歪な世界 Ⅰ
ー港町フリート沖合:DDH‐182いせ CIC-
使節団のヘリが発艦してから3時間が経過した。
当初は艦隊が攻撃を受ける可能性が危惧されたものの、現在は気味が悪い位に町は平静を保っている。
だが、それでも周辺海域の警戒は怠らず、ありとあらゆるレーダーとソーナーが帰還手段と使節団を護る為にその目を光らせていたーー
「・・・何でだ。」
「・・・ん? 何でって?」
CICでソナー員を担当している2等海尉は画面を見ながらも、考えていた事に対する疑問をつい口に出してしまった。
「ああ、あれだよ。使節団の中間報告。」
「あー。それは俺もさっき聞いたけど・・・別におかしいところは無かった筈だぞ?滑り出しは好調みたいだし。」
「それだよ。・・・それがおかしいんだ。」
「・・・・・・?」
彼の同僚は頭の上に疑問符を浮かべながら、無言で先を促す。
「俺たち、言っちゃあなんだが・・・この国にとっての黒船だぜ?
しかもここは中世位の文明だろ? 普通は侵略されないか警戒するっての。」
「確かに、そうだな。警戒心が薄すぎる気がする。」
「だろ? しかも、だ。 交代の時に便所に行ってたら増田の奴に出会ってさ、何て言ったと思う?あいつ。」
「あいつは確か艦橋にーーああ、分かった。沿岸を双眼鏡で見たんだろう?というかそれしか無いが。」
「そ。人で埋め尽くされていたってさ。数えきれない程にね。江戸時代と真逆だな・・・ホント。」
「オイマジか。」
「マジだ。」
「・・・で、最初の疑問に戻る、と。」
「もしかするとこの世界では侵略とか戦争という概念が希薄なのかもしれないな。だから、俺達を見ても驚きこそすれ、怖がらない。そうすれば全て辻褄が合う。」
「まさか、有り得ない。」
「・・・そうだな、うん。--おっと、監視に集中集中っと。」
かなり小声で会話していたつもりだった2人は、何処からかやってきた地獄耳の先任伍長にバレないよう、急いで本来の任務に全力を傾けた。
そしてその時ーー
「ーーッ!?」
「アクティブソーナーに反応有り! IFF応答なし、国籍不明、7時の方向、距離8000、深度70!
ーー隻数200を超える!」
いせに装備されているOQQ-21 ソナーシステムは、その能力を遺憾なく発揮し、
ーー常識からかけ離れた、余りにも多すぎる数を寸分違わず捉えた。
「・・・全艦、対潜戦闘用意」
「艦長!?」
「復唱はどうしたかッ!」
「た、対潜戦闘用ー意!!」




