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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-049 家を出て4回目の秋がやってくる


 オリガン家を出て4回目の秋分がもう直ぐやってくる。

 16歳で家を出たんだから、今年で20歳ということになるんだろう。

 砦の連中も、俺が入隊したころに比べて少し歳を取ったようにも見える。レイニーさん達もそろそろ伴侶を向かえないといけないんじゃないかな?


 そんな目でテーブル越しに帳簿を眺めているレイニーさんを見ていたら、急に顔を上げて俺に顔を向けた。

 俺の視線を感じたのかな? それとも変な事を考えていたから危険を察知したのかもしれない。


「何か、私に変なところがありますか?」

 

 ちょっと心配そうな表情で問いかけてきた。

 ここは正直に話した方が良いのかもしれない。ヴァイスさんやエルドさん達だってすでに適齢期を過ぎている感じだからなぁ。


「実は……。皆さん、独身ですよねぇ。そろそろ伴侶を探さないといけないような気がしまして……」


 レイニーさんの顔が真っ赤になって、次第にきつくなってきたから、俺の声もだんだんと小さくなり最後はモゴモゴと口の中だけになってしまった。


 レイニーさんが姿勢を正して、帳簿を片手ですいっと脇に押しやる。端正なレイニーさんが真面目な表情で俺を見るから、ちょっと怖いくらいだ。


「確かにおっしゃる通りです。獣人族の適齢期は20歳前後。女性の方が早く嫁ぎますから私やヴァイス、リットンは少し出遅れているかもしれません。でも、これは相手あってのことですから……」


 やはり気にしていたみたいだな。

 

「これだけ住民が増えたんですから、中には良い出会いがあったかもしれません。そんな2人がいたなら、皆で祝福してあげても良さそうですね。とはいえ一生の問題でもありますから、あまり煽るのも問題ですけど」

「今後さらに住民が増えていくとなると、そんな出会いもあるかもしれません。だけど、私が結婚したら誰がこの砦の指揮をするんでしょう?」


 責任感が強い人だからなぁ。それで一歩足を出せなかったのかもしれない。

 でも、レイニーさんの言葉をそのまま受け取ると、結婚を機に指揮官を止めるということになるんだが……。


「結婚しても指揮官は務まるでしょう。俺が補佐しますよ。そんなことは気にせずに自分の幸せを見付けてください」

「そういうレオンさんには相手がいるんですか?」


 笑みを浮かべて問いかけられてしまった。


「私がいるにゃ! ずっとレオンお兄ちゃんと一緒にゃ」


 椅子の上に飛び乗って、ナナちゃんがレイニーさんに大声を上げている。誰かに取られると思ったのかな?

 それは無いから大丈夫だと、頭を撫でてあげた。


「そういえば……、レオンさんとナナちゃんは砦に仕官した当時からまるで姿が変わりませんね。ネコ族は成長が速いはずなんですが」


 気付かれた……。その内に気付かれると思ってはいたんだが、案外早かった。

 ゆっくりと頭を左右に振って、指揮所にいるのが俺達だけであることを確認する。

 レイニーさんには本当の事を伝えておいた方が良いだろう。


「話すと少し長くなるんですが、俺はどうやら人間族とは言えないようですし、ナナちゃんにしてもネコ族では無いんです……」


 オリガン家の実家から砦に来る途中で出会った女神との経緯を話すと、目を丸くしてレイニーさんが聞いてくれた。

 驚くだろうな。ナナちゃんが精霊族のケットシーなんだからね。


「それにしても……、いえ、悪い意味ではありませんよ。ケットシーの話はネコ族なら誰でも知っていますから。そうだとすれば……、お祖母ちゃんの昔話の通りなら……、ナナちゃんは数十年はこの姿のままです。そしてレオンさんもハーフエルフということになれば神官様と同じように現在のまま生きていくことになるでしょう。結構、若い女性兵士に人気があったんですが彼女達は諦めることになりそうですね」


 最後の言葉は、笑い声が混じってたぞ。

 そんなに人気があったんだろうか? 村で暮らしていた時は同情の目で見られてたんだけどなぁ。


「そんなわけですから、その内皆に知られることになると思います。人間族とは違うということで、この村に置いて頂けるなら幸いです」

「逆です! ケットシーはネコ族の危機を救う存在とまで言われている種族ですよ。それにハーフエルフは森の守り手と言われているぐらいですから。……それで弓が上手なんですね」


「まあ、弓はそうでしょうけど、問題は魔法が全く使えないってことです。エルフと言えば魔法ですからねぇ」

「その分、弓の腕が良くなったということになるんじゃないですか? 魔法といっても、魔導士ならともかく一般的には生活魔法が出来れば十分です」


 その生活魔法でさえできないんだよね。姉上には感謝してもしきれないな。このバングルのおかげでどれだけ助かってるか。

 それにナナちゃんがいるから、特に魔法は使えなくても良いんだけど……、エルフと言えば弓と魔法だからなぁ。


「女神様もレオンさんに必要な物だけを与えたということでしょう。ナナちゃんがいるなら魔法を使うことなどないと思いますよ」


 ネコ族は生活魔法ですら、使用回数が少ないらしい。そんなネコ族とよく似たケットシー族は魔法がエルフ以上に使えると教えてくれた。

 そんな事を女神様も言ってたなぁ。だけど、ナナちゃんに魔法を教えてくれる人はこの村にはいないような気がするんだよね。


「そんなわけで、俺達はある意味異質な存在と言えます。この村の裏方で暮らして行こうと考えてますよ」

「出来れば、長く指揮官として皆を統率して頂こうと思っていたのですが、レオンさんにも事情があるということですね」


 理解してくれたとは思えないけど、この村は獣人族の暮らす村として発展させるなら、俺は表に出ない方が良いからね。レイニーさんが重責で潰れないように補助してあげるのが他の獣人族から見ても自然な感じで見てくれるだろう。

 砦から抜け出した俺達だけならともかく、これから人間族に追い出されたり、迫害を受けた獣人族が続々とやってくるとなれば、ハーフエルフであっても人間族に似た俺が指揮官ということになれば、彼らだって心穏やかではないだろう。


「さて、何とか夏を乗り越えましたが、冬越しの準備も始めないといけません。商人達が冬越しの食料を運んでくれることになっていますけど、多分新たな住人も連れてくるはずです。場合によっては追加の食料を手配しないといけなくなりそうです」

「食糧倉庫を新たに2つ作ってありますし、次に運ばれる食料は前回の2倍を頼んだそうです。レオンさんが受け入れるとしても百人程と言いましたから、さすがに倍の住人を連れてくるとは思えません」


 余裕を持ったということかな?

 確かに厳密に百人ということにはならないだろう。それを上回るのは想定済だ。

 ヴァイスさん達が周辺の偵察を兼ねて狩りをしてくれるから、燻製肉もだいぶ貯まったらしい。子ども達も森で木の実やキノコをたくさん集めてくれるはずだ。

 商人達が運んでくれた果物の苗は、まだまだ若木だから、実を付けるのは数年程先になるだろう。ドワーフ族の工房長がブドウの苗を頼んでいたけど、ワインを作れるようになるにはどれだけ掛かるんだろう?

 まあ、それも楽しみってことなんだろうけど。


「エルドが新たな池を作っていたようですけど?」

「ああ、俺が頼んだんだ。去年孵化した魚がだいぶ大きくなったけど、後1年大きくしたい。そうなると今年孵化させた稚魚を入れる池が無くなってしまうからね」


 レイニーさんの悲しそうな顔は、あの魚を今年食べられないと言ったからかな?

 エルドさん達がもう直ぐ卵を採取に出掛けるから、その時には食べられると思うんだけど……。

              ・

              ・

              ・

 秋分の2日後に、商人達が行商人と一緒に荷馬車を連ねてやってきた。

 かなり沢山の獣人族が一緒にやってきていると、見張り台から知らせに走ってきた少年が教えてくれた。


「一応、長屋を立てたから何とか収容できるだろう。広場には行商人が店を開くだろうから、西の広場に集めた方が良いだろう。仲間と一緒に西の広場に案内してくれないか?」

「了解しました。お袋達にもお茶の準備をするように言っておきます」


 少年の機転に、笑みを浮かべて頷いた。

 少年が指揮所を出ていくと、レイニーさんに顔を向ける。


「村人への報酬はお願いしますよ。俺とナナちゃんで新たにやってきた住民への説明を行います。ヴァイスさんを連れて行きます。結構世話好きですから、上手くさばいてくれるでしょう」

「少しは戦力が上がるでしょうか?」

「それはあまり期待しない方が良いでしょう。でも訓練次第では何とかなると思っています」


 保護されるのではなく、一緒にこの村を守っていこうという気力を期待したいところだ。

 それが出来ないというなら、自分のできることに全力を出して貰いたい。だが最終的には、自分に身を守るのは自分だけだという事を教えておかないといけないだろう。


 砦の中が賑やかになってきた。

 どうやら商人達が砦の中に入ったのだろう。

 

 直ぐに、商人のエディンさんとレンジャーのエルドさんが指揮所にやってきた。


「やってきましたよ。大勢で来ましたから少し遅れてしまいました」

「連れて来て頂き感謝します。詳しい話は夕食後でどうでしょう? これから新たな住民に少し話をしないといけません」


「そうでしょうな。私はそれで構いません。その前に、これが砂金の両替分です。銀貨20枚は、ここまでの護衛報酬ということで、天引きしてあります」


 商人の連れが、腰に下げたバッグから魔法の袋を取り出して、2つの革袋と金貨4枚を差し出した。

 受け取ると、そのままレイニーさんに手渡す。


「1つ早めに知らせておきたい。オリガン家に動きがあるようだと前に話したが、ついにやってきたぞ。先の依頼を済ませてから案内すると伝えておいた。俺達が帰ってから12日後に案内してくるつもりだ」

「まさか、父上ということでしょうか?」


「いや、若者だった。従者を8人連れていたが、人間族の2人以外はレンジャーのようだったな」


 あらかじめ教えてくれたことに感謝の言葉を返したところで、少し考え込んでしまった。

 そうなると、レンジャーの6人は獣人族ということになってしまう。

 兄上の事だから、途中で保護してきたとも考えられるが、レンジャーならそれなりに森で暮らすことも出来るだろう。この地にやってくるのは、俺に対する単なる叱責ということではなさそうだ。

 それに考えてみるとおかしくないか?

 兄上は近衛兵を率いる小隊長でもあるはず。休暇は取れるだろうが、サドリナス王国にまで足を延ばすとなればあちこちとの調整も必要だろう……。

 まさか! ブリガンディ王国内で政変が起こったわけではないだろうな。


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