ヒトではなく
ー官邸危機管理センター:緊急災害対策本部ー
「一体何だってんだ!」
1年後にはもう作れなくなるであろう白い机に、五十嵐は力任せに自らの拳を叩きつけた。
総理大臣たる者が感情に身を委ねるのはあってはならない事だと分かっているが、この時ばかりはこの理不尽な世界と全ての元凶に対する憎悪にという熱湯に浸って居たかった。
だがそうもいかない。
自分へのダメージなど全く考慮せずに行動したおかげで、腕は痺れ、後に遅れて鈍い痛みが伝わってくる。
そして彼は冷静さを僅かだが取り戻した。
「・・・総理」
「・・・ああ、すまない。少々取り乱した。」
「無理もないでしょう。2徹した後にこの状況です・・・誰だってキレますよ。」
「そういう佐藤君は平然としているようだが?」
「ええ、自分は冷静ですから。例え間に合わない状況になりそうであってもーーハハハハ、・・・あンのクソタコ共め!!」
「・・・・・・。」
「・・・あ、いや、失礼しました。」
「2人とも・・・コントなら後でやってくれ。」
「誠に申し訳ない。」
ーー何故、冷静な彼らはこのような醜態を晒しているのか?
原因は察しがつくが、念のために少し時間を遡ってみよう。
ー7分前:同場所ー
「ーーで、間に合いますか?」
「普通は間に合いませんがーー国力を総動員すれば何とかなるかもしれません。」
「まあ、我々は最善を尽くしました。後は運です。神サマにでも祈りましょう・・・。」
「地球の、ね。」
「ええ、あんな神には死んでも祈りたくありません。」
「同意です。」
「いやしかし、夏目君、あの外交成果は見事だと言うほかないよ。ーー重い義務は背負ったがね。それを差し引いてもアレはデカい。どんな魔法を使ったんだ?」
「沿岸に近い複数の巨大油田の完全な採掘権・・・恐らく吹っ掛けたんじゃないですか?石油に価値が無いことを見越してーーいやあ、ウチの省の職員が優秀で助かりますよ。ホント。あの無人島も調査中ですし・・・もしかしたらーー」
「・・・そいつはどうかな。」
「ん? 河野さん、戻ったんですか。」
「ああ、・・・獲得した採掘権は十分すぎる程だし、それについては何の不満も無いが・・・俺が言いたいのは義務の方だ。どうもキナ臭い。」
「”但し日本国は可能な限り人界軍に協力し、魔物を討伐する義務を負う。”・・・確かに言わんとする事は分かりますが・・・最終的な交換条件に出された以上、仕方がないでしょう。あれを断れば日本の滅亡は確定します。」
「ですが・・・詳しい説明も無し、”魔物”についての情報も無し。・・・嫌な予感がします。」
「そうだ。まるで知られれば断られるみたいなーーん?」
そう疑念を全員が持った時、その答えが返ってきた。
その始まりは一本の電話だった。
≪私だ。≫
何か緊急の連絡があるのかーーそう思った総理はいつもの口調を崩さずスマートフォンを耳に当てる。
≪総理、大変です、在日米軍が領海でーー≫
ーーそして現在に至る。
・・・この決定が正しかったのかと問われれば、彼らは勿論そうだと答えるだろう。
何故なら、そうしなければ間に合わなかったのだから。
しかし、この決定によって日本が大きな混乱と災禍に巻き込まれた事は確かである。
彼らは一生、胸を張りながらも、この事実を背負って人生を歩むだろう。
「・・・おい。」
「ああ、分かっている。」
災 害 派 遣 だ




