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彼女と別れたら周りの女子が慰めて  作者: 魔桜


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第35話 姉をストーキングする者達

 最近は忙しくて暇がなかった。

 学校という苦行も終わり、土曜日で今日は予定が何もない。


 ということで、久しぶりに家でゴロゴロすることにした。

 読みたい漫画もあったので充実した日になりそうだ。

 そう思っていた矢先、


 コンコン、とドアをノックされる。


「はーい」


 俺は気怠げにドアを開けると、そこにはツユが立っていた。

 家の中だと言うのに、珍しく部屋着ではなく、外に着ていく服を着ていた。

 動きやすい格好で、小さいバックも持っている。


 その格好だけで何か嫌な予感がした。


「兄さん、今日暇?」

「――暇じゃない」

「……少し間がありましたね。暇なんですね。少し付き合ってください」

「俺に何をさせる気なんだ」


 何か特別な用でもなければ、わざわざ部屋まで来ないだろう。

 普通の要件ならば、スマホで連絡を取ればいいだけだ。

 わざわざ部屋まで来るってことは、もしかして急ぎの用事なんだろうか。


「人聞きが悪いですよ、兄さん。ただ一緒に来て欲しいだけです」

「絶対何かあるだろ」

「何もありません。ただ、少しいつもとは違う事をして欲しいだけです」


 ほらきた。

 どうせ厄介事だ。


「……最近、何かお姉ちゃんがおかしいと思いませんか?」

「え? ライカさんが?」

「はい」

「……いや、何も」


 なんでいきなりそんな質問をされるのか分からないけど、特に思い当たる節はない。

 ライカさんはいつもと何も変わらないはずだ。


「鈍いですね。最近、綺麗になったと思いませんか?」

「……いや、いつも綺麗だけど」

「そういうことじゃありませんから! 恋ですよ! 恋! 恋をしているから綺麗なんですよ」

「こ、恋……?」


 恋をしただけで、そんな綺麗になるかな。

 それに、やっぱりライカさんは特に変わったところはない気がするけど。

 妹だから分かることがあるんだろうか。


「そうかな?」

「姉さんが恋をしている証拠はまだあります。昨日、私に今日の予定を聴いてきたんです」

「うん。それで?」

「だからそれが証拠ですよ。今日、彼氏とデートする気なんじゃないでしょうか!?」

「その発想はいきなり過ぎないか? 彼氏っているのか?」

「だからいるかも知れないって話です!」


 この言い方だと、証拠、証拠、言う割には証拠なんて何一つなさそうだ。

 全部想像だけで話が進んでいる気がする。


「ライカさん、今日がご飯当番だったから、ツユが昼ご飯を食べるかどうか訊きたかったんじゃないのか?」

「そんなことないです! 私の勘は当たるんです!」

「……どこからその自信は出てくる――」


 話している途中に、ドアがノックされる。

 俺は思わず口を閉じると、


「ソラくん。ツユちゃんがいないんだけど、知らない?」


 噂をすれば影。

 ノックをした相手はライカさんだった。


「ツユは――」


 袖を掴まれて、首をブンブン振る。

 シィーと人差し指を口の前に持ってきているのは、黙っていろってジェスチャーか。


 別に隠れる必要なんてないと思うんだけどな。


「……知らないけど、どうしたの? ライカさん」

「今から少し出かけてくるから、ツユちゃんに何か訊かれたらそう伝えておいて。それから昼食は冷蔵庫にタッパーに入っているから、自分で温めてくれる?」

「ああ、分かった。行ってらっしゃい」

「うん。行ってきます!」


 家にいるかとも思ったんだけど、外に出るつもりではあるのか。

 わざわざツユに予定を訊いたってことは、数時間は戻ってこないつもりか。


「……何しているんですか?」


 ライカさんの遠ざかる足音が聴こえなくなったのを見計らって、ツユが両肩に手を置いて来る。


「追いかける準備を早くしてください」

「追いかけるって、ライカさんを? なんで?」

「妹としては自分の兄になる人がどんな人か気になるじゃないですか」


 野次馬根性丸出しだな。

 だけど、流石にその発想は下品すぎる。


「止めとけって。仮にデートだとしても、放っておいた方がいいだろ」

「姉さんはしっかりしているようで騙されやすいんです。いいんですか? 姉さんが男に騙されたら」

「そんなこと――」


 ない、とは言い切れない。

 人の善意というものに疑いを持たない人だ。


 どんな恋愛をしようともライカさんの自由だけど、どんな人物なのか確かに俺も気になる。

 あの人のハートを射止めたのは誰なのか一目見るのもいいかも知れない。


「分かった。遠くから少し見るだけならいいかな」

「それじゃ、行きましょう。姉さんのデートを尾行しに」



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