とある帝国兵士の手記 Ⅱ
ー西部戦線:帝国軍軽装歩兵:レピドゥス・シュバイアー十人隊長ー
Δ月ω日 雲一つ無い青空
8日目。遂に戦場に到着した。
不安と言えば不安だし、手柄を立てる事が出来るかもしれないという高揚感もある。
俺の隊は出来たばかりの城壁の上に配置されるようだ。
何故守勢にまわるのかまだ分からないが、俺達援軍が来たからには大丈夫だろう。
幸いにもまだ攻撃の気配はないし、目を凝らして見てみたが敵はいなかった。
今のうちに色々と見てまわろう。十人隊長として戦場を知っておく事は大切だ。
Δ月Z日 曇り
9日目。いやな天気だ。
かんかんに照って鎧が熱くなるのは御免だが、じめじめして汗が乾かないのはもっと嫌だ。
そしてさらに嫌~なお知らせがある。天気と連動してる気がするが・・・まあ、どうでもいい。
一旦今の状況を整理するために書くことにする。
此処の常備兵力は5個歩兵大隊と1個騎兵大隊、1個魔導大隊の4200人。
俺達増援が3個歩兵大隊の1800人。足したら丁度1個軍団だ。
数字だけ見れば中々の戦力だが、重装歩兵から負傷者がかなり出ている。
戦列が崩されれば俺達はあっという間に負けるだろう。
さらに悪いことに、物資が足りない。
先程まで苦手な土魔法で石の弓矢を作っていたが、ぶっちゃけ出来は悪いし、戦闘が始まれば持ってきた分も含めて直ぐに無くなるだろう。そうなれば俺達は重装歩兵の劣化版に過ぎなくなる。
あと、案の定ポーションは不足していた。医者によると補給が追い付かないそうだ。
ちくしょう
Δ月@日 曇り
今日も虚しく矢を作っている。俺達は矢じりを作るだけだからまだいい。今、弓をやっていて良かったとつくづく実感している。あいつらみたいに木を切り倒して加工するなんて俺には無理だ。
・・・敵はまだ姿さえ見えない。大攻勢の前触れか? 不気味だ。
隊長によると勇者がまた召喚されたらしいが、勇者なんて俺達兵卒には関係の無い話だ。
そんなものよりも弓矢とポーションと旨い飯が召喚されればいいのに。
明日追加で増援が来るらしいからそれに期待しよう。
【 Δ月Q日 NO DATA 】
【 NO DATA 】
Δ月R日 晴れ
俺生きてる。たぶん12日目。昨日は最悪で、でも最高だった。
これまでの静けさが嘘のように、魔物が地を埋め尽くしていたんだ。地面が3割程しか見えないほどに。
最初は善戦した。俺の風魔法で加速された矢は寸分の狂いもなくゴブリンどもの頭に突き刺さり、ゴリゴリマッチョの重装歩兵は強化された肉体を武器にオークを地面ごと薙ぎ払う。そして魔導士はあのブヨブヨした気持ち悪いスライムを焼き殺した。・・・まあ、下級の魔物だったっていうのもあるが。
でも、数が多すぎた。いくら鍛えていても何時かはバテが来る。そして物資は無限ではない。
最初に弓が尽きた。そして魔力が切れた。ますます増える圧力に重装歩兵も押され、遂に戦列に穴が開いた。負けだ。最後の悪あがきとして、後退に成功した奴らと心もとないダガーを手に取った俺達は、いつか破られる門を睨みながら、未だ到着していなかった援軍に一縷の望みを掛けた。
そして奇跡か必然かは知らないが、それは起こった。
遂に門を叩き壊して侵入してきた魔物がーー爆発した。
そっからはもう何がなんやら。傷を負った仲間がハイ・ポーションを飲んだみたいに回復し、俺も力が沸き上がってきた。城内に入ろうと密集していた敵が吹っ飛び、それに怖気ついたのか流入が止まった。
俺達残存兵と援軍は反攻に打って出て、これまでが夢だったかのように勝った。
戦闘が終わった後、あれは誰がやったのか隊長に聞いてみると、勇者という答えが返ってきた。
こんな辺鄙な所に2人も勇者が送られてきたというのは正直耳を疑ったが、隊長がそう言うのだから間違いないだろうと思った。
チラッと遠目で見てみたが、若かった。どっちも黒い髪で背は結構低い。
一人は男でもう一方は女だ。今日、日記を見返してみたが、俺というやつは「そんなもの」なんて書いちゃってやがる。とりあえず心の中で謝っておこう。心の中で。
おっと点呼だ。行ってくる。また明日。
Δ月XX日 ハレ
13日目。日記を書くのにも慣れてきた。今では数少ない楽しみになっている。
魔物は着いた初日のようにパッタリと姿を消した。これはアレだ、また一昨日のような感じで大群が押し寄せてくるヤツだ。
あの地獄をもう一度味わうのは嫌だが、それでも俺達は戦い続ける。
今度は勇者もいる。俺達はアレを乗り越えて強くなった。ネロも無事だ。
物資の不足具合は相変わらずだが、前よりマシだ。そう考えよう。
そろそろ作業を再開することにする。また明日。
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ーー日記は途切れることなく続いているようだ。




