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文化祭に行ってみよう


 俺は秋の文化祭で磯崎のいる体育大学に入るチケットを譲り受けた。最近変なやつが侵入するので大学もセキュリティが厳しくなったらしい。

 門の近くで簡単な荷物検査と、まるで空港に入るように警備員に身体チェックをされた。


「うわー、流石体育大学。グラウンドも広いな」

 

 敷地は俺の通う大学の倍くらいで、各部活がそれぞれ力を発揮出来るようにグラウンドが高校時代の倍整備されていた。

 

「ねーねー、ひろちゃん、磯崎さんどこ?」

「ん? ああそうだな。あいつに会いに行くのが目的だったか」


 正確には、あいつが持ってきた女性の写真が雪音の何かを刺激したみたいで、牽制したいのか何なのか。頼むから他校で問題だけは起こさないで欲しい。


「雪、とりあえず離れるなよ。お前こんな広い学校だと必ず迷子になるからな」

「はーい」


 嬉しそうに俺にぴったりくっつく雪音。何故腕に絡みついてくる必要があるのかわからないが、流石に文化祭で子連れのファミリーやカップル、在校生やOBでごった返している状態なのでまあいいやと軽く流す。


「おう弘樹、来たか」


 一年生の屋台コーナーで磯崎は焼きそばを作っていた。新人は屋台がメインらしい。

 

「こんにちは、雨宮さん」

「こ、こんにちは。雨宮弘樹です。磯崎がお世話になっています」

「何で俺が真美の世話になってる設定なんだよ!」

「当たってるわ〜。ほんと大変なのよコイツ。それで、お隣の子が──」

「ほら。雪、ちゃんと挨拶して」

「……こんにちは」


 何で女性相手だと突然萎縮するんだろう。雪は不貞腐れたように唇を結んで俺の腕にしがみついていた。まるで子どもの時と変わらない。でも雪音も16歳。いい加減社交性を磨いて貰わないと困る。


「雨宮さんの妹さん可愛いわねー。モデルさん?」

「ああ、前に牧野ジェシカちゃんと同学年で仲良くさせてもらっていたから……」

「うっそー! ジェシカとお友達なの!? それ凄いことよ。わー、サイン貰いたかったなあ」


 ジェシカちゃんはよく遊びにきていたので、何となく近所のお友達感覚になっていたが、本場では有名な子役とモデルを兼任しているらしい。日本は安全だけど、あっちでは常にボディガードがいるとかなんとか。

 俺と真美さんが親しそうに会話が弾んでいる様子を磯崎は満足そうに見つめていたが、左腕を握りつぶしそうなくらい機嫌の悪い雪音の対応に困った。


「ちょっと雪ちゃんと話あるから、弘樹と真美は離れてて」


 磯崎が焼きそばを作る手を止めて何やら雪音に耳打ちしていた。──あいつの助言なんて嫌な予感しかしない。


「雪音ちゃんだっけ。めちゃくちゃ怖い目で見てくるんだけど」

「ごめん。あいつ女子高なんだけど交流範囲が狭過ぎて……女子で仲良くしてくれる人いないかな?」

「なるほど、そういうことね。今度雨宮さんが居ない時に話しかけてみるわ」


 ブラコンの雪音は態度に出まくるので残念なことにすぐバレる。

 有難いことに磯崎の友達さん数名が今度雪音とサシで会ってくれることになったので、これで年上のお姉さんからおっぱい大きくしたい話や俺の魔法使いのことを訂正してもらえるだろう。


「雪、話は終わったか?」

「うん! ありがとう磯崎さん。またねえ」


 何の話をしたのかわからないが、雪音はちゃっかり焼きそばを2パック貰いまた俺の腕に絡みついてきた。


「何かいい話聞けたか?」

「あのね、磯崎さんのお友達が雪のおっぱい大きくしてくれるんだって」

「そ、そうか」


 多分、真美さん達が牛乳では大きくならないと真実を告げてくれると思うのだけど、まさか、磯崎の男友達に雪音を渡すつもりじゃないだろうな?


「そんで、そのお友達って誰か聞いたか?」

「えっとね。あ、さっきの女の人と、もう一人」


 そういえば、雪音は男が苦手なんだった。磯崎と田畑だけはいつも俺が家に連れてきていたから安全な男と認識して大丈夫らしいけど、今もこの大学にいる知らない男が自分の距離に入り込むと具合が悪くなるらしい。

 磯崎に男を紹介してもらったとしてもまだ雪音が新しい恋にいくのは当分先の話かもしれない。



 大学から出ると雪音の顔色はかなり良くなっていた。


「ひろちゃん、焼きそばここで食べようか」

「……なんで中の食事処で言わないんだよ。外で食べたら怒られるから持ち帰りするぞ」

「ええー、屋台の焼きそばはその時に食べるから美味しいのにい……」


 不貞腐れる雪音の手を握り、焼きそばの入ったビニール袋を持ち帰路につく。


 雪音が男と人混みが嫌いなの分かっていたけど、気づいてやれなくてごめんな。

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