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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
379/384

E-378 春分を過ぎると忙しくなる


 春分が過ぎ、根雪が少しずつ融けていく。

 とは言っても、マーベルから雪が完全になくなるまでにはまだ1か月は掛かるだろう。

 そんな時期だけど、開拓民達は畑に出掛けて肥料を撒き始めた。

 堆肥と冬の間にたくさん出る灰を混ぜた物なんだが、撒けばそれだ良い畑になってくれるのだそうだ。

 ビーデル団の年長組が、そんな仕事を請け負っているんだよなぁ。

 まだ寒いと思うんだけどね。


「それで、エニルの部隊はご婦人方が参加することになったんですか?」

「2個分隊増えたそうです。基本はマーベルの防衛ですから兵器の操作を誤らぬ限り危険はないでしょう。夫はブリガンディで無くしたそうですし、子供達も大きくなって離れて行ったと聞きました」


 そんなご婦人方が結構いるのがマーベル共和国なんだよなぁ。獣人族迫害の被害者だから、本来ならばのんびりと暮らして欲しいところなんだが、エニル達の要請に直ぐに応えてくれたらしい。

 一人で暮らすよりは仲間と一緒の方が良いということなのかもしれないな。


「そろそろガラハウさん達が、試作兵器をいくつか引き渡してくれると思います。それを使って訓練をすれば西の尾根の防衛力を強化することが出来るでしょう」

「エクドラル王国が欲しがりませんか?」


 目を細めてレイニーさんが危惧を伝えてくる。

 ちょっと面白がっているようだな。


「制作図と現物を見せる分には問題は無いと思いますよ。基本はエクドラル王国に教えた大砲の延長ですからね。とはいえ、同じものを作れるとも思えません。発射する火薬が少し変わっていますし、砲弾を飛ばす原理も現物を見ただけで理解することは出来ないでしょう」


 似た物を作ったなら、それは臼砲と呼ばれる大砲になるかもしれないな。

 それはそれなりに使えると思うけど、かなり重くなる可能性がある。

 また、砲弾の信管について開示することはしないから、石火矢のように導火線を砲弾の中に入れる方式になるだろう。どんな形の砲弾になるか分からないけど、ライフルリングを刻まない限り正確な射撃は難しく思えるんだよなぁ。


「軽い大砲と言うのが理解できないんですけど」

「発射するための装薬が石火矢の装薬に近いからですよ。大砲は一気に装薬が炸裂して砲弾を飛ばしますけど、石火矢は後方に装薬の燃焼ガスを噴出して飛ばします。その中間的な火薬を炸薬として砲弾に詰めるんです」


「長く炎の尾を引かないと?」

「目で見えるようなことは無いと思いますよ」


 とはいえ、やってみないと分からないんだよなぁ。

 砲弾も装薬量を変えていくつか試作するとは言っていたんだけどねぇ。どれぐらいが適切なのか、俺もガラハウさんも分からないからなぁ……。


 明日からは4月という夕食後の会合時に、ガラハウさんが2門の迫撃砲が出来たことを教えてくれた。

 

「とりあえずは出来たんじゃが……。果たしてあれが飛ぶのかどうか、良く分からんぞ」

「試してみれば直ぐに分かりますよ。砲弾も作ってくれたんでしょう?」


「炸薬量を変えて作ってみた。とはいえ砲身があの厚さじゃからのう。それほど量を入れておらんし、炸薬は入れておらん。炸薬の重量と同じ重さの砂を入れておる」


 発射時だけ注意しておけば安全ということだな。

 

「それで重さは?」

「荷車に乗せれば2人で運べるじゃろう。下ろすには4人は必要じゃな。砲弾の炸薬量は石火矢を越えるぞ。上手く発射できるようなら炸薬と信管を取り着けて試験してみればいい」


 荷馬車で運べるなら西の尾根で試してみるのが一番だろう。尾根を越えることが出来るのか。どれほどの飛距離を得られるかの2つが確認項目になりそうだ。


「例の大砲か? それなら石火矢で十分に思えるが」

「石火矢でも良いんですが、あれは2つほど欠点があるんです。1つは風に弱いということで、遠くに飛ばすほど散布界が広がります。もう1つは、石火矢の炸裂によって倒せる被害半径が案外小さいということです。カタパルトで投射する爆弾よりも威力が無いんですよ。そのために1度にたくさんの石火矢を放つことになるんです」


「1度にたくさんは良いこともあるにゃ。広い範囲に爆弾を落とすのと同じことになるにゃ」


 ヴァイスさんの言葉は経験則でもあるんだろうな。確かに魔族の群れには効果的ではある。


「それを理解できているから、ヴァイスさんに石火矢を任せてるんです。今回ガラハウさんに作って貰った大砲は、飛距離はあまりないんですが次の石火矢を放つまでに数発の砲弾を放つことが出来るんです。それに狙いはかなり正確になるでしょうから、魔族の濃い部分を集中的に叩くことが出来ます」


「理想的に思えるのだが、そんな大砲を形に出来たのか?」


 やはりティーナさんが食いついてきた。


「原理は大砲と同じです。エクドラル王国に教えた大砲の延長上に今回の大砲がありますから、改めて教えるということはしませんよ。とはいえ、見学は自由です」

「それだけでもありがたい」


 大砲の方針を短くすれば同じような弾道を描く大砲が作れるからね。

 問題は砲弾を炸裂させる仕組みをどのように作るかになるけど、着発信管がエクドラル王国で作られるまでにはかなり時間が必要だろう。

               ・

               ・

               ・

 4月中旬になるとマーベルから雪が消える。さすがに日陰にはまだ残っているけど、それも直ぐに溶けてしまうだろう。

 それを見計らったかのように、エディンさんが商隊を率いてやって来た。

 今では護衛のレンジャーも1パーティだけになったようだ。ブリガンディが歴史から消えたとはいえ、盗賊となった者もいるということだろう。


「これが金の売値の残金でございます。だいぶ砂金が減りましたな。やはり鉱脈は小さかったようですね」


 金貨数枚と銀貨と銅貨の入った皮袋が2つずつ。手渡した砂金の袋は2つだったし、エクドラさんが色々と注文を出しているからね。残金があっただけでもありがたいと思わなければなるまい。


「陶器を増産しましたので、全て引き取って頂けるとありがたいです。ステンドグラス工房とガラス工房の規模を大きくしましたが、さすがにエディンさんの依頼を全てこなすことは出来ませんでした」

「早く作って貰えとうるさいんですが、こればっかりは仕方がありません。それより増産体制を作って頂けたことに感謝いたします。これは……」


 いつものようにワインとタバコを頂いた。

 なんと無くわいろにも思えてしまうけど、パイプ用のタバコが3包とワイン数本だからねぇ、このワインも今夜には皆が飲んでしまうんだろうなぁ。


「ところで陶器の売れ行きはどんな具合ですか? さすがに値が下がっていると思うんですが」

「とんでもない。まだまだ需要に応じきれませんよ。さらに交易にも使われておりますから、店の棚に並んだことが無いんです。それでも廉価版ということで私共の仲間も少しずつではありますが手に入れておりますな。さすがに客の前に出すことはないようです」


 茶器を本来の目的に使わないんだからなぁ。

 廉価版を更に増産させるしかなさそうだな。


「あの人形が海の向こうで大人気ですぞ。出来ればあれも増やして頂けるとありがたいです」

「元の造形を作るのが面倒のようですが、伝えておきましょう。ところで、マーベルに似た砦がエクドラルの北西に作られるという話はご存じでしょうか?」


 俺の問いに、エディンさんが大きく目を見開いた。まだ知らないようだな。

 俺の顔を見ているのは、次の言葉を待っているということなんだろう。


「去年マーベルを襲った魔族は、今までの2倍ほどの規模でした。何とか撃退はしたんですが、同じような規模の魔族がエクドラル本国領を襲わないとも限りません去年の冬の初めにエクドラル王都に行ってきたんです。そこでの話からエクドラル王国の西の大河付近に辺境伯の領地を作ると聞きました。

 規模はさすがにマーベルほどにはならないでしょうが、同じような産業が育つ可能性がありますよ」


 俺の話を聞いてうんうんと頷いている。

 エディンさんの商会が入れるとは思えないが、どんなものを作ってどのように王国内に販売するかについては相談に乗ることが出来るだろう。

 紹介ギルドの中の地位も少しは上がるんじゃないかな。

 小さな商会を大きくした手腕は確かなものだが、エディンさんも子供達にそろそろ引継ぎを考える歳だとおもう。

 引退するにはまだ早いけど、マーベルまで出向いてくるのはそろそろ体力的に限界なんじゃないかな。


「本国領内で新たな動きがあることは分っていましたが、そのような話でしたか。場合によっては産業がマーベルと競合しかねませんね」

「製本業と陶器が被りそうだから事前調整をしてきました。製本については売値が150ドラムを越えないこと。陶器については陶器の一歩手前の製品の作り方を教えるつもりだ。陶器のように華美なものではなく、普段使いが可能なものになるだろうね。ここで教えるつもりだから、出来た品はエディンさんに鑑定捨て貰えると助かるんですが」


「是非とも見せてもらいますぞ。それで何時頃なら? 」

「たぶん秋頃になるでしょう。だけど秋分には間に合わないかもしれません。その時にはレンジャーに依頼して荷を届けて貰います」

 

 先ほどと違って、笑みを浮かべて頷いている。

 エディンさんにはいろいろと助けて貰ったからなぁ。これぐらいのリークはその恩返しにならないだろう。

 最後に、次の魔族との戦に備えてたっぷりと火薬を注文しておく。肥料の硝石も同じように注文したけど、いまだに俺達が火薬を自分達で作っているとは考えていないようだ。

 既存の火薬に、何かを混ぜて作っているのだろうとティーナさんが言ってたぐらいだからなぁ。

 エクドラルの工房がそんなことをして、火薬の威力を上げようとしていたに違いない。

 できれば無煙火薬という品を作りたいところだが、俺のもう1つの知識はその作り方を知らないようだ。

 試行錯誤で作ることも出来そうだけど、そんなことをしたら工房が吹き飛びそうだからなぁ。

 他の王国よりも進んだ兵器を持っていることで我慢するしかなさそうだ。


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