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神への抵抗ー日本召喚ー  作者: とっしー
第二章:We are not braves
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よくあるおはなし

ー ??? ー

 

 私は、ただ此処に隠れている事しか出来なかった。

村の各所から響きわたる断末魔を聴くことしか出来なかった。

自ら囮になった姉の悲鳴が遠ざかるのを感じ取ることしか出来る事はなかった。

いつしか私は強く目を閉じ、両手で耳を塞いでいた。

永遠に思えるくらい、ずっと。



ーーあの悪夢からどれだけの時が経ったのだろうか。

寝間着1枚のみの冷え切った体は既に時間の感覚を喪失していた。

うまく動かない手足を無視して、地上へと続く梯子を上る。

私は浅く地下に作られた貯蔵庫の扉を僅かに浮かせ、周囲を確認した。


何かが居る気配はない。

そう、私の鋭敏になり過ぎた知覚は教えてくれた。

ようやく私は鈍重な動きで冷たい木の床へと這い出る。


簡素な窓から差し込む闇夜の光が余りにも散らかった部屋を照らす。

私の立つ床には食い散らかされた干し肉や果物が転がっている。

壁は壊され、藁の寝台は引き裂かれ、バラバラに分解されていた。

目の前の、物心がついた時には既に存在していた質素な食卓は無残に破壊され、燃料にする位しか使い道が無い木片を残すのみとなっていた。

最早家族で一緒に暮らし、食事を摂ることは叶わないであろう。


ーーそう、家族。・・・家族だ。

私の姉は何処に行ったのだ。何処にいるのだ。


答えは聞かずとも分かっていた。

あの醜悪なーー世界の全ての悪と罪と汚物を煮詰めたような顔をしたやつらは、姉を身の毛がよだつようなおぞましい場所へと連れて行ったのだ。

獣欲を乱暴に発散し、更に仲間(コマ)を増やす為の道具として。


私は戸が無くなった出入口で、姉の衣服のものであろう布切れを見つけた。

鋭い爪によって引き裂かれたのであろうそれには、うっすらと姉の赤黒い血と奴らの悪臭を放つ体液が滲み、既に乾ききっていた。

涙すら零れず、私は恐らく無表情で、無警戒に外に出た。


静かだ。

全ての生物が突如として死んでしまったかのように。

風の音と地を歩く音以外、何も耳に入って来なかった。


私は歩く。

沈黙を守りながら、下を向いて。

嫌なものから目を背けながら。


村長さんが死んでいた。

隣のお兄さんが死んでいた。

バラバラに切り分けられ愉しむように食われた、自らの血のスープに沈む肉塊達をこれ以上視界に入れないようにして、とうとう村の端へと辿り着いた。

ここで生きている人は私だけだった。

何故か悲しくないし、涙も流れない。

死んでるのに。

なんで。

なんで。

なんで。

泣いてよ、私。



・・・じきに、血の匂いに釣られてクレイジーボアがやって来る。

武器すら持たない非力な私では、此処に留まることは死を意味する。

だから、逃げる。

どんなに惨めな姿になっても。

安全な、此処ではない何処かにーーそう、例えば他のーー




ーー()()()()


今になって思い出した。

そうだ。今日、彼はこの村にはいなかった。


「遠い所から来る兵士さん達の道案内」などと言って、また飛び出していった彼。

私の親友。キラキラした目を持つ自称探検家。

まだ、案内をしているのだろうか。


ーー以前、彼の言っていた言葉と行動の断片が、僅かに脳裏に蘇る。


あっちの......砂浜で......兵士......案内ーー「死の池」。



「----!!」



私は一縷の望みを見つけて走り出した。


コトンに会う為に。


ホバート村の皆の仇を取る為に。


姉を救う為に。


鋭利な草で足が切れても。


転んで膝が擦り剝けても。



私は死の池へと駆ける。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

JGSDF - Amphibious Rapid Deployment Brigade E‐B7R 緊急報告書


 南西部絶対防衛ラインにてホビット族の少女(16歳)を保護。

案内人のコトン氏との面会、”G”の駆除、被害者の救出を求める。

足に軽傷。中度の衰弱症状有り。

HQの認可を受け、現在、0148、後方へ移送中。

対象はコトン氏と0220、A-5医療テントにて面会予定。

”G”の新たな特性、生息地及び生殖ーー

ホバート村の生存者はーー

         ・

         ・

         ・


JGSDF - Amphibious Rapid Deployment Brigade  HQ  特別指令書


 日カ基本条約に基づき直ちに救出・掃討作戦を立案せよ。

これ以上の周辺地域における脅威の増大は許容出来ない。

待機部隊に戦闘準備を通達せよ。

緊急時の装備の使用は救出担当部隊が最優先される。

人質を巻き込まない事を前提として、全兵装の使用を許可する。

今の我々の敵は同じ人間でも国家でも無く、政府指定特殊災害生物である。

各員一層奮励努力せよ。




JGSDF - Amphibious Rapid Deployment Brigade 現地部隊 作戦立案書

         【 司 令 部 了 承 済 】


 本作戦は4段階に分けて実施される。

1~3のプロセスは可能な限り早く実行されなければならない。

人質の奪還は全てに於いて優先される。

作戦目的:全ての人質の奪還、敵の殲滅

参加部隊:ARDB待機部隊

発動時刻:0530

備考  :全兵装使用自由

     ホバート村の女性人口は17名

     敵勢力は膨大であると推測される。

【プロセス】

1.敵拠点の位置割り出し

2.敵拠点の無人・有人偵察

3.急襲部隊による人質奪還

4.敵の掃討


        ・

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