⭐︎ヒーローごっこ
「ひろちゃん、ユキね、ヒーローになりたいの!」
俺の家は両親共働きで、学校から帰ると宿題に取り掛かる俺と、テレビにかじりつく妹の雪音がいる。
お友達の話と、アニメに影響されまくる雪音は時々とんでもないことに妄想を膨らませる。
「ひろちゃん、ユキ、ヒーローになりたいの!」
普通ヒロインじゃないのか、そこは? と突っ込みたい。ただ、雪音の厄介なところは、「ヒーローになりたい」という言葉をストレートに受け取るととんでもない事件に発展する。
まずは何の影響でそう考えたのか確認だ。
「誰がヒーローの話をしたんだ?」
「タケシくんだよ!」
タケシくんは俺がキャラ弁を持っていかないから、時々靴を隠したり、無視したりイジメてきたけど、今はすっかり仲直りした。
どうやらタケシくんは雪音のことが好きらしい。だから俺のことが嫌いだったのかもしれない。
「タケシくんがヒーローになるってことか?」
「うん! タケシくんがね、ユキのヒーローになるっていうから、ヒーローって何? って聞いたの」
「うん」
「ヒーローは、好きなコを悪の手から守るんだって!」
まともだ。
今日の雪音はまともなことを言っている。じゃあタケシくんの影響で何かヒーローアニメに影響でもされたのかな、と思う。
でも今の話だと、やっぱりタケシくんは雪音のことが好きなのか。ちょっと兄としては複雑だけど、もう仲直りしたし、遊んでくれるしいいか。
「それで、雪はどうしてヒーローになりたいんだ?」
「ヒーローは好きなコを守るんだよね?」
「ああ」
まあ、大雑把に言うとそれで間違いない。
世の中に溢れているヒーローもののアニメや特撮は好きなコというよりも世界を守るとか大きな目標はあるけど、小さい世界で考えると身近な大切な人を守ることに変わりない。
「だからね、ユキはひろちゃんを守るヒーローになるのだ!」
「……はい?」
「好きなコを守るんでしょ? ユキの大好きなひろちゃんを守るために、ユキはタケシくんと一緒に世界平和の為にヒーローになるの!」
世界平和とひろちゃんを守るは全くつながらない。しかも、雪音は多分、世界平和という意味が分かっていないだろう。
「悪のひろちゃんめ! ユキの大切なひろちゃんを守るために戦うぞー!」
「って、俺が悪役なのかよ!」
「だって、タケシくん居ないからヒーローごっこ出来ないじゃない。今度ひろちゃんが攫われたお姫様ね!」
「何のアニメに影響されたんだよ!!」
雪音の大好きなカエルのぬいぐるみ攻撃を浴びながら俺は飽きるまでヒーローごっこに付き合う。
ヒーローの捉え方は完全に間違っているけど、雪音が俺を守りたいと思ってくれる気持ちは嬉しいかな。




