夜明けの刻 Ⅰ
【作戦経過】
1.敵拠点の位置割り出し【完了】
コトン氏の情報等からおおまかな位置を確定。(以降、エリアDEーαと呼称)
航空偵察により発見されたエリアDE-α内に存在する洞窟の可能性が高い。
追記:急行した第四偵察分隊が、洞窟より複数の”G”の出現を確認。
”G”の巣であると判断する。
2.敵拠点の無人・有人偵察、監視【実行中】
現在、洞窟より100m地点にて監視を続行中。
見張り4体。洞窟内部は視認不可能。暗視装置の着用必須。
急襲部隊の準備が完了次第、プロセス3に移行する。
3.急襲部隊による人質奪還【未完了】
4.敵の掃討【未完了】
【備考】
”G”の生命力は予想以上であり、知能も有している。
これは非常に厄介であり、「死んだふり」等の奇襲も予想される為、死亡確認を怠ってはならない。
ー 0610:洞窟より100m地点:狙撃班 -
≪アルファ、位置に着いた、照準完了≫
≪こちらブラボー、準備完了≫
≪...チャーリー、同じく完了≫
≪デルタ、同じく完了、準備ヨシ≫
≪こちらエコー、作戦通りだ。俺の合図で殺れ≫
≪アルファ了解≫
≪ブラボー了解≫
≪チャーリー了解≫
≪デルタ了解≫
≪......カウント5、4、3、2、1、撃て!≫
ーー暗黒に染まっていた世界に、一筋の暁光が差し込んだ。
夜明け、それは人類にとっての希望の象徴。
神羅万象を遍く照らす光輝は邪悪を打ち払う。
明けない夜は存在しない。
そして長い悪夢から目覚める刻は、静かな銃声によって告げられた。
終わらない夢はーー存在してはならない。
曳光弾の光明が漆黒を貫いた。
≪こちらエコー、全弾命中を確認、動目標を認めず。敵を排除≫
≪ロメオリーダー了解、これより接近し、内部に突入する≫
≪ああ、幸運を祈る。グッドラック≫
≪了!≫
「...作戦開始、洞窟に接近。周囲を警戒せよ。」
ロメオリーダーは通信を切ると、第一分隊を引き連れて洞窟の近くまでじわじわと接近したーーが、辺りに漂う悪臭に突如として吐き気を催した。
胃の中の物は逆流せずに済んだものの、彼は入り口の隣にうず高く堆積している汚物に虫が蠅のように群がっているのを見て、生理的な嫌悪を感じずにはいられなかった。
周囲を見渡すと、顔を顰めて口呼吸に努めようとする者が何人もいた。
「諸君、この臭いは予想外だが作戦変更はナシだ。ロメオ5までの突入班は暗視装置を着用、完了次第突入する。カバー班は周囲に展開し、妨害を阻止せよ。」
「...了。」
そして遂に、”ロメオ隊”は洞窟に突入した。
JGVS-V8-Bが僅かな光を増幅し、クリアな視界を彼等に与える。
消音器付き89式小銃を構えたロメオ4は、進みながら辺りを観察した。
(...狭いな、こりゃ。)
自然に形成されたであろう空洞は縦に3メートルもなく、ごつごつとした岩に覆われている事も相まって、侵入する者に閉塞感を齎していた。閉所恐怖症の者でなくとも、この空間に長居したくはないだろう。
(で、このまま一本道か。ーーやり過ごすのは無理だな。)
そう彼が察した時、前方を進んでいた隊長ーーロメオリーダーが手を挙げ、握りこぶしを作る。
「止まれ」の合図だ。
心臓の鼓動が早くなり、場の空気が張り詰める。
数秒後、何者かの声がロメオ4の耳に入ってくる。
いやーー「者」ではなかった。
聞き覚えのあるその声を耳にした隊員たちは一斉に銃を前方に構え、安全装置を解除した。
その銃口の先にはーー粗末な石槍を持った2匹のゴブリンが居た。
「 GAGAGAGA!」
「 GAGAGAAA!」
壊れたテープのような鳴き声で会話を続けながら、緑色の怪物はこちらにやって来る。恐らくは見張りの交代なのだろう。お楽しみが遠ざかったせいか、その声には若干の怒りが混じっているように思える。
そして間抜けな面を晒しながらやっと視線を前に向けた。
「 GA? 」
『撃て』
ゴブリンが暗闇に潜む緑色の人間に気付くのと、ロメオリーダーが発砲の合図を出すのは同時だった。当然ながら、ゴブリンが仲間を呼ぶことは叶わなかった。
脳からの指令が脊髄と運動神経を伝達し声帯の筋肉が動くより早く、至近距離で発射された5.56㎜の高初速弾は2体のゴブリンの頭部に命中し、頭蓋骨を貫通。ひしゃげた弾頭は中で暴れまわり、発生した瞬間空洞は脳を完全に破壊したのだ。
冷たい岩で出来た地面に濁った脳漿が撒き散らされる。
それら不幸なゴブリンと共に石の槍も崩れ落ち、音が洞窟に反響した。
発砲した隊員の動きが固まる。
『......前進』
しかし何も起こらない事を確認すると、ロメオ隊は再び前進を再開した。
『気をつけろ!』
『...ネガティブ!』
【作戦進行中ーー】




