青い、青い海 Ⅲ
雷鳴が轟く。
62口径76mm単装速射砲から音速の3倍に近い速度で発射された砲弾は、放物線を描きながら飛翔した。
高温と硝煙に晒され、既にその光を失った1mもの巨大な薬莢が砲身下の排莢口から吐き出される。その酸化した真鍮は大きな音を立てて甲板の薬莢受けに転がったが、その光景は続く発砲炎に掻き消され、後を追って飛び出してきた黒ずんだ合金は更に高温の煙で燻されることとなった。
しかし生命を持たないが故に何の痛痒も感じない薬莢は、自らが内包していた高性能爆薬を詰め込んだ榴弾が悍ましい生物にそのエネルギーを解放したのを見て、本来の役目を終えた。
===================================
ーDD-157 さわぎり 艦橋ー
未だに腹に響く発砲音に慣れない大西3曹は、無駄と分かっていながらも両手を耳に当てた。生来から大きい音が苦手な彼は、いつも通り砲からできるだけ離れた部署に勤務することを希望したのだが、分からず屋な新任の人事担当が彼を艦橋配置にしたのだ。
いくら艦橋が防音構造だからといっても、マイクが拾いきれない程の爆音を発する装置が目の前に設置されている状態では、あってないようなものだった。
・・・慣れさせるという目的もあるのだろうが、しかし彼はどうにも受け付けず、一刻も早く配置が変わり、次の瞬間には射撃が終わっていることを強く望んだ。
(・・・8、9、10、11、12・・・・・・よし、終わった!)
そう彼が望んだ結果かは分からないが、煙が立ち込めた艦首にうっすらと、砲身から冷却水を垂れ流して静止している速射砲が見えた。それが指向するはるか先にはーー
ーー自らの血で青く染まった生物だったものが、のっそりと深海に沈みつつあった。
首に吊り下げた双眼鏡でしっかりと砲撃が止んだ理由を観察した・・・してしまった大西3曹は、眠りについた後に悪夢を見ないよう祈りながら、暫く魚介類は食べたくないと思った。・・・食堂で魚は出るのだからそれは叶わない夢なのだが、それは意識の埒外にあったのだ。
斯くして、戦闘ーーいや、名目上の災害派遣は終了した。
損害は無し。残存した魔物の群れは頭目を失ったせいかーーはたまた強大な敵に恐れをなしたか、最初からまるでいなかったかのように姿を消した。魔物の死骸も、海流が速いのか海中で攪拌され、比重の重いものから先に漆黒の海底へと消えた。数十日後には存在しているであろうプランクトンに所余さず分解され、何事も無かったかのように穏やかな海は復活するだろう。
そして更に200日後、国家の血液たる石油を満載した50万tタンカーが日本国の港へと帰還するであろう。
そう、作戦は大成功に終わったのだ。
ーーしかし、一つだけ気がかりな事があった。
戦費である。
20機もの哨戒機、2隻の護衛艦の燃料、150㎏対潜爆弾×200発、76mm単装速射砲専用榴弾×12発×2隻、膨大な整備費、弾薬の再調達ーー
国内投資という面もあり、旧世界でGDP3位を誇る日本にとって、この程度の消費が数回あっても何の痛痒も感じないだろう。しかし、転移によって国力が疲弊している今、億単位の消費が繰り返されればいずれ破綻する事は明らかであった。
ーーただ戦うだけでは日本に栄光は訪れないのだ。
NEXT→




