星の降る日
父が大昔のことを教えていると、子供は眠くなってしまったようです。
だからこの話はいったんおしまい。
とある辺境。煌々たる文明の光から遠く離れた地。
冬の夜空を照らす冷たく澄んだ月光は、眼前に広がる砂浜をも蒼く染め上げている。
一面に浮かぶ星々は眩しいほどに強く輝き、今にも落ちてきそうなほどに大きい。
すべてを凍てつかせるかのごとく吹き荒んでいた寒風は既になく、単調に反復を繰り返す波のかすかな音は、まるで時間が止まっているかのような感覚を少年に与えている。
さて、一体どれほど待っただろうか。
何かに集中せず漫然と過ごしているとき、時間の進みは耐え難いほど遅く感じるものだ。できる限りの厚着をしてきたものの、冬の寒さは温かみをじわりじわりと奪っている。このままでは家に向かって踵を返すのも時間の問題だろう。
おおよその時間は分かっているというのに、気がはやって1時間も前に飛び出したことを、少年は少しばかり後悔した。
ラジオ、そう呼ばれる小さな箱を兄が持って帰ってきたのはつい最近のことだ。
取っ手をぐるぐると回すと、王都でもそうそう聴けないような音楽であったり、珍しい出来事や情報を伝える「ニュース」が流れるようになる不思議な代物だ。
情報から隔絶された辺境に新たな風が吹き込んだが、次第に退屈に思うようになった。1日1回、決まって朝に放送されるニュースの内容は、自分にとって全く関係のないものに思える。
それもそうだ。このような辺鄙な場所で放送に値する出来事はそうそう起こらない。
曰く、なんちゃらという国の誰べえ王子が王国の姫様と結婚した。
曰く、遠く東にあるうんたらかんたらという島で綺麗な日の出が見られた。
曰く、魚が多く捕れて王国の沿岸都市の市場が賑わっていて経済がどうたら。
曰く――
今夜、流れ星が見られる。最もよく観測できる地域は辺境である。
そのニュースを聞いた少年は、必ずや流れ星を見ようと決意し、今に至る。
そして遂に、光が一筋、太く短い尾を引いて夜空を駆ける。
「——あ」
少年は思わず声を上げた。
一筋だけではない、続いて二筋三筋と、片手で数えきれない量の流星が到来する。
なるほど、最もよく観測できると言われるだけあって、「大地に激突するのではないか」と錯覚してしまうほど、とても近くを飛んでいるように見える。
それはまさに「駆ける」という表現に相応しい速さがあり、砂浜の絵画のごとき優美さと合わさって、初めて流星を見る少年にとって忘れられない記憶となった。
「これが、流星群かぁ・・・」
辺境の言い伝えでは、流れ星を見た者には細やかな幸運がもたらされるという。
少年は暫く空を見つめた後、満足した足取りで白息を吐きながら帰路に就いた。
あれは流星群だ。そう、あれは流星群。
次のニュースです。
日本国の国立天文台王国支所は、今夜の午後10時20分ほどに、東の空でごく小規模な流星群が観測できると予測しています。月明かりの影響を受けるため、最もはっきりと観測できる地域は王国東部となるでしょう。現在王国東部に留まっている台風は勢力を減じつつあり、今日の日の入りまでには晴れる見通しです。
次のニュースです――




