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彼女と別れたら周りの女子が慰めて  作者: 魔桜


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第31話 ストーカー対ストーカー


「この私を呼んだみたいね!!」


 家の玄関を開けると、そう言って仁王立ちになっているのはアイだった。


「まあ、呼んだけど……」


 五月蠅いな。

 近所迷惑を考えて欲しい。


 考えが合って、スマホでアイを呼び出したのだが5分以内に来てくれた。

 速いのは嬉しいが、あまりにも速すぎる。


 俺の家の近くで散歩でもしていたんだろうか。


「お邪魔しまーす」

「……別に挨拶しなくていいよ。今は家に親はいないから」

「え? つまり、そういうこと?」

「多分、アイの考えている事ではないと思う」


 別に親がいない時にアイを連れ込んだ訳じゃない。

 スマホで要件を伝えられないほどに、重要な件だっただけだ。


「…………」


 柱の影からツユが出てきた。

 彼女にも一緒に話をして欲しい為に呼んだのが、大丈夫だろうか。

 気分が悪いのか、フラフラしている。


「なんだいたの? せっかくソラと二人きりだと思ったのに」

「……どうも」

「どうしたの? 妹風情。やつれてない?」

「…………」


 元気だったら嫌味の一つでも返すところだが、何も言えないようだった。

 喋る気力すらなさそうなツユの為に、俺が口を開く。


「実は……」


 俺はかいつまんで今の状況を伝えた。


 妹のツユが引きこもりになってしまっていること。

 その原因がストーカーで、どうやら警察や弁護士など、頼れる機関に頼ったけど、結局今は何もできないってこと。


 そして、この状況を打破する為にアイを呼んだことを。


「……申し訳ないけど、私にだって何もできないけど……」


 流石のアイも自信なさげだった。

 でも、俺はこの状況をどうにかできるのはアイしかいないと思っている。


「……ストーカーを退治して欲しい訳じゃない。ストーカーを特定して欲しいんだ」

「ストーカーを特定? どんな人物か分かっているの?」

「監視カメラを見て、怪しい人の目星はついている」


 スマホに監視カメラの映像の写真を保存してある。

 それをアイに見せる。


 監視カメラを仕掛けてから、何回か映っている男だ。


 そんなに寒くないのにニット帽を被って、マスクをしている。

 素性を隠しているように見えるのは考え過ぎなのだろうか。


「……でも、この人がストーカーかどうかは分からないってことよね?」

「ああ。でも、こいつがストーカーで、尚且つ素性が分かれば追い詰めることができるかも知れない」

「その方法は?」

「SNSだ」

「SNS?」


 アイは首を傾げる。


 いきなり結論だけ言ったので理解できなかったのかも知れない。

 俺は補足説明を入れる。


「SNSだったら若い世代の人間だったら全員やっている。それに、こいつは動画のコメントで随分とコメントを書いていた。つまり、他のSNSでも書いている可能性がある。そこからこいつの素性が分かるかも知れない」


 俺やツユはそこまでSNSをやっていない。

 ツユは動画の宣伝の為のアカウントはあるみたいだが、そこまで詳しい方じゃない。


 だから、SNSに詳しいアイがこの件で頼るのは正しい判断だと思っている。


「そのアカウントを見せてくれる?」


 俺はストーカーのアカウントを見せる。

 するとアイは、


「……少し考えさせて」

「分かった」


 それから数分。

 腕組みしながら黙考すると、


「……多分、私一人じゃどうしようもないわね」

「そうか……」

「勘違いしないで。私一人じゃ、って意味」

「じゃ、じゃあ!」

「ええ。でも、その為には妹風情が身体を張る必要がある」

「え?」


 ツユに視線が集まる。

 いきなり水を向けられて言葉が続かないようだ。


「大丈夫?」

「いや、やっぱり、いい。ツユは頑張らなくていい」


 アイが覚悟の確認をするがその必要はない。


 ツユは何もしなくていい。

 もう十分頑張っているのだ。

 これ以上頑張ることなんてない。


「で、でも、このままだと泣き寝入りするかも知れないんですよね? だったら、私、頑張りたいです」

「ツユ……」


 声が震えている。

 誰がどう見たってただの強がりだ。


「……決まりね」

「ちょっと待て! ツユに何をさせるつもりだ!?」

「その辺を歩いてもらうだけよ。勿論、お兄さんと一緒でいいわ。それに、遠くから私の家の人間を安全の為に配置してもいい」


 まだ直接的な被害は出ていない。

 外を歩くぐらいだったら、相手は何もしてこない、か?


「それだったら――いいか?」


 ツユに向かって疑問を投げかけると、コクンと頷く。


「それじゃ、早速準備に取り掛かるわね」


 アイはスマホを取り出すと操作し始める。

 ソッと画面を見やると、どうやら誰かに連絡をするつもりのようだ。


「俺がアイに頼んでなんだけど、どうするつもりだ?」

「とりあえず、相手の素性を調べればいい訳でしょ? その為に必要な物を家の人間に言って調達してもらうの」

「……調達? 何を?」


 アイはふざけている様子など微塵も感じさせない顔で簡潔に答える。


「伊勢海老」



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