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エピローグ 殿下とヒロインは今日も仲が悪い

 アシュレイが男の姿になってから、女子生徒たちは手のひらを返したように、アシュレイを見つめてはキャーキャー騒ぐようになった。まったくもって現金なものである。

 殿下とアシュレイの手合わせを見ては騒ぎ、殿下とアシュレイがにこやかに話しているのを見てはうっとりとし、大変そうだ。


 そんな殿下とアシュレイだが、相変わらず私にべったりとしている。


「エドナ様、喉が渇きませんか。お茶にしませんか?」

「まあ、いいわね」

「エドナ。この間、良い茶菓子を貰ったんだが、食べないか?」

「まあ、ぜひ」


 殿下とアシュレイの間に挟まれ、あの手この手で私の気を惹こうとする二人に私は辟易としていた。

 私の気を惹いてどうする。ヒロインと攻略キャラらしく仲良くしてくれ。


「…アシュレイ」

「なんでしょうか、殿下」

「私の婚約者に気安く触らないでくれないか」

「男の嫉妬は醜いですよ、殿下」

「君になんと言われようと構わない。エドナに触れるな、近づくな」

「殿下ともあろうお方がなんて狭量な…実に嘆かわしいですね」


 本日も殿下とアシュレイの表面上はにこやかな舌戦は絶好調である。

 だから、私を間に挟んで舌戦を繰り広げるのはやめてほしいんだけど。


 殿下とアシュレイという、見目麗しい男性に囲まれた私は、周囲から羨望と疑惑の眼差しを向けられている。

「エドウィーナ様はどうやってあんな素晴らしい方々を虜に…」なんて言われているが、私はなにもしていないし虜にもしていない。

 ただ、奴らが変態(ドエム)なだけだ。そして奴らが私をドSだと勘違いしているだけだ。

 まったくもって見当違いな勘違いである。

 今後は殿下だけではなくアシュレイの誤解も解かなければならない。骨が折れそうだ。

 私はひっそりとため息をついた。




「エドナ様!」


 私が一人で中庭を散策していると、聞き慣れてしまった声に名を呼ばれた。

 振り返ればそこには、短い紺色の髪を揺らし駆け寄って来るアシュレイの姿があった。


「アシュレイ」

「酷いですよ、エドナ様。俺を置いていくなんて…」


 しゅん、とした顔をしたと思えば、「まあ放置プレイも嫌いじゃないですけど!」とにっこりと笑顔を浮かべる。

 アシュレイは殿下と違い、ころころとよく表情が変わる。


「だけど、俺はエドナ様の傍にいたいんです。どうか俺を置いていかないでください」


 そう言って潤んだ瞳で私を見つめるアシュレイ。

 思わず胸がきゅん、と疼いてしまうような表情をしている。

 だけど知っている。これがあざとい彼の作戦だということを。


「アシュレイ。その手には乗らないわ。それに、わたくしは一人になりたかったの。放っておいて」


 フイッとアシュレイから顔をそらして冷たく言うと、アシュレイは「ちぇー」と呟く。


「…だけど、そんなエドナ様も素敵です」


 そう言ってにこっと笑うアシュレイはとても可愛らしい。

 可愛らしいのになぜだろう。鳥肌が立つ。


「ねえ、エドナ様」


 アシュレイはぐっと私に近づき、その端正な顔を私に近づけた。

 すぐ目の前にある綺麗な蜂蜜色の瞳に私は思わず息を飲む。

 吸い込まれそうなほどまっすぐで綺麗な瞳。

 とてもじゃないけど変態(ドエム)の瞳とは思えない。


「―――俺は、魅力がありませんか」


 少し切なげに揺れる瞳に私は戸惑う。


「アシュレイ?」

「殿下なんかやめて俺にしませんか? 俺、こう見えても優秀ですよ」


 そう言って切なく微笑むアシュレイに「どういうこと?」と問いかけようとした時、「エドナ!」と焦ったような殿下の声が聞こえてそちらを向く。

 すぐ近くから「チッ」と舌打ちが聞こえたような気がしたのは気のせいだと思っておく。


「まあ、殿下。そんなに慌ててどうされまして?」

「エドナが駄犬に襲われてないかと心配で。なんとか無事のようで良かった」


 そう言ってほっとした表情を浮かべた殿下に私は首を傾げる。

 駄犬に襲われる? そんな危ない犬なんていただろうか、この学園に。しっかり調教済みと聞いているけど…。


「殿下、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。俺が傍についているので」

「君がいるからこそ心配しているんだけど」

「それは一体どういう意味でしょうか」

「さあ? それくらい自分の頭で考えろ」


 にこにこと笑いながらのやり取り。

 和やかな会話なはずなのになぜこんな殺伐とした雰囲気なのか。実に謎である。


「…エドナ様に罵られる役は譲りません。例え殿下であっても」

「フッ。面白い。私も譲る気はない」


 もしもーし。私あなたたちを罵る気なんてありませんよ?

 譲るとか譲らないとか勝手に言うのやめてくれません?


「エドナ」

「エドナ様」


 二人は一斉に私を見つめ、跪く。

 ちょっと何してんの!? 特に殿下! ここ人目がないからいいけど、誰かに見られたらどうするの!?


「エドナ、この先も私が跪くのは君にだけだ」

「エドナ様、俺はエドナ様に一生お仕えします」


 そう言って私の手を二人は取り、手の甲に口づけた。

 ぎゃああ! なにするんだ!?


 そして二人は互いに顔を見合わせ、挑戦的な目を向ける。

 なんなの…これなんのイベントですか。

 私は悪役令嬢ですよ? 二人の仲を引き裂くべく動き、それが逆に二人の恋の導火線に火をつける役となる、悪役令嬢ですよ?

 なのになんで攻略キャラと主人公に跪かれているの?


 戸惑う私をキラキラとした眼差しで見つめる二人。

 あれですか。これはドSな私を望んでの行動ですか。そうですか。

 その手には乗らないけどな!


 だって私、そんなキャラじゃありませんから!!





活動報告ではあと2、3話とか言っておきながら、これにて一応完結とします。

変態な私による、私の変態心を満たすための、変態作品でした。

しかし、いくら私が変態とはいえ、ネタが切れました…。本来は短編で書く予定のものでしたので…(笑)


こんなド変態な話に付き合ってくださった皆様、ありがとうございました!

たくさんの評価、ブックマーク、感想とかも、ありがとうございました。


無念とかいろいろあるのですが…

お兄さまがあまり登場させてあげれなかったり、他の攻略キャラを出せなかったこととか…。エドナは殿下とアシュレイの誤解を解くことができたのか、とか…。

そのうちひょっこりと続編書いているかもしれません。見かけたら懲りてねえな、と生暖かい目で見てください…。

続編書くならイーノスかアシュレイのどちらか、ではなく、どちらのルートの話も書きたい、とか思ってます。テヘペロッ


とにかく、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました~!

よろしければ他の連載作品もよろしくお願い致します。


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[一言] イーノスとアシュレイの IFルート読みたいです!
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