死の池へと続く道 Ⅰ
ー 所属未定の土地の沿岸部:現地案内人:コトン ー
「船」とは木製の水の上を進む乗り物だと知っている。
僕達ホビット族は船に乗ることは殆ど無いけど、フリートで商人達の操るソレを見たことはあるし、時々集落に来てくれる魔法使いのおじさんは船での冒険話を聞かせてくれる。
「船」とは水の上でなければ進めない事も知っている。
おじさんが言うには、船を動かすにはたくさんの漕ぎ手がいるそうで、風だけで進む外洋船でも追い風が吹かないと速く進めないらしい。
だからーー僕には目の前の光景が理解できない。
明らかに木ではない黒光りする舟艇と、金属製であろう構造物を持つ奇怪な船のようなものが地面を轟々と走っている光景が、僕には理解できそうにない。
(これが役人さんの言ってた人達・・・なのかな?)
やがて、扉のような物が開き、馬のいない不思議な馬車が次々と降りてきた。
引いている動物など1匹たりとも見つける事が出来ないのに、まるでそれはそれ自体が動物であるかのように重低音の連続した音を発していたのだ。
コトンはそれがどんなものなのか気になったが、その馬車の扉が開き、これまた上下を緑系統の色で揃えた人族が半ば飛び降りるようにして次々に地面に降り立つと、頭に疑問符を浮かべながら駆け寄って行った。
「あの・・・二ホンの開発団の方でしょうか?」
「!?・・・え、あ、はい。そうです。(子供!?)」
その人族はこちらを向くと目をこれ以上ないほど丸め、まるで珍しい生き物を初めて見たかのような表情を浮かべてしどろもどろに返答を返してきた。心なしか固まっているようにも感じられる。
「僕はここの案内人をしているコトンといいます。よろしくお願いします。」
「・・・あ、失礼しました。陸上自衛隊第1水陸機動連隊所属、先遣隊隊長の児玉之伸1等陸佐です。こちらこそ、よろしくお願いします。」
(・・・この兵士さん、もしかしてホビット族を初めて見た感じなのかな?)
僕達がそう挨拶を交わしている間にも、あの変わった船が交代するように押し寄せてきて、まだら緑の鎧を纏った兵士の乗る乗り物を吐き出していく。
彼らは降り立つやいなや、予め決められていたかのように沿岸に展開し、その手に抱える短杖の様なものを周囲に向けて警戒していた。
おそらく、魔物が来ないか見張っているのだろう。
「ーーこの地域に出没する魔物というのはどういうものが中心でしょうか。ヘリによる航空偵察で青い猪が確認されたということだけしか未だ分かって居ないのです。」
「えーと、そうですね。(・・・航空偵察?)青い猪・・・クレイジーボアの他にはゴブリン程度でしょうか。奴らは夜にならないと森から出てこないので、今はあそこまで警戒しなくても大丈夫ですよ。」
「・・・それらの攻撃方法は予測できますか?この土地特有の行動など。」
「前者なら突進一筋でしょうし、ゴブリンは粗悪な石の剣や弓だと思います。特に変わり有りませんが、集団でいる事が多いので奇襲されないようにしたほうがいいでしょうね。」
「ーーありがとうございます。では、後続が来るまで少々お待ち下さい。」
そう言って、「先遣隊」の隊長は乗り物の中に戻っていった。
少しの間時間が空いた僕は、あの不思議なカクカクした乗り物に興味を惹かれ、ちょっとだけ調べてみる事にした。一体中身はどうなっているのだろう。中に馬が入っているのだろうか?
彼らはあの死の水をどうやって扱うのか聞いてみてもいいかも知れない。
何はともあれ、ホバート村の友達に自慢できる話のタネが出来たのは嬉しかった。
そう思いながら、コトンは純真な目を輝かせて、乗り物の近くに居る若い兵士に声を掛けに行った。
「ねえ兵士さん! これってどうやって動いてるんですか?」
ー続くー




