俺の裏事情
アシュレイ視点です。
皆さま、ツッコミどうもありがとうございました(笑)
俺、アシュレイ・バーナーズは“男”である。
どんなに可愛らしい容姿をしていて、髪を伸ばしてスカートを履いていたとしても、俺は“男”だ。身も心も、正真正銘の“男”なのだ。
そもそも、俺が女の格好をするようになったのは、両親のせいだ。
俺はもともと双子で、俺には姉がいた。生まれてすぐに死んでしまったそうだが、俺は幼い頃から「アシュレイにはお姉さんがいたのよ」と母に言い聞かされて育ったため、姉がいたんだな、ということは知っていた。
アシュレイというこの名も、男だったら“アシュリー”、女だったら“レティア”にしようと両親が考えた名を掛け合わせたものだ。姉の分も長生きしてほしい、という願いを込めて。
そんな両親の願いに反して、俺は病弱な子供だった。
たびたび高熱を出し寝込むことが多かった俺の将来が心配になった両親が頼ったのが“占い師”という胡散臭い存在だった。
その占い師の占いによれば、俺は16歳の誕生日を迎えるまで、女として生きれば健康で元気に育つ、ということだった。
元より迷信深かった両親はそれをすんなり信じ、熱で朦朧としている俺を女の子の格好にさせた。すると占い師の言う通り、俺はみるみる元気になり、健康な子供になった。
両親は喜んだが、俺はいい迷惑だった。
近所の同世代の子供たちは俺が男であることを知っている。そんな俺がある日突然女の子の格好をしだしたものだから、俺はからかいの対象になる。
オカマだの、変態だの、散々言われた。最初は言い返せず、泣いて帰ることも多かったが、そんな俺を見ても両親は女の子の格好をやめさせることはなかった。元気で育てばそれで良かったらしい。
そんな両親は当てにならないと幼い俺は感じ取り、色々頑張った。勉強も武術も近所では負けないようになるくらい、頑張った。その結果、近所では尊敬の眼差しを向けられるようになった。
そして幸運なのか不運なのかよくわからないが、俺の容姿は十分“美少女”として通用するくらい整っていた。近所から一歩足を踏み出れば、俺は男どもに囲まれる。
男の俺が男に囲まれるこの状況に、笑いが止まらなかった。思い付きで女の真似をしてみれば、男たちが顔を赤らめ俺に言い寄ってくる。
これがまた面白く、俺はすっかり女の真似をするのが板についてきてしまった。
その癖が中々抜けないまま、俺は王立魔法学園に入学することになった。
まだ15歳。学園には両親が説明をしてくれ、しばらくの間俺のこの女装は黙認されることとなった。ただし、16歳になった時点できちんと男の格好をするように、とは釘をさされた。
ここに来ても同じだった。俺は男どもにちやほやされた。面白いには面白いが、嬉しくはない。
反対に、女からは嫉妬され、陰湿な嫌がらせを受けた。
俺は嫌がらせをしてきた女どもの顔をきちんと脳に叩きつけ、男に戻ったら復讐してやる、と誓った。
そんなある日のことだった。
俺がそれを目撃したのは。
女どもの嫌がらせに辟易した俺は、空き教室に身を隠そうと適当な空き教室に入ろうとした。
空き教室だと思ったその場所には先客がいた。
チッと舌打ちをひっそりし、回れ右をしようとした俺の視界に、鮮やかな金髪と艶やかな銀髪が入って来た。
気になった俺はこっそりと空き教室内を覗くと、そこには有名人が二人揃っていた。
1人は我が国の王太子であるイーノス殿下。
容姿端麗で文武両道で常に微笑みを絶やさない殿下はまさに理想の王子様だ。実践の授業では俺の良きライバルでもある。そして、本人に言われたわけではないが、恐らく殿下は俺の性別が男だと気づいている。まったくもって敵に回したくない人である。
もう1人はそんなイーノス殿下の婚約者であるエドウィーナ様だ。
とてもきつそうな容姿をしているが美人で、イーノス殿下とはとても仲が良い。
成績も優秀らしく、あまり隙もない。みんなから一目置かれている人だ。
そんな二人が揃って空き教室にいるのだ。それも人目を憚るようにして。
なにをしているのだろう、と興味がわくのが人の性。俺はその性に逆らわないでそっと二人の様子を伺うことにした。
そこで気づく。なにか様子がおかしいぞ、と。
俺は聞き耳を立てた。
「わたくしに触れようとするから、痛い目に遭うのよ」
苦痛に顔を歪ませ、膝をつく殿下。
そんな殿下を彼女――エドウィーナ様は冷たい笑みを浮かべて嘲笑う。
「わかったかしら? 今後いっさい、その汚い手でわたくしに触れようとしないで」
「エドナ…しかし」
「しかし、ではないわ。わたくしに触れないでと言っているのがわからないの? とんだ駄王子ね」
クスクスとバカにしたように殿下を笑う。
世継ぎである殿下をこうも無下にできるのは、国中を探しても彼女しかいないだろう。
屈辱に顔を歪める殿下を、彼女は嬉しそうに見て言う。
「あら。良い顔をするじゃない」
その表情に、俺はゾクリとした。
そして、今、彼女に正面から見られている殿下が羨ましいと思った。
―――彼女は、美しい。
傲慢なほどに美しく、そして人を見下すその瞳はまるで女神のよう。
そんな目で彼女に見つめられたい。
俺は強くそう思った。
ああ。彼女に罵られたい。罵倒されたい。
この歪んだ気持ちに名をつけることが許されるなら。
この気持ちをきっと人は“恋”と呼ぶのだろう―――
エドナの知らないこの世界のこと。
アシュレイの姉が生きていて、アシュレイが死んでいた場合が君アイの世界です。
つまり今のこの世界はパラレルワールド、ということです。
乙女ゲームの世界だと思っていたけど実は乙女ゲームのパラレルワールドだった! というオチです。
だけど、エドナはそんなこと知らないのでうんうん悩んでいます。




