「勇者」召喚
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ー日本国:国権の最高機関にてー
「・・・川井議員。」
「核兵器禁止条約について日本国はーー」
「・・・五十嵐内閣総理大臣。」
「我が国は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向けた国際社会の取組をリードする使命を有しており、核兵器禁止条約が目指す核廃絶というゴールは共有しています。一方で、核兵器のない世界を実現するためには、核兵器国を巻き込んで核軍縮を進めていくことが不可欠です。しかし、現状では、同条約は米国を含む核兵器国の支持が得られていません。さらに、カナダ、ドイツなど多くの非核兵器国からも支持を得られていません。我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、抑止力の維持強化を含めて、現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、地道に、現実的に核軍縮を前進される道筋を追求していくことが適切であると考えます。こうした我が国の立場に照らし、同条約に署名する考えはありませんが、我が国としては、引き続き、立場の異なる国々の橋渡しに努め、核軍縮の進展に向けた国際的な議論に積極的に貢献ーー」
「・・・今井議員。」
「中止となった陸上配備型イージス・システムの代替案はどのようなーー」
「・・・河野防衛大臣。」
「政府としては、現在、陸上配備型イージス・システムの代替案について検討の途上であるため、お尋ねについてお答えすることは差し控えたい。また、ーー」
2020年、いつもと変わらぬ休日。
子供は遊び、父は昼寝をし、母はPTAの理事会に出かけている、そんな休日。
そんな日でも国会は休まず、国民の代表者達は中で答弁を繰り返している。
崩れることのない「日常」・・・誰もがそれを当然のことと受け取り、美しく油断していた。
ー「「召喚!」」ー
そう、その時から「日常」は崩れてしまった。
たった2人の「神」の気まぐれによってーー。
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「一体何が・・・」
そう呟きながら、日本国の内閣総理大臣は立ち上がった。
(私は・・・常会で答弁を終えて・・・それから・・・ッ!?)
覚えている。鮮明に覚えている。
あの瞬間、視界が白に染まった・・・そしてーー
「おい!?、岸部!?、河野!?」
彼の目の前には、議員たちが死屍累々と倒れていた。
中には頭を打ったのか、呻いている議員すらいる。明らかな異常事態。
「け、警備員!早く来てくれーーッ!」
・・・・・・
大声で助けを呼ぶものの、耳に入るものは足音ではなく、虚しく反響する声のみ。
核・・・違う。 閃光手榴弾ーーテロ? なら何故私は生きている?
彼の脳が混乱と恐怖で溢れそうになった時ーー
「「異世界へようこそ!」」
全ての元凶の声が響いた。
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「・・・・・・は?」
何を言っている? 異世界? 何故子供がここにいる?
「君たちは勇者として召喚されたよ!」
「召喚しちゃったよ!」
「僕たちは神だよ!」
「でも単調でつまんなかったんだ・・・」
「だから非力で弱い君達を沢山呼んだんだよ!」
「一体何を言ってーー」
「魔物は敵だよ!槍は効くのかな?弓は刺さるのかな?」
「面白そうだから世界を救ってみてね!」
「「じゃあ頑張ってねー!」」
・・・そう一気にまくしたて、「神」とやらは忽然と姿を消した。
悪意無き無邪気な笑い声を残して・・・
嗚呼、有り得ない。有り得る訳が無い。これは夢か何かだ。
そうに決まっている。そうに・・・
だが無情にもーーこれは夢では無い。幻覚でも無い。だから。
「 ふ ざ け る な ァ ッ ! ! 」
全てを悟った総理の怒号はまたしても虚しく反響するのみだった。
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2020年、東京オリンピックを間近に迎えるその日、
日本は”勇者”として異世界に召喚された。
日本にとって幸運だったのは、この国会が中継・記録されていた事だろう。
これによって、全てが偽りなき事実として、速やかに日本国民に知られることとなる。




