女、レジーナ本人とノバグそしてメイエラだった。

 どうにも 俺の周りには美人ばかり多い様に思えるが、当然のことと言えば当然のことで仕方が無い。

  生義体であるルナはそもそもそのように作られている。

  自分の相棒或いはパートナー、少なくとも身内になるであろうAIの生義体にわざわざ不細工な見た目を選ぶ変人は多くないだろうし、また生義体を売り出している企業だって、売り上げが良いであろう見た目の良いものを作るに決まっている。

 そのルナの生義体のコピーをベースにして身体中好きなようにいじり回したニュクスが、将来有望な姿の幼女であるのもまた当然と言えば当然だ。

 

 今新たにホロ画像として現れた三人にしても、折角自分の好きなように画像を作れるのだ。三人とも見目麗しい美女を選択するのは、これもまた当然と言えば当然のことだった。

 もちろんそれぞれの姿には彼女たち自身が課したある程度の縛りがあり、レジーナはルナの成長した姿、ノバグはブラソンが理想とするパイニエ美人、メイエラは義体であるエイフェが成長した姿だ。

 だとしても、当然見目麗しい方に寄せて画像を生成するわけであり、レジーナはまだどこか中性的な部分が残るルナが成長し、美しい大人の女へと変わった姿を再現しているし、ノバグはノバグで色々な面で要求の高いブラソンの理想を追求し表現したパイニエ美人となっている。

 同じパイニエ人の血であるエイフェが成長した姿であるメイエラにしても、心が壊れ人形の様になってしまったエイフェに「こうあってほしい」という理想を重ねた、溌剌として明るく美しい十代後半の少女の姿だ。

 という訳で、俺の周りが全て美人で埋まっているのは当然のことなのだ。

 

 そして三人の美女が空中に突然現れたこと自体については、侯爵達をそれほど驚かせることは無かった。

 それまで何も無かった空間に突然ホロ画像が投映されるのは良くあることだ。

 例えそれが美女三名だったとしても、驚くには当たらないだろう。

 そして普通のホロ画像よりも少々気合いが入った高解像度でノイズが少ない三名の姿が美しい所作で挨拶し、指向性音波干渉によって正にその口元から音声を発しているように聞こえる声で喋り始めても、その程度のことであれば街中の商店の店先で客引きをするホロ画像が似た様なことをやってのけるので、侯爵達一行を驚かせるほどのことでは無かった。

 

「このような姿にて閣下の御前に罷り出でることをお許しください。レジーナと申します。本船の管理管制全般を任されております。」

 

「お目にかかれて光栄です。ノバグと申します。本船にて通信関連業務を担当致します。」

 

「初めてお目もじ申し上げます。メイエラと申します。同じく通信関連業務を任されております。」

 

「以上が旅のお供を致します本船の乗組員七名です。お見知りおきお願い申し上げます。」

 

 少しタイトなデザインの大人びた僅かに白銀色に光って見えるパーティドレスを着たレジーナと、全体的に明るく華やかな色合いでまとめられ年相応に少し短めのスカートを着用したメイエラが完璧な動作でカーテシーを決める。

 二人に挟まれ、黒っぽい軍服のようなスーツに身を固めたノバグが、パイニエ式の敬礼をする。

 

 侯爵達は僅かに目を見開き、しかしすぐに元に戻ってそれぞれが簡単に挨拶を口にする。

 彼等を驚かせたのは、その画像の精細さや自然な動作などではなく、空間に投映された彼女達が機械知性体であるという事実そのものであるようだった。

 そして、侯爵の身の回りの世話をするという事になっている地味な服装のメイドがリトイリークという名であることを俺はここで初めて知った。

 

「本船はすでに閣下の領星であるスルードフュジェーフクを離れ、オフォードスグスワー星系外縁に向かって航行しております。差し支えなければ、お部屋にご案内申し上げる前にお茶などお召し上がりになりませんか?」

 

「ふむ。いただこう。有難い。」

 

 三人をソファセットに誘導する。

 主人の前で着席することを固辞する衛士長アウバッケドジースタとメイドのリトイリークを、本船にとっては三人とも乗客であるという理屈の上で侯爵からも許可を取ってソファに座らせる。

 すかさずワゴンを押したルナがやって来て、三人の前に湯気を立てるティーカップを置いた。

 

「すでに離陸しているのか? 乗員は皆ここに集まって・・・いや、そうか。姿はここにあっても、実際は彼女が船を飛ばしているというわけだな。」

 

 そう言ってティーカップを持ち上げながら、侯爵がレジーナを見る。

 

「ご明察でございます。私が船長とパイロットを兼ねておりますが、通常の操船であれば全てレジーナに任せておくことが出来ます。私よりも確かで繊細な操船が出来るほどですので、ご安心願います。」

 

「便利なものだ・・・ふむ、華やかで珍しい良い香りだ。これはテラのものかね?」

 

 ティーカップを持ち上げて茶を口にした侯爵が言った。

 初めての船とクルーで、出された飲み物に毒味など必要ないのだろうかと思ったが、そもそも宇宙船という完全密室で毒味などは不要という事なのだろう。

 真っ先に口を付けた侯爵に続いて、おつきの二人もティーカップを持ち上げる。

 

「はい。香りの高い茶葉を産出することで有名な島の、中でも深山でのみ採れる良質なものを選り選っております。」

 

 と、黑メイド姿のルナが完璧な笑顔で応じる。

 船内でルナの笑顔が見られるのは珍しいことだ。

 

 ちなみに、茶かそれに相当するものを飲むという習慣は多くの銀河種族がもっている。

 もちろん、封建社会で貴族が存在し、他の多くの銀河種族よりも文化的であるベルセンテルーク帝国にも茶を嗜む習慣がある。

 もっとも、「茶」と言われるものについて、地球同様に植物の葉から抽出するものだけではなく、植物の茎や樹皮を長期間水に漬け込んだり煮出したり、場合によっては原生動物の体組織を煮込んだりと、様々な形態のものが銀河中に存在するのだが。

 銀河は広いのだ。

 

「さて。国元も離れた。小うるさいジジイもここには居ない。いい加減、奉られたり申し上げられたりするのも肩が凝る。この先は普通に話してくれ。俺のこともディングと呼んでくれ。俺もお前のことをマサシと呼ぶ。良いな?」

 

 ティーカップを置いた侯爵が、姿勢を崩して背もたれに深くもたれ掛かり、少々悪戯っぽい笑みを浮かべながらいきなりそう言った。

 狩りにいくのに快適な自前の船と護衛を選ばず、わざわざ機械知性体が乗務していると分かっているこの船を選ぶくらいだ。

 侯爵自身が相当進歩的な性格をしており、その場合はこういう展開になるかもしれないと予想していたところは確かにあったのだが、本当にその通りのことを言い出すとは思わなかった。

 

「しかし閣下・・・」

 

「やめてくれ。本当に砕けた口調で良いし、俺のことをディングと呼んでくれて良い。様付けも無しだ。只のディングだ。」

 

 そう言って侯爵は背もたれに背を預けてもたれ掛かった姿勢で俺を真っ直ぐに見てくる。

 貴族相手には用心過ぎるに越したことは無い。

 俺は視線を横にずらし、侯爵と並んで座っている衛士長のアウバッケドジースタとメイドのリトイリークを交互に見た。

 二人とも苦笑いと諦めの混ざったような曖昧な笑いを浮かべている。

 

「本当に宜しいのですか?」

 

 と、俺は三人を交互に見比べながら念のためにもう一度訊いた。

 

「もちろんだとも。堅苦しくて常に侯爵でいることを求められる家からやっと外に出られたんだ。例え短い間でも、羽を伸ばさせてくれ。」

 

「ではディング・・・」

 

「『様』も要らないぞ。タダのディング、だ。口調も普段友人と話すときの口調にしてくれ。なんならそう命令するか?」

 

「分かった。じゃあ、ディング、と呼ぶ。」

 

「おう。それで良い。ちなみにこっちはタンダスで、こっちはレイシャだ。」

 

 と、侯爵サマ改めディングが衛士長とメイドを指した。

 二人のこともそう呼んで良いのかと目線で問うと、苦笑いを消さないままに頷いて返してきた。

 

「ダンダスはな、衛士長の家の息子だが、ガキの頃から側仕えみたいにして一緒に育ってきたんだ。俺より四つ年上で、まあ、兄貴分みたいなもんだ。バカやるときは大概一緒で、怒られるときも大概一緒だった。で、大概ダンダスの方がこっぴどく怒られるんだがな。だからガタガタ小言を言う奴が居ないところに偶には一緒に連れ出して、一緒に羽を伸ばさせてやりたかったんだ。

「レイシャは俺が家督を継いでから雇い入れた娘だ。身の回りに常に小言を垂れ流し続けるオバハンしか居なかったのがどうにも我慢できなくてな。小言を言うにしても可愛らしく言いながら、結局は俺の我が侭を聞いてくれるような、そんな甘えられるメイドが欲しかったんだよ。そういう意味ではレイシャは俺の理想のメイドだ。普段ババアどもからグチグチチクチクと厭味ばかり言われてるんでな。こっちも小煩いのがいないところで、短い間でもいいから骨休めしてほしかったから連れてきた。

「という訳で、マサシ、さっきお前が言った『三人とも乗客』というのに乗っからせてもらう。二人とも最低限の俺の世話はするだろうが、基本的には三人ともお前んトコに世話になる。いいか?」

 

 いきなりぶっちゃけやがった。

 まあ、嫌いじゃ無い。

 俺としても、奉ったり拝んだりするよりも、こっちの方が当然やりやすい。

 

「良いもなにも、それがこの船のサービスで、そもそもそういう契約だ。遠慮無く過ごしてくれ。

「では、ダンダスとレイシャと呼んでも?」

 

「もちろんだ。主人がディングと呼ばれているのに、下の者が様付けされるわけにもいかん。驚いただろうが、こいつは昔からこういう性格だ。その内いつかそれこそテラにでも亡命するとか突然言い出すんじゃ無いかと、昔からヒヤヒヤしてる。そういうわけで、しばらく世話になる。よろしく頼む。」

 

「はい、もちろんどうぞ。あ、私の口調は気にしないでくださいね。元々誰にでもこういう話し方なので。有難くつかの間の自由を謳歌させてもらいますね。この船はクルーが女性ばかりと聞いてたので、楽しみにしていたのですよ。」

 

「オーケイ。俺のことはマサシで良い。むずがゆいから『船長』とか呼ばないでくれ。こいつもブラソンで良い。」

 

 ディング、ダンダス、レイシャという呼び名は、いわゆる幼名というか、(あざな)とかニックネームに近いものだ。

 ベルセンテルーク帝国の、主に貴族とそれに準ずる名家で守り続けられている伝統とのことだった。

 生まれてすぐに、名前と一緒に親から付けてもらうのだそうだが、上下関係関係無く、ごく親しい者同士の間だけで許される呼び方なのだそうだ。

 公式な場や、普段家の中でさえあの言い難い長ったらしい名前が用いられるので、ごく親しい間柄の友人や親族の間でだけ用いられて、そのニックネームが用いられる場というのは、本当に気の置けない者だけが集まる寛いだ状態であると言う事が出来るのだろう。

 侯爵閣下は先ほどのような性格なので、帝国の一般常識からは完全に外れて、俺達地球人並みにお互い上下無く楽しくやろうぜ、という意思表示なのだろうと理解した。

 

 そうやってディング達と打ち解け合い雑談を始めたところで、俺の腰くらいの背丈の小さな人影が現れ、ダイニングルームを横切って俺の右足にかじりついた。

 

「マサシ、お客様なの?」

 

 ミスラは最近だんだん上手くなってきている英語を話した。

 自分で自分のことが考えられるような歳になったときに本人に選ばせようと考えているので、彼女は未だにチップを持っていない。

 英語を喋るのが上手くなっているのは、単純に周りの大人達に英語を喋る者が多いのと、子供特有の柔軟性と学習能力の高さによる。

 俺はしゃがみ込んでミスラを抱き上げた。

 

「驚いたな。そんな小さな子供も乗っているのか? お前の子か?」

 

「いや、俺の子じゃ無い。ちょっと訳ありでな。この船で預かっている。ミスラと言う。ほらミスラ、ご挨拶するか。」

 

「初めまして。ミスラと言います。レジーナへようこそ、お客様。」

 

 と、ミスラは俺に抱き上げられた状態で、俺の腕の上で器用に上半身を回して英語で挨拶をした。

 

「ああ、初めまして。俺はデイング、こいつはダンダス、こっちのお姉さんはレイシャだ。よろしくな。」

 

 ディングもそれに英語で返す。

 どうやら地球船籍であるこの船に乗るために、彼等は地球標準語である英語をわざわざインストールしたようだった。

 そういうところも貴族らしくなくて好感が持てる。

 

「あのね、お腹が空いたの。レジーナが、お客様へのご挨拶は終わったから、もうご飯食べに行って良いよ、って。」

 

 と、俺とほぼ同じ目線の高さのミスラが、こっちを向いて言った。

 どうやら最初の堅苦しい挨拶が終わり、場が和んだのを見てレジーナがミスラの顔を見せるように計らってくれたようだった。

 

「一人で出来るか?」

 

「大丈夫。タマにもご飯をあげるの。一緒に食べるの。」

 

 一人で出来るもなにも、レジーナに言えば数分後にはオーブンと兼用の合成チャンバーの中でナノマシンによって作られた熱々の料理が出来上がって出てくる。

 後は火傷をしないようにダイニングテーブルに持っていって食べれば良いだけだ。

 ちなみにタマのご飯というのは、ただの純水だ。

 唯一心配なのは、動物全般が水さえやっておけば生きていけるとミスラが誤解してしまうことだが、その辺りは追々教えていくことにする。

 

「よし、じゃあミスラはご飯だ。俺達はお客様を部屋に案内する。」

 

 そう言って俺はミスラを床に降ろした。

 自由になったミスラが、キッチンに向けて再び駆け出した。その後ろをタマが追いかける。

 その元気な姿を、乗客の三人が笑みを浮かべて見送る。

 

 ふむ。

 我が侭なお貴族サマの狩猟に付き合わされてストレスで胃壁と毛髪と精神がゴリゴリ削られるような依頼になるかと思っていたのだが、この三人の人柄が良かったお陰でどうやら悪くない依頼になりそうだ、と思った。

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴き有り難うございます。


 なんかこの作品に似つかわしくない、ほのぼのとした日常風景が広がっちゃったりしちゃってますが。

 大丈夫です。

 その内ご期待に添える様な展開になる筈です。


 (・・この作品に似つかわしい、ご期待に添えるような展開、ってどういうのだろう・・・?)

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― 新着の感想 ―
何が起こるんだろうなぁ。 目的地にスターゲイザーでも居るのかな。
後書きに反応してはいけないと、分かっているのに、やめられない、、、 >  (・・この作品に似つかわしい、ご期待に添えるような展開、ってどういうのだろう・・・?) ゑ?読者の想像の斜め上をぶっちぎる…
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