非情な現実 Ⅱ
誤字報告ありがとうございます。
ー 佐世保港より西北西50㎞海上:強襲揚陸艦”アメリカ”CIC ー
コンソールが煌々と輝く薄暗いCICの中で、ヘンダーソン中尉は重い溜息をつき、閉じていた瞼をノロノロと開いた。
その瞼の中に隠されていた彼の綺麗な青い瞳には、既に隠し切れなくなった疲れが滲み始め、長時間画面を見続けたが故に複雑な赤い線が浮かび上がっている。
(I am exhausted to death...)
首を動かすことも億劫に思った彼は、隣の席に座った同僚をちらりと見やる。
(...On)
そこにはボサボサの髪形になってしまったクールな同僚がいた。
更によく見てみると、彼のビューティフルな金髪は白い粉のせいで台無しになっているではないか。いつも彼のモテっぷりを陰から見ているヘンダーソン中尉にとっては嬉しいことだったが、任務に支障が出ては困る。
「・・・よう。 まだ生きてるか?」
「ん、ああ、・・・うん。」
「それじゃ死んでるのと同じだ。 まってろ、交代を呼んでくる。」
「・・・いや、いい。 大丈夫だ。」
「・・・マジ?」
「ああ、さっきコーヒーを胃にぶち込んで来たからな。」
「コーヒーは薬じゃないんだぞ?」
「ああ、分かってるとも。」
「オイオイ・・・ジョークに切れが無いじゃないか。 エナジードリンクでも飲むか?」
「嫌だね。あんなのは麻薬だ。君が飲めばいい。」
在日米軍が独自に”異世界”の調査を開始してから10日が経過した。
少しづつ、確実に減り続ける備蓄。
偵察という理由で発艦させられ、何の成果も得られずに帰投する戦闘機。
家族との永遠の別れによる士気の低下。
ーー調査とは名ばかりの、無為な作戦。
・・・日本政府経由で正確な情報は入ってくるのに、何故司令部はこのような愚行を犯したのかーー
混乱していたから・・・?
権力争いの弊害・・・?
ーーいや、考えるだけ無駄だ。 貴重な時間を浪費してしまう。
「ああクソ、そろそろ時間だ。 今日も同じか? ホーリーシット!」
「あの偵察ポッド、いや、そもそも機体が壊れてんじゃないのか?」
「いいね、そうだったら整備の奴等に殴り込みだ。」
だがしかし、無為な調査といえども、根気よく続けていれば結果はゼロにはならない。
・・・そう。 結果は”ゼロ”にはならない。
≪こちらスカルリーダー! アメリカCIC応答願う!≫
「ほら見ろ、やっぱり壊れてるんだ。」
いつもの帰投報告だと思ったヘンダーソン中尉は、暗号化されていない通信をパイロットが送ってきたことに少々の疑問を抱きながら、手慣れた動きでマイクのスイッチを入れた。
≪こちらアメリカCIC。あー・・・スカルリーダー、着艦するまで通信は封鎖せよと指示した筈ーーいや、まあ、もう意味をなさないであろうことは重々承知していーー≫
≪ンなことはどうでもいい。 いいか、よく聞け。悪い知らせだ。≫
≪悪い知らせ?≫
≪海を冒涜的なバケモノが埋め尽くしている。 ・・・見た方が早いか? 今からポッドの画像を送る、そっちで確認しろ!≫
そうパイロットが言うや否や、データリンクシステムにより、F-35Bが機外にぶら下げている偵察ポッドの映像が高解像度で上のモニターに映し出された。
息を呑む音が背後で聞こえた。
いつの間にか、CIC中の隊員達が”初めての報告らしい報告”に釣られてやってきたのだ。
それが良い知らせープラスの結果ーなら彼らの士気は多少回復しただろうがーー
残念な事に、それはマイナスの結果だった。
ある信心深い隊員はイエス・キリストに祈り
ある小心者の隊員は仲間の背中に小さく隠れようとしていた。
「嗚呼、神よ。 ・・・なんてことだ。」
ポッドの高性能カメラが指向する先には、レッドクリムゾンのデビルフィッシュのような化け物を中心に、もはや青い海面が見えなくなる程に”魔物”が蠢いていた。
「おい、通信兵、司令部に報告しろ! 動画もセットに付けてやれ!」
≪こちらスカルチーム、燃料に余裕がもうない! 帰投する!≫
≪了解した、帰投を許可する。通信終わり。・・・おい、着艦準備をーー≫
≪こちら”アメリカ”、司令部応答せよーー≫
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転移から10日後、アメリカ海軍が巨大な魔物を中心とする群れを日本海にて発見した。
このような報告はこれを起点として次々と上がりーー
条約締結3日後にして、両国の海の道は理不尽にも遮断されたのである。




