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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-070 収穫祭を楽しもう


 収穫祭はマクランさん達が御膳立てしてくれたから、俺達は用意された席に座って見ているだけで良かった。

 レイニーさんは収穫祭の開始の挨拶をしていたけど、俺の挨拶は必要ないと教えてくれた。閉会の挨拶ぐらいはしないといけないのかなと思っていたから、安心してワインを頂ける。

 今夜一晩でワインの樽を2つ開けると言っていたから、皆が喜んでいる。でもよく考えてみると、住民の数が3千人近いんだからなぁ。2杯目が飲めるのかと心配してしまう。


「オビールさん達が村に来る度に、各小隊にワインを1ビン届けてくれてたんですよ。大型の魔法の袋を借りているからと言って、ワインを1樽別に頂きました。今回はそれをマクランさんに渡してますから、都合3樽になるはずですよ」


 チビチビとワインを飲んでいた俺にエルドさんが教えてくれた。

 となると……、ワインのカップに蒸留酒を混ぜているガラハウさん達には蒸留酒を届けていたのかな?

 いやいや、1本ぐらいならすぐに飲んでしまうだろうから、銅鉱石を売った金額で蒸留酒をエディンさんに頼んでいたんだろう。それでも売上金の半分を俺達に渡してくれるし、村で使う金属材料を買い込んでいるんだからありがたいと思わねばなるまい。

 

 ヴァイスさん達ネコ族の人達も、焼き魚を丸齧りしながら、若い娘さん達が焚火を囲んで踊る様子を眺めている。

 樽を叩いたり自分達で作った楽器を鳴らして陽気な音楽が俺達を楽しませてくれる。皆結構芸達者なんだよなぁ。獣人族は音感に優れているのかな? 

 

 エクドラさん達が作った料理も、ここしばらく見てないような代物ばかりだった。パンでさえ普段の平らな黒パンでは無くて、ふっくらと柔らかいものだったからね。

 だいぶ食材を放出したようだけど、エクドラさんの事だから、食糧庫には半年以上の蓄えがあるに違いない。

 

「まだまだお代わりが出来るにゃ。レオン兄さんの分を貰って来るにゃ!」

「俺は、もう十分だよ。ナナちゃんこそ、たっぷり食べるんだよ」

「2杯目を食べ終えたにゃ!」


 笑みを浮かべて教えてくれたけど、確かにお腹が膨らんで見える。育ち盛りなんだろう、この頃たくさん食べているようだ。

 

「あの小さなお皿ですからね。2皿分でも、私達の1皿ですよ」

「そういう事か! だいぶ食べれるようになったと感心してたんですよ」


 レイニーさんが種明かしをしてくれた。俺と同じような食器を王都で買い込んでおいたんだが、レイニーさんの話ではガラハウさんが一回り小さな食器を作ってくれたらしい。

 それなら、2杯食べても問題は無いだろう。


「レオンさんこそ、小食ですね?」

「そんなことはありませんよ。ワインが2杯目ですからね。その分料理が入る場所が少なくなってるだけですよ」


 エルドさんの話ではまだワインがあるとのことだが、俺にはこれで十分だ。

 

「ほら、ほら、こんなとこに座ってないで一緒に踊るにゃ!」


 笑みを浮かべて近づいてきたヴァイスさんに無理やり立たされて、若者達の輪に加わる。

 ちょっと変わったステップだけど、皆酔っているんだろうなぁ。少し間違えてもあまり気にしていないようだ。

 隣同志手を繋いで焚火の周りを巡るように踊る。

 途中からモモちゃんに押されて、内側の輪に入ったけど、こっちは年少組なんじゃないのか?

 隣の女の子だって、モモちゃんより少し背が高いだけだからなぁ。

 さすがに恥ずかしさに耐えかねて、2周したところでモモちゃんに断り輪を抜け出す。

 食事をしていた場所に向かうと、エルドさんがパイプを楽しんでいた。

 レイニーさんは、どうしたんだろう?

 首を傾げている俺に、エルドさんが腕を伸ばす。その先には兵士達と一緒に踊るレイニーさんの姿があった。


「さすがに疲れますね」

「まだそんな年じゃないでしょうに。ほらマクランさんだって、あの通りですからね」


 エルドさんの腕の先には、若い婦人と肩を組んで踊っているマクランさんがいた。近くにいるのはガラハウさんじゃないのか?

 まったく、元気なお年寄り達だなぁ……。


「あれから5年ですね。さすがに、これほど大きな村になるとは思いませんでしたよ」

「現在も膨らんでいるからねぇ。とはいえ、2倍程度で頭打ちになってくれればと思っています。小さければ何とかまとまりますが、大勢になってくると調整が難しそうです」


「例の委員会が上手く動いてるじゃないですか。あんな仕組みがどの村にもあれば良いんですが……」

「村役達の権益が無くなりますからね。導入することはないでしょう。ここは何をするにも共同です。貧富の差が今のところはないですから」


 畑を分配すると貧富の差が出てくるに違いない。それに商人達が混じれば間違いなく起こってくるはずだ。俺達兵士達の給与もそれほど差があるわけでは無い。小隊長達には少し高めに支払っているけど、ワインを買って部下に飲ませているからなぁ。

 だが、全てを共同でというのも難しいだろう。

 少しずつ、個人の権利を尊重していかねばなるまい。

 とは言っても、それはもう少し平和になってからの話だろうな。南と西に敵を持つ以上、軍政を的な村の運営を続けて行かねばなるまい。


 焚火の火がだんだん小さくなってきたが、まだ村人達は賑やかに騒いでいる。

 レンジャーや兵士の姿が少し変わっているのは、見張りを交代したからなんだろう。

 隣のナナちゃんを見ると、すでに夢の中のようだ。そろそろ引き上げようかな。このまま騒いでいたら、朝になってしまいそうだ。


「それじゃあ、先に失礼します。エルドさんは、まだここに?」

「私もそろそろ引き上げますよ。明日は朝から見張りです。レンジャー達が周辺偵察に出てくれてますが、やはりそれだけではねぇ……」


 監視の目を欺きながら偵察するような部隊が、ないとは言えないからなぁ。

 よろしくお願いしますと伝えて、ナナちゃんを抱えて部屋に戻る。

 砦の石塀を超えるとさすがに静かになる。

 あちこちに下げられているランタンの光を頼りに指揮所に戻ると隣の部屋に入ってベッドに入る。夏だから着替えずにこのまま寝てしまおう……。


 翌朝早く、ナナちゃんに起こされてしまった。

 もう少し寝ていたいけど、2度寝したら昼過ぎまで寝てしまいそうだ。

 ゆっくりと起き上がり、腕を大きく開いて深呼吸。

 指揮所を出て、村の水場へ通す地下水路の途中に作った水場で顔を洗う。さすがに山水だけあって冷たいな。すっかり目が覚めた感じだ。

 

「もう直ぐ、魚の卵をエルドさん達が取りに出掛けるのかにゃ?」

「そうだね……。去年だと、もう少し後じゃなかったかな。今年もたくさん育ったようだね」

「エクドラ小母さんが喜んでたにゃ。でも、冬場に使うと言って燻製にしてたにゃ」


 ポットでお茶を沸かして、俺の前にカップを置いてくれた。

 この頃はすっかり美味しいお茶を出してくれるようになってきたから、指揮所のお茶登番になった感じだな。


「ありがとう。ナナちゃんは飲まないの?」

「もう少し冷めてからにするにゃ」


 猫舌は治らないんだろうな。

 どうにか冷めたんだろう。フウフウと息を吹きかけてお茶を飲み始めた。

 風向きを確かめてパイプを楽しんでいると、レイニーさん起きてきた。髪があちこち撥ねているけど、顔を洗ってからいつものように梳かすのだろう。


「「おはようございます」」


 互いに挨拶をすると、直ぐに外に出て行った。

 指揮所の裏手に作った水場は、俺達にとっては贅沢な代物だ。

 他の連中は、少し歩かないといけないからなぁ。


 レイニーさんが戻る前に、伝令の少年達が指揮所にやってきた。

 俺達の朝食を運んでくるのも彼らの仕事らしい。

 食堂で食べる方が、楽しいんだけどそれは昼食と夕食ということになる。その原因が俺達が起きるのが皆よりも遅いということだからなぁ。エクドラさんが困った表情で俺達を眺めていたから、俺達だけに朝食を届けることで早めに食堂の朝食を切り上げたかったに違いない。


「エルドさんが魚の卵を取りに行くと言ってましたよ」

「そんな時期だったかな? 去年はもう少し後だと思ってたんだが」

「魚の具合を見に行くだけかもしれません。でも、卵を持っていたなら運んでくると言ってました」


 そういう事か……。確かに、何時頃から産卵に集まるか分からなかったからね。先ずは調査、上手く行けば受精させた卵を運んでくるってことだな。

 これで養魚計画から俺の役目が終わってしまった感じだ。始めてから2年後にはそんな感じがしてたんだが、ナナちゃんが今でも絡んでいるのが唯一の救いかもしれない。


「今日は卵を入れる皿を綺麗に洗うにゃ。10枚あるから、たくさん運んできても大丈夫にゃ」

「割らないように気を付けるんだよ。でも去年枚数を増やしたから2、3枚なら何とかなるかな」

「その場で洗うから心配ないにゃ。それにヴァイスさんが手伝ってくれるにゃ」


 ヴァイスさんの手伝いの下心が見え見えだな。顔を洗って帰ってきたレイニーさんも、ナナちゃんの話を聞いて苦笑いを浮かべている。


「それでは、頂きましょうか……」


 レイニーさんがテーブルに戻ったところで、燻製を野菜で包み平たいパンに挟んだ朝食を頂く。お茶をナナちゃんが淹れなおしてくれたから、ちょっとぱさぱさ下朝食も美味しく頂ける。


「朝食後は、南の塀の状況を見てきます。レオンはどこに?」

「西を見てきます。帰りには東のガラハウさん達の様子を見てきますよ。工房を作ると言っていましたから、設置場所をこの地図に落とす必要もあります」


 工房を作ることで北の柵の位置も変わるはずだ。

 大掛かりな工房と銅鉱山となれば、王国や魔族も手を伸ばしかねない。その対策についても考える必要があるんじゃないかな。


 朝食を終えて、カップのお茶を注ぎ足して貰う。

 ポケットにメモ帖と筆記用具があることを確認しながらパイプを楽しんでいると、伝令の少年が駆け込んできた。


「報告します。東の踊り場に兵士が現れました!」


 ベンチから立ち上がると、軽くレイニーさんに頭を下げて指揮所を飛び出した。

 後ろからナナちゃんと伝令の少年達の足音が聞こえてくるけど、歩調を合わせる必要はない。先ずは確認を最優先にしなければ……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 平和な日常回、祭みたいな娯楽がないと気が滅入るから必要ですよね。 [気になる点] 途中、踊る所ナナちゃんが、モモちゃんに成ってますよ。 イキナリ新しい娘出て来たかと思った。
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