学園祭その2(S女編)
雪が学園祭チケットを家族分として2枚取ってきてくれたので、俺は1枚佐野に渡し、佐野は遠方の親戚という設定にした。
元々俺と雪は苗字が違うので佐野も親戚と言った所で怪しまれる心配は無かった。
「弘樹の妹ってなんで苗字違うんだ? 芸名か?」
「あ〜……まあ、俺と雪は母親が違うから」
「そっか……そうだよな、わりぃ」
全く苗字について気にしてなかったので自分から友達やクラスメイトにこの事を話した事は無い。
雪と一緒に家に来た母さんは仕事でかなり忙しい人だが休みの日はいつも家の中を綺麗にしてくれている。
親に参加して欲しい行事があれば声をかけると必ず参加してくれるし、あんなに忙しいのに緊急で病院から呼び出しが来るまで雪と俺の運動会にも来てくれた。
母さんはかなり料理が苦手だと言うのに、前日から一生懸命作ってくれたお弁当は久しぶりに家族4人で食べる事ができて、何よりも凄く美味しかったのを覚えている。
「こちらにゃんにゃん喫茶ですぅ〜♪」
「おい、弘樹……S女ってこんなのOKになったのか!? お嬢様学校だろ……?」
佐野に袖を引っ張られて俺は左側で客引きをしている猫のコスプレ美女達を見て息が止まった。パンツが見えそうなくらい短いスカートに、ニーハイの白いソックス。靴は学校で使っている黒のローファーだ。
確かに、雪が入学した時は学校の規則は厳しく、そもそも男子禁制なので学園祭と言えどかなり厳かに行われていたはずだ。
今回佐野に言われなければ俺もここに入れるなんて思ってもいなかったし、周りを見てみるとまるで共学校のノリだ。客もカップルだったり子連れだったりかなり自由に見える。
「変だなあ……前は確かこういうのダメだって聞いてた気がする」
「だから弘樹に頼んでここに入らせてもらったんだよっ! こりゃとくダネだろ、なんたってお嬢様学校で猫メイドコスプレだぞ! しかも今年はミスコンもあるって言うし!」
ミスコンと呼ばれて俺はふと先日見つけた雪のスクール水着を思い出した。まさかと思うが、よくテレビで見かけるミスコンみたいにかなり際どい水着姿で何か披露するのだろうか。
そもそも、胸がまな板気味な雪のスクール水着姿なんて……オタクの萌えにしかならない。
大切な妹が知らない男共の変なオカズにされるのは流石に耐えられない!!
「ミスコンって、何時から?」
「ええと、パンフには12時から受付で、発表は14時──って弘樹!?」
「悪ぃ、佐野適当に1人で回ってくれ」
何としても雪を止めないと。グランプリになるならないはともかく、あんな姿で外に出たら本当に危ない。
「あれ、弘樹さん。来てたんですね」
俺は偶然にも常識人である田畑の妹、麻衣ちゃんに遭遇した。彼女が猫メイドコスプレになっていない様子を見て俺は心底ほっとした。
「良かった……麻衣ちゃんが普通で」
「ああ、猫の事ですか? 私……そういうのは恥ずかしいし断りました」
綺麗な麻衣ちゃんの猫メイドコスプレはかなり萌え人口を増やしそうな気はしたが、絶対に着ないという自分の意思を貫いたのだろう。
「ごめん麻衣ちゃん。雪をどっかで見なかった?」
「雪ちゃんはミスコンに出るので3階の控え室ですけど……」
「もうそんな時間なのか!? 早く止めないと……」
「あ、弘樹さん、3階は控え室と準備で使うので学生以外入れないです。雪ちゃんに用事なら私が伝えて来ますよ?」
「悪いね、雪にミスコンには出ないよう伝えて貰える?」
「?……分かりました、それだけなら言ってきます」
麻衣ちゃんはすぐさま3階まで走り、雪に伝言を伝えに行ってくれた。
どうなるか分からないが、とりあえずこれであのスクール水着を誰かに見られる事は無いだろう。
俺はその後に佐野と再度合流して猫メイドカフェで何とコスプレしている彩ちゃんにも遭遇した。
俺の妹の友達がみんな可愛いと佐野がカメラを回してはしゃいで喜んでいたが、彼女らの真の姿を知っているだけに俺の心は完全に達観していた。
「おい、弘樹そろそろ時間だぜ体育館行くぞ」
一応雪がエントリーしていない事を確認すべく、俺もミスコンを見に会場へと向かう。
人数制限されているようで、出場者に近づけないように本物の警備員まで配置されており、席も既にチケットで決められているようだった。
「まるでアイドルのイベント会場みたいだな……」
「いやぁ〜、まさかお嬢様学校がここまで変えてくるとは。新しい校長先生がなかなかいい味出してるとしか思えない! 後は牧野ジェシカの転校かな」
そう言えば2年生になった時にジェシカちゃんが転校してきて、それを受け入れたのも校長が変わったからだったか。
時代の流れを取り入れたのか、斬新な雰囲気に変わって良い事だと思う。
『これより、第1回、S女ミスコンを開催致します〜!!』
エントリーしていたのは1年生から3年生までの計15名。それぞれ特徴が異なっており可愛いから美人揃いだ。
「あれ──雪……何で出てるんだ!?」
「なんだ? 弘樹の妹さんもいんのか? どれどれ──」
確かに俺が危惧していたスクール水着では無かった。
全く見覚えのないピンク色のワンピースはともかく胸周りがやけに膨張されておかしい。
他の人は誰も雪のヘンテコな胸に気づいていないようだったが、俺は彼女がヘマをしないように心の中で祈り続けた。




