We are brotherhood on the earth
必要なことは全てやり通した。
反対する与野党政治家を説得した。
政権が揺らがない程には国民の合意を得た。
明瞭な計画を立て、膨大な予算を通し、優秀な人材を割り当てた。
もはや、目的の達成が為されるまであの計画が止まることは無い。
我は死なり、全てを破壊する者なり
― ロバート・オッペンハイマー ―
この武器は非道な現代人に委ねることのできないものである
― ロバート・I・キャノン師 ―
「彼」の目の前には、防毒マスクを着用した現代歩兵が存在している。
よくよく見れば、この2人だけではない。迷彩効果によって樹海に溶け込んだ兵士が30、40。ざっと見た限り100は超えるだろう。その手に持つのは近代的な自動小銃――少なくとも彼の祖国では使われていないものだ――であり、煌の部隊でないことは火を見るよりも明らかだ。
現実感の無い、余りにもイレギュラーな光景を映す眼が閉じられ、開かれる。
そして再び閉じ、開く。やはり、依然として幻覚の如き兵士達は存在している。
「確かに、そこに居るのですか?」
「――はい」
双眼鏡を携えた男がくぐもった声で答える。嗚呼、これは幻覚でない。
マスクの奥にあるであろう顔は、暗い樹海の陰に覆われている。
男の眼は見えない。だが、驚きの感情を含んだ視線が自分に向いていると感じた。
「どこから。貴方たちは、何処から来た」
「地球。地球から来ました。我々は日本の自衛隊です」
地球、この単語を他人から聞くのはいつ以来か。
太陽系第3番惑星、懐かしき母なる星の名。70数億の人間が住まう故郷。
そして日本、極東に位置する友好国――その軍事組織。
彼らの腕には、目立たない色彩ながらも、日の丸の腕章が付いていた。
幼子でも判別がつく至極単純にして明快なデザインだ。見間違える筈もない。
「JSDF・・・信じられない、一体この数は、部隊ごと飛ばされたのですか?」
「いえ、国土ごと、丸々と。」
――何ということだ。
余りにも突飛な回答に、彼は沈黙した。
あるわけが無い、有り得ないのだ。「国家」の召喚など、在るわけが。
そのような幾千万もの悲劇が在って良いはずがない。
「――貴方は、嘘をついているに違いない。それか、これがただの夢か」
「信じられないかもしれませんが、本当です。」
”これが夢に感じますか?”と言わんとばかり、男は彼の手を取り、力強く握る。
それは精神異常の妄想によって生まれた非現実の存在ではなかった。
それは嘘を吐く者ではなく、願望の詰まった夢でもなかった。
「こんにちは、そして宜しく。同じ地球の兄弟」
「ああ、何という――」
男の手を握り返した彼は、もう片方の手で自らの目頭を押さえた。
戦いの土煙で汚れた頬に、一筋の涙が流れる。
「ありがとう。母なる地球の兄弟。」
暫くの後、男が口を開く。
そういえば、まだ自分の名前も告げていなかった。
「貴方の名と出身国を教えて貰っても?」
「アイザック。アイザック・ミラー、出身はテキサス州、いや――アメリカ合衆国」




