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フェルディナントについて 6

 戦いの再開を告げる狼煙が上げられた。

 それを合図に、両陣営の(おとこ)たちが雄叫びを上げながらぶつかり合う!

 その勢いやまさに雪山の雪崩の如く!

 昨日同様、両軍は重装歩兵(ヘビーアームズ)を先頭に、その後方には騎馬隊を配置させた陣形で真正面からぶつかった!


「「ウォォォォォ!!」」


 激突の衝撃で、数人が宙に舞う。

 盾を構えた重装歩兵(ヘビーアームズ)たちが、重量のある大剣や戦斧を振り回すと、あちこちから悲鳴や斬られた腕、血飛沫が上がる。

 それでもぶつかり合うのをやめない。

 押し、押され、しかし互いに決して譲ることはなく、ただひたすらに、我武者羅に武器を振り回す。

 そうして時間がある程度経った頃、騎馬隊が彼らの上から覆いかぶさるようにして前に進んでくる!

 装甲(プレートメイル)に身を包んだ馬が、(おとこ)たちの中へと割って入り、戦況を掻き乱す!

 それだけで戦場は阿鼻叫喚。

 地獄の沙汰とはこのことだろう。


 そして騎馬隊の向こうからは……

 軽装に身を包み、長剣を手に駆け寄ってくる群衆の波が目に入ってきた。

 今度は俺たちの番だ!


 俺は剣を手にすると、一息を強く鼻から抜き出した。


 ーー父上も戦場で名を上げた!

 ならば俺も……!


「行くぞ!」


 小隊長が馬上から全隊進軍の合図を出した!

 それを確認して、俺は雄叫びを上げながら敵陣へと突っ込んだ!


「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 駆け出す俺の先には、一足前に飛び出した味方が、敵の剣を受け、力に押し負けて膝を付いているところだった。

 俺は素早く駆け寄り、敵の懐に潜り込むと、下方から上に向かって剣を払いあげた!

 敵兵の腹から胸元を掻っ捌き、バシャリと鮮血が俺の顔に降り注ぐ!


「っは……」


 敵兵は口から多量に吐血すると、その場に倒れ込んだ。


「す、すまん!」

「謝るな! 今は目の前の敵を叩け!」


 わざわざ謝罪する暇なんてないだろう!

 俺はすぐに視線を変えた。

 仲間が倒れたところを見ていたのだろう。

 数人が剣を構えながら駆け寄ってくるのが目に入ってくる。

 俺もすぐに体勢を変えた!

 奴らを迎え撃つ!

 だが、まだ間合いじゃない。

 俺から詰めてもいいが、この混戦だ。

 どこに敵がいてどこに味方がいるかなんて、分かったもんじゃない。

 ならば、寄ってくる奴をさばいていった方が効率が良い。

 それが俺の判断だ。


「そりゃぁぁぁ!」


 敵が俺の間合いに入った!

 姿勢を低くし、剣を横に構えた。

 相手は……三人か。

 俺は低い姿勢のまま走り出す。

 横に目を走らせれば、どいつもこいつも互いに斬り合っている。

 迫る三人の狙いはやはり俺か。

 迷いなく向かってくる。

 ふふ、いいだろう。


 お前たちも斬ってやる!


 俺は素早く駆け寄り、俺を目視した先頭の奴が振りかぶった瞬間、剣を横に払う!

 瞬間、そいつの腹が破け、夥しい血と腑がズルズルと落ちて来た。

 それを流しつつ、その後ろへ!

 横の薙ぎ払いが迫る!

 それを立てた剣で受け止め、動きを制する。

 そのまま剣を滑らせると、刃からは火花が漏れ出した!

 そして、滑らせて行った先には、剣を握る手がある!

 俺の滑らせた刃は、その握り拳を斬り裂き、腕を斬りつけた。


「うがぁぁぁぁぁぁ、がぁ??」


 剣を握る手は手首ごと斬り落とされ、そのまま手を返し、首筋へと剣を叩き込む!

 敵の首が宙を舞ったことを確認しつつ、最後の敵へ!

 何が起こったのか、そいつは理解出来ていないようだった。

 返って好都合!


 俺は通り過ぎざまに奴の首を斬りつける!

 頚動脈を斬った!

 首筋から鮮血が溢れ出す!

 俺の背中の向こうで敵は倒れた。

 倒れたことは確認しない。

 そんな暇はない。

 ドサリという音が耳に入る前に、俺はその場を離れようとした時。


 背中に激痛が走った!


「っつぁ!?」


 俺はその時初めて周囲を見た。

 なぜ気が付かなかったのだろう?


 自分が()()()()()()ことに。


「こ、これは……?」


 周囲を三人の敵に囲まれていた。

 それぞれが俺に向けて敵意を剥き出しにしているのが見ていて分かる。

 同時に込み上げる死への恐怖。

 それに抗いながら目を走らせ、抜け道がないかを探る。

 が、連中は隙を上手く封じている。

 俺が敵の目を逸らしてこの場を抜け出るのはかなり難しい。

 故に、込み上げるわけだ。

 ーー死への恐怖が……


「ちぃ!」


 背中の痛みを堪えながら、手にした剣を持ち上げた。

 だが、カチカチと剣が震えている。

 いや、俺の手が、体が震えて剣に伝っている。

 情けない……、カムリ家の嫡子が初陣で散るというのか?

 それが結果というには早すぎるだろうが、いずれ迎える未来に違いはない。

 どうすればこの場を切り抜けられるか?

 剣を構えていながら、頭に浮かぶのはそのことばかりだ。


「はっ! はっ! はっ……!」


 自分の息遣いが荒い。

 胸を打つ鼓動が激しい。

 まるで鈍器で心臓を殴りつけられているようだ。

 俺は切っ先を立てながら視線を回す。

 等間隔、等距離で俺を囲む三人は、ニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら、ジリジリとすり足で距離を詰めてきている。

 これは多分……多分だ。

 おそらく連中はタイミングを合わせて一斉に掛かってくる。

 初撃は一撃じゃなくて、三撃くるわけだ。

 それを凌げば勝機はある。

 だが、三方からくる攻撃をどう凌ぐ?

 それが一番の問題だ。

 連中は確実に俺を殺したい。

 そのために確実な手段を講ずる。

 至極単純だ。単純なことなんだ。

 なら俺はどうする?

 このまま、黙って連中の攻撃を食らうか?

 受け止め、なんとか凌ぎ、機会を伺うか?

 それとも……


 あぁ、そうか。

 連中は()()()()()()()()()()()()()んだ。

 じゃぁ、そのタイミングをズラせばいい。

 この場合、三人が息を合わせている。

 なら、一人がズレれば問題はないわけだ。


 至極単純、単純なことだ。


 三人以外の第三者が、そのタイミングをずらせばいい。

 すなわち、俺が。


 そこまで考えが至れば十分だ。

 俺は自分の周りをクルクルと見回し、最も良い脱出口を探した。


 ーーそして見つけた。


 三人のうち、正面の一人。

 その向こうは敵陣がある。

 背中の方はと言うと、そちら側は味方の陣だ。

 だから、二人いる。

 なるほど、相手を追い詰めるために退路を絶ったわけか。

 前に行けば敵陣、後ろへ逃れれば逃げ道を塞ぐ敵兵がいる。

 どちらに転んでも俺に逃げ道はない。


 ならば……


「ふー、ふっ!」


 俺は一息抜くと、足に力を込めて駆け出した!

 敵は当然、味方のいる方へ。

 つまり、バルト国側へと向かうと思うだろう。

 俺も敵の立場ならそう考える。

 だが、俺が向かったのは前。

 敵国側だ。

 まさか敵兵もそちらに動くとは思っていないだろう。

 可能性はあっても、低い確率だ。

 低いからこそ、そこに油断が生じる。

 余程の手練れでなければ、付け込まれやすい隙だ。

 俺はそこに賭けた!


「……!?」


 まっすぐ、敵兵へと俺は向かう。

 敵はまさか自分の方へ来るとは思っていなかったのだろう。

 他の二人と比べて明らかに剣を構える速度が遅かった。

 慌てて剣を構えるが、遅い。

 お前が構えた頃、俺はお前の懐にいる。


 ーー賭けは俺の勝ちだ。


「ずりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は剣を敵の胸めがけて突き刺し、そのまま押し通した!

 敵の心臓を貫き、剣は背中を突き破る。

 口と胸元から夥しい鮮血が溢れて俺へと降りかかった。

 俺は敵を押し倒しつつ、剣を引き抜き踵を返した!

 二人の敵兵は、今目の前で起こったことに少なからず動揺しているのが見えた。

 これが勝機と捉え、俺はすぐに姿勢を屈めて敵兵へと突っ込んだ!


 戦場での判断は重要だ。

 迅速かつ、的確な判断が自分の生死を決定する。

 それは訓練で培われるものではなく、戦場での経験のみで培われる。

 誰も教えてくれない。自分で成長するしかない。

 経験を積み重ねることが、人を達人の域へと導く。

 俺はその第一歩を踏み出したのだ。


 二人の敵兵の間をすり抜け、その間に俺は二人の急所へと剣を走らせた。

 二人を通り過ぎた頃。


 敵兵は他に膝をつき、互いに腹を抱えながら血を吐き出しつつ、大地に倒れ込んだ。


 俺は賭けに勝ったんだ!











拙い文章ですが、ここまでお読みくださりありがとうございます!

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