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神への抵抗ー日本召喚ー  作者: とっしー
第二章:We are not braves
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呑兵衛達の夜は更けてゆく


 日本が召喚された世界ーー「新世界」とでも言うべきか。

この「新世界」は4つの大陸で分割することができる。


 1つ目、ジェダステラ大陸。

日本に最も近い大陸であり、長崎県の佐世保とフリートの間の直線距離は300㎞にも満たず、最も近い場所では150㎞程しかない。

カルラを含む中小国や、大陸の南端に経済大国の「大ゴルド王国」が存在する。

4大陸の中で唯一、魔物の大規模侵攻を受けていない大陸であるが、人の手が入っていない地に隠れ住み数を増やす魔物による被害は無視できなくなっている。

大陸北西部にてエルレーニャ大陸と繋がっている。


 2つ目、エルレーニャ大陸。戦いの最前線。

地球のユーラシア大陸にも匹敵する広大な大陸であり、戦線を形成している「神聖コバルト帝国」「ビスタ王国」等の軍事大国や、「ラジアス連邦」「アインス王国」と、広大な領土を持つ有力な国家が多い。現在は苦戦を強いられ、おぞましい魔物が我が物顔で闊歩する「暗黒領域」が徐々に広がりつつある。

西端に位置するタリム王国は同大陸の国との全海上・陸上交易路を魔物に絶たれ、息をしているかどうかも怪しい。


 3つ目、シオ大陸。

「ガランド帝国」が全土を支配している。オーストラリアのような国家。

本来ならば世界最大の領土を持つが、エルレーニャ大陸から海を渡って上陸してきた魔物により、西・南海岸は「暗黒領域」となっている。現在の戦線は安定している。

上記3大陸の中心ーーシオ大陸の東側海域に位置する島嶼国家群である「ネオジム連合」との関係は非常に強い。


 4つ目、ホウライ大陸。

統一王朝である「煌帝国」が存在する、横に細長い大陸。

他の大陸から遠く離れている為、独自の文化が育まれた。

位置は大ゴルド王国から南東に数千㎞離れた所にある。

大陸の東側に戦線を形成している。


 ーーそう。幸か不幸か、戦線の位置は日本とは遠く離れた場所にあった。

我らが日本はカルラ王国と国交を締結。ありとあらゆる日用品の原料である原油の確保も順調に進み、1年以内に石油が供給される見通しは立った。現在は他国との国交開設・貿易開始に向けて動いている。

だが、たったのそれだけだ。

国内には1グラムたりとも鉄鉱石は入ってきていないし、食料だって瞬く間に店から姿を消した。今すぐ輸入しようにも、この世界の技術水準では生産量は高が知れている。

かの戦中に勝るとも劣らない物資の不足は暫く続くだろう。

そして、自衛隊は新世界にて初の陸上戦闘を経験した。

資源地帯の防衛とゴブリンの殲滅ーーこの戦闘で日本が学んだことはただ一つ。

それは、「これが今の我々の限界だ」ということだった。

この最悪な状況で戦線に自衛隊を大規模派遣するなどという愚行を犯せば、無に等しい劣悪なインフラと補給体制に苦しめられ、アジア・太平洋戦争の二の舞になることは明白だった。


 だから「勇者」は、冒険を始めなかった。

再び力を取り戻すその時までーー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 カルラ王国から南南西に伸びる交易路を200kmばかり進んだ地に、その国は存在した。



「大ゴルド王国」



 その位置に在るが故に遥か古来より商業の国として栄え、繁栄を享受してきたその大国は、たとえどのような時であっても、夜の灯だけは絶やしたことが無かった。

人々の活気とは即ちそれである。

魔物の脅威から遠く離れた地というのもあるが、町にはネガティブな空気など微塵も漂っていなかった。華やかに着飾ったエルフ達は夜の繁華街へと繰り出し、道端には酒臭い息を吐くドワーフが無防備に座り込んでいた。

「厄災」以降、同族に対する敵意が希薄となったこの世界は治安もよく、彼らの中にはそのままうとうとと睡魔に身を委ねる者までいる始末だった。


 そんな中、座り込む彼らの前を足早に通り過ぎる影が1つ。

その黒い影は「トグー酒場」と書かれた看板が吊るされた二階建ての建物の前に立ち、ドアを開け放った。

 来客を告げる青銅製のベルがチリンと鳴る。


「おう! 遅いじゃねえか!」


椅子を軋ませながら座っていた巨体ーードワーフは、その影の姿を見るなりそう言った。


「すまんな。護衛が長引いた。・・・マスター! エール一杯!」


ヒューマンの男は闇に溶け込むようなフードを脱ぎながらいつもの安いエールを注文し、ゴルド大銅貨を3枚、カウンターの上へ置く。

そこでやっと一息ついた彼は、人生の楽しみが出てくるのを待ちながら、冒険者ーー傭兵兼何でも屋のような職業ーー仲間であるドワーフへと愚痴を言い始めた。


「聞いてくれよハーグ。昨日はツイてなかった。カルラからの帰りで、荷車の車輪が溝にハマって動けなくなったんだ。あのせいで2時間程吹っ飛んだ。」

「ほう、そいつぁご愁傷さまで。」

「他人事だと思いやがって・・・あの一帯は、特にあそこんところは危険なんだ。お前も知ってるだろう? あんまりモタモタしてるとゴブリン共がウジ虫のように湧いて来やがるんだ。」


言っていて想像してしまったのだろうか、苦虫を嚙み潰したような顔をして、ヒューマンの男は口直しをするようにエールをあおる。


「ーー前だって、あれは、荷車が重すぎて、んでショーンのやつが矢傷を受けたんだ。」

「ああ、あれは酷かった。商人の奴らも少しは考えろってんだ。」

「ハイポーションを持っておいてよかったぜ、マジで。」


 冒険者という職業は、一般民衆が思っている以上に過酷なものだ。

収入は安定せず、時には命を失うことさえある。

実力の無い者は直ぐに淘汰される弱肉強食の世界。

そんな世界で生きているからこそ、気が合う仲間と駄弁る時には愚痴の一つや二つ、しいては三つも言いたくなるものだろう。


「何かいい知らせ、ねーのかな・・・・・・おい、お前何か隠してるだろ。」


しかし、彼の隣に座っているドワーフはニヤニヤと笑っていた。


ーーこいつは情報通で、こういう時は大抵何かを知っていて、俺にわざと教えずにニヤニヤしてるっつういい(クソみたいな)性格をしてんだ。


長年の付き合いでそう確信するに至った彼は、腐った性格のドワーフを酒で釣る事にした。


「2杯だ。言え。」

「いやだ。3杯。」

「2杯。」

「3杯!」

「・・・・・・3杯でいい。」


酔いが回ってきて面倒になったのだろう、彼は3杯で妥協した。

冒険者にとって情報とは命綱である。それがたった大銅貨9枚で手に入るのだ。

こんなに旨い話はない。

ドワーフはもったいぶりながら語り始めた。


「何故、昨日お前が襲撃されなかったのか教えてやろう。答えは単純。ゴブリン共、まあ、死の池周辺を根城にしていた奴らが殆ど駆逐されただけーー」

「いや無理だろ。嘘つけコラ。」

「待て待て待て、これは確かだ。お前、勇者召喚って知ってっか?」

「ああ、知ってるがーーまさかその勇者がやったってのか? 一人で?」

「そう、こっからが本題だ。」

「あん?」


あまりに単純な情報であったので2杯に下げようと思っていた彼だったが、ドワーフの言葉に怪訝な表情を浮かべる。


「いいか、これはマジだからな。 聞いて驚け、今回の勇者は”国”だ!」

「ブッ!? ・・・・・・マジなんだろうな?」

「応とも。で、その国の軍隊が来て、あの辺りのゴブリンを一掃しちまったんだと。来た理由とか、どんな奴らなのかは知らねえが、死の池にデカい基地を作って、それからずっと駐屯してるらしい。同じ時期にホビットの村がゴブリンに襲われて壊滅してな、その生き残りの嬢ちゃん達が言ってた事だ。間違いねえ。」


彼は息を呑んだ。

今まで、「勇者」と言えば、人種は違えど1人の人であった。それが常識だった。

もし、こいつの言っている事が本当ならーー俺たちは何か凄い、歴史に残るような出来事に立ち会っているんじゃないのか?


「こっからは眉唾物の情報になるんだが、サービスってことでいい。 カルラで”例の”騒ぎがあった事は知ってるな?」

「ああ、あの”高速で飛翔する矢じり”のようなアレのことだろ? 俺も見たことはあるがーーあれは絶対に人工物だ。魔物じゃない。いや、まさか。」

「そう、それもその国が関与しているって噂だ。噂、な。」

「・・・お前の”噂”が噂だった試しは無いんだが。」



「さあて話は終わった! マスタァー! ロイレル霊峰酒3杯!」


「あァ!? 何てモンを頼んでやがるてめええええええ!!」


「ハッハッハァ! ナニを頼むとは言ってないだろう?」


 店内は一気に喧騒に包まれた。

取っ組み合う荒くれ者を野次馬が取り囲んで囃し立てる。

しかしそんな中、フードを店の中に入っていても目深に被っていた男は椅子から立ち上がった。


「お帰りかい?」

「ええ、これ以上遅くなると妻を怒らせてしまうので。」


そう適当にマスターと受け答えをしながら、男は店を出た。

そして一言、自分に聞こえる程度の声で、ぽつりと呟いた。




「 Fighter(戦闘機)…? 」





     第二章:終


→ To be continue...3rd season.

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