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神への抵抗ー日本召喚ー  作者: とっしー
第二章:We are not braves
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小鬼の首領

ー ??? ー



 「彼」はとても怒っていた。

「彼」の同族が無残に殺された事に対してではない。

間抜けな(気に入らない)やつがいなくなってせいせいしている。

足元に転がる「おもちゃ」の反応が弱くなって来た事でもない。

また近くの馬鹿なニンゲンの村から持ってくればいい。

襲撃が失敗し、「戦利品」が全く手に入らなかった事に「彼」は怒っていた。


『GAGAGAGAGAGAAAAAA!!』

『GAGAGAGAGAGA!』


そう「彼」は耳障りな鳴き声をあげると、泥と埃で汚れ切った足で「おもちゃ」を何度も蹴りつけ、周囲の影はその光景を見て愉しむように囃し立てる。

「おもちゃ」は、始めは身を丸めて痛みに耐えていたが、いつしか漏れ出る小さな悲鳴すら聞こえなくなり、やがて「彼」と取り巻きが白い肌の生物を打擲する音しか聞こえなくなった。


「おもちゃ」の反応が無くなって暫くすると、「彼」は飽きたように足の運動を止め、骨と皮で作られた粗悪で冒涜的な椅子へと大股で歩きふんぞり返るように座った。

先ほどの「彼」の取り巻き達が「おもちゃ」の足を持ち上げて何かをしているようだが、「彼」が興味を示すことはなかった。既に意識の埒外にあったのだ。

椅子が軋み、思いの外大きかったその音は壁に当たり、反響した。


『GUUUUUUUUU...』


「彼」は過去の怒りなどすっかり忘れ、黄色に濁った眼をぎらつかせながら、次は何処を襲おうかとその倫理と理性に欠ける頭で考えているのだ。

ーー奴らは魔法を使えず、武器も貧弱そうだが、思いの外強い。

ーーあの弓を通さぬゴーレムは厄介だが、数は少ない。

ーー空を飛ぶ巨大な羽虫は五月蠅いが、攻撃してこない。

ならば押し潰すのだ。 圧倒的な数によって。

だが、この群れはそんなに大きくはない。

だからニンゲンの苗床を用意し、数を増やせばよい。


「彼」は余りにも稚拙と言える作戦を立て、立ち上がった。


『GUGAGAGAGAGAGA!!!』


暗闇の中で汚濁した何百もの目が面倒くさそうにこちらを向く。


『GYAGAAAAA! GUAAA! GUUUGA!!』

『GAAAAAAAAAAAA!!!』


手に持った背丈に合わぬ杖(戦利品)を振り回し、配下に命令を下した。

愚かで間抜けな配下は、また「おもちゃ」が増えるのだと色めき立った。

木の棍棒や粗悪な石の槍を持ち、彼らにすれば珍しく統率者の号令を待つ。

それが目先にぶら下げられた人参だとも知らずにーー


『GAAAAAA!』

『GYAUAAAAAAAA!!』


『彼』を先頭として、騒々しく小鬼の群れは出て行った。

勿論、光を失い虚ろな目をした「おもちゃ」を冷たく錆びた鎖に繋いで。




ー クラスA戦略資源地帯「エリアB7R」:南西部絶対防衛ライン ー



静かで何処か不気味な林にて、鋭く短いーーまるで発泡酒のコルクを開けたような音が響いたが、同時に起こった木のざわめきによって直ぐにかき消された。


≪ーーグッドキル、エリアオールクリア≫

 

≪ラジャー、サンクス、アウト≫


全身を緑に覆われた異形は観測者にそう無線で返すとダットサイト(光学照準器)をもう一度覗き込み、先程自分が生み出した醜悪な肉塊のオブジェを見て深い溜息をついた。

そして彼は別の小型の無線機で小隊長に報告を行う。


≪デルタリーダー、こちらデルタ2-1、応答を、オーバー≫


≪こちらデルタリーダー、どうした? オーバー≫


≪報告、E-4にて”G”2体が出現、これを排除、エリアクリア≫


≪よし、・・・残弾に余裕はあるか? オーバー≫


≪残弾132発、問題なし、オーバー≫


≪あと3時間で交代が入る、それまで監視を続行せよ、以上だ、オーバー≫


≪ラジャー、アウト≫


彼は通信を終えると、直ぐに樹脂製の水筒から水分を摂取した。

喉仏が動き、乾いた喉が潤され、次第に消耗していた活力が戻ってくる。

そしてようやく彼は周囲を見渡した。


まばらに点在していた周囲の木々は持ち込まれたチェーンソーによって切り倒され、即席の、しかし丁寧な作りの小銃掩体(塹壕)が一定間隔で掘られている。

隣の掩体にはMINIMI軽機関銃(分隊支援火器)を装備する隊員が入り込み、あまりの出番の無さに配置以来一度も熱されていない肉厚の銃身を律義にも熱心に清掃していた。


(よくもまあ、あの短時間でここまでやったもんだ。)



敵を文字通り踏みつぶして殲滅しながら石油気化地帯を抜けた後、襲撃が何故かピタリと止んだこともあり、進出した普通科連隊は直ちに簡易的な防御陣地を構築した。

何故止んだのか考える者は幹部のみならず隊員の中にもいたが、いずれにせよこの時間は彼らにとって僥倖であったのだ。

そして、彼らは「緑色の体皮で知能を持つ小型の敵性人型実体」を”G”と呼称し、その知能、集団戦闘の危険度から、発見した場合は直ちに射殺することを各隊員に命令した。



生き残った奴がお仲間に伝えたのか、はたまた偶然なのかーー

何も知らずにぶらぶらしているであろう敵と獣以外、現れなかった。


(ああ、それでいい。こっちも楽だ。だがーー)


この小銃手はどうしても理由が気になって仕方がなかった。



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