歪な世界 Ⅲ
ー港町フリート沖合:DD119あさひ 艦内ー
ーー乾いた音が狭い通路に響き、硝煙の匂いが立ち込める。
「撃て、侵入を許すんじゃない!」
隊長の怒号と64式小銃の銃声を聞きながら、俺はひたすらに重い引き金を引き続けた。
(ーー何故)
黒光りする銃身が指向する先には、このクソッタレな事態を生み出した気持ち悪い化け物がいる。
そいつらはまるでーー
「なあおい黒田ァ! こいつらクトゥルフ神話かよ!? オイ!」
「そうだよ!」
「やりますねぇ!」
コンバットハイになった同僚にヤケクソ気味に返す。
その間にも奴等は現れ続け、既に通路の床は青く染まっている。
「残弾少ない! 残弾少ない!」
「誰か弾ァ寄越せ! 早く!」
「もうカンバンだ畜生め!!」
(ーー何故、こうなったんだろう。)
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ー十数分前:DD119あさひ CICー
「ーー大型の反応全て消失。魚雷命中しました。敵残数243、いずれも小型、進路変わらず。」
「左舷、12式魚雷再装填間もなく完了。」
「目標群αとの距離、1000を切りました。深度20。」
確かに魚雷は命中した。
その爆発によって発生したバブルパルスは全ての大型生物を即死させるだけでなく、その衝撃によっていくらかの敵も死に至らしめる事に成功した。
(小型、か。・・・よし、これで脅威はーー)
そう、確かにこれで脅威は無くなっただろう。
ーーここが地球であればの話だが。
鮫島艦長らは、大型生物のことを”硬質・狂暴化したデカい鯨”のようなものだと、海上保安庁が作成した資料を見て認識していた。
ならば、もし小型の敵対生物がいるならば、それはピラニアやワニのようなものだろうーー
(これで艦が傷つく心配は無くなった。)
皆、そう思っていた。
そして彼も安心し、戦闘終了の号令をかけようとしたのだ。
「総員対潜用具収めーー」
だがここは異世界。地球に非ず。
≪こちらいせ艦橋!あさひCIC、応答せよ、応答せよ!≫
やけに切羽詰まった声に、鮫島は悪寒を覚えた。
≪こちらあさひCIC、艦長の鮫島だ。どうした?≫
≪奴等登っているんです!≫
≪何?≫
≪化け物があさひの船体を登って来ているんですッ!≫
≪・・・報告感謝する!≫
そう言って彼は一方的に通信を切り、隊員を押しのけ、設定を艦内放送に切り替えてこう叫んだ。
≪総員艦内戦闘用意! 奴等は船体を登って来ている! 今すぐに立検を編成せよ!
それとだ、艦橋、機関最大、第一戦速だ! 奴等を振り払え!≫
≪こちら艦橋、駄目です! 奴等窓にーー!? お前ら駄目だ、退避、退避、退避ー!≫
直後、とても嫌な音が聞こえた。
≪・・・立検隊に告ぐ! 敵が艦橋に侵入した! 交戦を許可するーー≫
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ーDD119あさひ 艦内:艦橋付近の通路ー
「ーーいいか、絶対に機器を傷つけるな。」
「了解。」
「了解。」
「了解。」
俺たちはあれから化け物を倒し続けた。
どの位戦い続けたのだろうか?
・・・俺はそんなこと覚えちゃいないが、無駄に頑丈なGショックがアインシュタインの特殊相対性理論の正しさを身をもって教えてくれた。
そして今俺たちは9mm拳銃を手に、艦橋を奪還しようとしている。
・・・ああ、扉の向こうからクソ共の這いずる音が聞こえて来る。
「いくぞ、5、4、3・・・」
俺は右手の人差し指に力を込めた。
それは緊張だろうか、それとも奴等への殺意だろうかーー
「2、1--GO GO GO GO GO !」




