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20話

「カズヒト、死んで頂戴。でも安心して。すぐにウチも後を追うからね」

「……」


 背中に重みを感じる。こんなにも軽かったか、というのが最初に思ったこと。


 何も知らなかった頃は本当に幸せだった。

 裏切られ、裏切られ続けて騙されて、もう終わりにしたかったのにまた絡まれて……。


 今度こそ終わりにしよう。


 視界の左隅でミナミがミユキを手放すのが見えた。見えないがミナミの右手ではナイフが振り上げられているのだろう。


「死んで!」


 ナイフが振り下げられた瞬間俺は身体を回転させすぐ横に置いていたボディバッグの中からあるものを素早く抜き出す。


 俺が身体を回転させたことでバランスを崩したミナミが振り下ろしたナイフの切っ先は俺の頬を掠めて床にカツンっと当たる。


 頬が焼けるように熱いが構ってはいられない。



 再びミナミはナイフを振り上げる。


「避けるんじゃないわよっ‼」


 今度は両手でナイフを握りしめ、一気に振り下ろそうとする。


「させるかっ」


 俺はボディバッグから抜き出したモノのトリガースイッチを押しながら、ミナミの横っ腹に押しつける。


 バチバチバチ‼


 五秒間。激しいスパーク音がして、ミナミの身体は硬直する。


「あ゛あ゛あ゛……がっ、ぶっ、んいぐぐ」


 声にもならない声を出してミナミが倒れる。意識がないわけでは無いが、ショックで動けないようだ。


 すぐさまダイスケを拘束したのと同じケーブルタイを取り出し、素早くミナミを拘束する。



 終わった。今度こそ。



 念のために母さんに持たされたスタンガンが役に立った。俺は工場に侵入する前にスタンガンの安全装置は外しておいのだが正解だった。



「ミユキ!」


「カズヒト……怖かったぁ」


「もう大丈夫、大丈夫だからな」


 まだ完全ではないがミユキの意識ははっきりしたようだ。


「うん。カズヒト、……ぎゅっとして」


「ああ、絶対に離すものか。安心してくれ。


 ――それはそうとミユキはこんなところにわざわざ来たんだ?」


「えっと、ミナミにカズヒトを諦める為の話があるって呼び出されて……」


「そんな嘘くさい話に乗った、と?」


「……ごめん。だってカズヒトのこと自由にさせてあげたくって」


「そっか、ありがとな。でも無茶はするなよ」


 割れ窓の向こうからパトカーのサイレンが聞こえてきた。ここに入る前にミハルさんには連絡しておいたから、たぶん通報してくれたのだろう。時刻はもう午前三時。

 最悪の一日が終わったのか、最悪から一日が始まったのか……。


 もうどっちでも良いや。万事無事に解決したし。

 早く家に帰って寝たい。





 あれだけのことがあっても俺は頬の傷と背中の打ち身だけ、全治十日間。ミユキはジュースと称し眠剤と向精神薬を多分に飲まされたらしく入院三日と首の切り傷全治六日。これで済んだのは奇跡か?



 ミナミとダイスケは駆けつけた警官に逮捕された。

 この二人は俺よりも負傷の具合が酷いからって救急車に乗っていった。俺はパトカーの後席に入れられたのに。


 警察署に連れて行かれて、取り調べ受けて、被害届やら何やら書かされて帰宅したのは日も昇りきった午前八時。


 流石に寝かせて……。


悪夢は終わったみたいです。

お母さんの機転がきいたおかげで助かりました。

「いやぁ〜なぜか嫌なお予感したのよね。若い頃色々あってスタンガン買ったのよね。一度も使わなかったけど捨てなくてよかったわぁ」

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― 新着の感想 ―
ミユキ罠だとそこまで分かってて行くなんでレ◯プ願望でもあったのか?まともな話が通用しないのが分かってるのだから、夢見過ぎ。
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