時間よ、止まれ
ー深夜・官邸危機管理センター:緊急災害対策本部ー
日本国の総理大臣官邸。 その地下には、2002年から24時間体制で運用されている
”危機管理センター”が設けられている。
もし大地震や火山の大規模噴火が発生すれば、空気は張り詰め、官僚や職員達は一睡もせずに国民、しいては日本を守るために奮起するだろう。
だが、今回の事態を受け設置された”緊急災害対策本部”の会議室ではーー
沈黙と絶望が場を支配していた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
誰も口を開こうとしない。・・・いや、できない。
自分の中の”常識”と”現実”の乖離が著しい時、人はどうなるのかが今、この場で如実に現れている。
ーーしかしながらこの場にいるのは、殆どが俗に”エリート”と呼ばれる人種だ。
当然彼らは有能であり、故に今、自らのの役目を果たそうとしていた。
「・・・各大臣は現状を報告せよ。 金木君、君からお願いしたい。」
五十嵐総理大臣はのろのろと口を開き、機械のように抑揚のない声で会議を始めた。
ーーその目に光は無い。
「財務大臣より現状報告。まず、株式市場についてですが、”転移”直後に全ての取引を停止しました。
最善の措置ではありますが、経済に及ぼす影響は著しく重大であります。
また・・・我が国の有する対外資産残高は約1100兆円にも上るのは皆様ご存じかと思われますが、
全てが水の泡と化しました。何も対策をしなければ、経済の崩壊は必至であります。」
「了解した。次、佐藤君。」
「経済産業大臣より報告します。現在我が国の石油備蓄量は208日分であり、諸外国からの輸入が途絶 えた今、石油を確保する手段を持ち合わせておりません。
それに関連してエネルギー面も深刻であり、発電の多くを火力に依存している現在、必要最低限の電力すら賄えません。許可が下りている全ての原発の全力稼働を意見申し上げます。
今日・・・いや、先日のような大規模停電を続けたとしても、持って1年です。
早急に日本周辺海域の資源を調査・開発しなければ、文明は崩壊します。」
「クソッタレだ。 ・・・岸部。」
「農林水産大臣、報告します。日本のカロリーベースの食糧自給率は38%です。政府備蓄米を放出すれば暫く持ちますが・・・早急な改善が必要です。また・・・我が国はリンを全て輸入に頼っています。
このままでは餓死者が大量に発生し、治安は崩壊します。沖縄県北大東村沖大東島のラサ島鉱業所を再稼働させても、それだけでは不足しています。産廃からの採取も可能ですが、少なすぎて非現実的です。」
「・・・・・・河野、”調査結果”は?」
「防衛大臣、現状報告。政府の要請を受け、15時間前に航空自衛隊はF-15J/DJ改による航空偵察を実施。日本より南西400km地点と東200km地点に陸地を発見。前者はイーグルのパイロットが文明の存在を確認。迎撃の気配は無かったとのこと。別動隊によって港らしきものも確認された。後者は完全な無人島であり、資源の有無は不明。・・・だが、これで希望が出てきた。」
ーー総理の目に光が戻る。
「海自と海保はどうなった?」
「報告を続ける。海上保安庁の測量船が測量を行っていた所、大型の海洋生物の群れに襲撃された・・・とのことだ。」
(!?)
「だが幸いにも、護衛の任務に就いていた佐世保の”しらたか”によって撃退された。・・・次からは船舶には必ず護衛を付ける必要がある。」
「そうか・・・」
「今、各艦が持ち帰ったデータを元に海洋の地図を作成している。少しすれば完成するだろう。」
「・・・・・・よし、次、青葉文部科学大臣。」
「え~~報告。”転移”直後、全衛星との通信が途絶、現在に至るまで死力を尽くし復旧作業を急いでいるが、どのような反応も返ってこない事から、恐らく、衛星は”転移”していないものと思われーー」
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そして数日後、日本政府は確認された文明と国交・通商条約を結ぶことを決定した。
文明崩壊まで、あと1年ーー




