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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-365 辺境伯領の防衛方法


 エクドラル国王は現在の領土の安寧を望んでいるようだ。

 覇道に走るなら今後の付き合いを考えてしまうけど、持ちつ持たれつの関係であるなら俺達に異存はない。その関係に貴族達がこれ以上はいるのを危惧してくれたんだろう。簡単な摘まみを食べながらの会談に臨んだ貴族はグラムさんとワインズさん、それにエイドマンさんの3家だけだ。

 いずれも国王の信認の厚い貴族だろうし、本来の貴族の重責をこなしている人物ばかりのようだ。

 会談が終わり迎賓館に戻ると、メイドさんがリビングに案内してくれた。

 昼食を勧められたんだけど、すでにお腹に入れてあるからなぁ。

 夕食に期待しますと断ることにした。

 

 さて、明日はのんびりできそうだぞ。

 ナナちゃんに顔を向けると、笑みを返してくれた。ナナちゃんもかたぐるしい場は終わったと本能で知ったのかな。


「明日は王都を見て回ろうか? 旧サドリナスの王都よりも大きいからね。色々ありそうに思えるんだ」

「お土産も買わないといけないにゃ。ガラハウお爺さんにはお酒で十分だけど、他の皆は珍しい物を欲しがりそうにゃ」


 魔法の袋を1つ余分に持って来たからなぁ。ナナちゃんの選んだ品なら皆も喜ぶに違いない。


 お茶を飲みながら、どんな品を誰に贈るか話し合っていると扉を叩く音が聞こえた。

 メイドさんがグラムさんとワインズさんが訪れたと教えてくれたのは、俺の承諾を得たいということなんだろう。

 そんな礼儀はいらないんだけどなぁ。

「ここで待つことにします」と答えると、しばらくして夫人同伴のお二方がリビングに入ってきた。


「先ほどの会談で俺の用事は済んだと思っているんですが?」

「表向きはそれで十分だ。弱小国と思われているなら都合が良いことも確か。貴族共の横槍を気にすることも無いからな。

 辺境伯領に付いて少し話し合いたいと思いやって来たのだ。妻達は……、ナナ殿に会い手をして貰えば十分だろう」


 グラムさんの言葉にデオーラさんがナナちゃんを手招きしている。

 ワインズさんの奥さんと共にリビングを出て行ったから、迎賓館の庭を散歩するのかな? 

 辺境伯領については、マーベルに似た物を作れば良いということは理解できても、それをどのような形に作るのかということになるのかな?


「場所は隣国との領土を隔てる西の大河の東岸から10ミラル隔て、街道から北に5日の土地で北東を睨むことになる。エクドラル王国の北の砦は全て街道から3日の距離、長城の守りを考えれば、魔族の進軍を早期に捉え背後を付くことも可能だろう……」


 話を聞いている内に、どうやらグラムさん達の危惧が理解できて来た。

 通常なら貴族の領地は、大きく広がった農地の中に領主館が城壁に囲まれて建つらしい。

 オリガン家も小さいけれどそんな感じだったな。

 だが、これでは戦になれば住民が蹂躙されかねない。農地は荒れ放題、再び生産が軌道に乗るには長い時間が掛かるだろう。

 かといって、城壁で広大な領地を囲うとなれば、それこそ多大な資材を必要とするだろうし、現在進行している魔族の脅威に間に合うとも思えないという事のようだ。


「マーベル国のように尾根を利用するなら、更に北へ向かわねばならん。さすがに街道から7日ほどの場所を選ぶのは無理があろう」

「兵站が課題になりますね。とはいえ5日の距離であるなら、位置的な問題はそれほど生じないと思います。次は魔族の辺境伯領への侵入を防ぐ手立てになりますが……」


 テーブルにメモ帖を取り出して簡単な絵を描く。

 初めは怪訝な顔をしていた2人だが、溝を西の大河に繋いだのを見て、大きく目を見開いた。


「堀で領地を囲むのか! 掘りを作る過程で生じた土砂を積み上げれば土塁も作れる。石壁を作る必要は無いということだな?」

「さすがに見張り台や門の周囲は石壁で作りたいところです。敵が攻めやすい場所をあえて作り、その部分は強化する。その考えが必要かと」


「マーベルの3つの門は正しくそれだったな。だが西の尾根は少し違っていたぞ」

「どうも、魔族の攻撃目標になっている感じですね。おかげで他方向の攻め手が少ないですから、指揮所をだいぶ強化することになってしまいました」


 小さな丘でもあれば都合が良いんだけどなぁ。

 たとえ周囲から10ユーデ程の高さでも、その上に見張り台を設ければ、より遠方まで監視できるだろう。


「工兵部隊に魔導士部隊、彼らの護衛に1個大隊を付けてやれば、案外短期間で出来上がりそうだ」

「さすがに石造りの部分は残るだろうな。それでも1年は掛からんだろう。王子殿下がこの話を聞いたら、目を丸くしそうだな。国庫からかなりの額を出して貰うことを考えていたぞ。その上で石材加工の工房の手配をどのようにするか悩んでいたからな」

「当座は、堀を作ることが主体になるだろう。石材加工の工房は2つもあれば十分に思える。それで東西南北2ミラルほどの農地を内在した領地を作れそうだ」


 グラムさんの言葉にワインズさんが頷いている。

 そう簡単でも無いんだけどなぁ。


「このような造りで、現在の魔族の襲撃なら耐えられると思うんですが、将来的にはいくつか危惧すべきことがあるんです。1つは、隣国との戦。もう1つは新たな魔族の種族が戦に投入された場合です」


「隣国の戦力はかつてのエクドラル軍と変わりがない。爆弾は作られているだろうがフイフイ砲の製作は全く聞かぬ。カタパルトを現地で組み立て爆弾を投射するのが精一杯というところだろう」


「戦術ではそうなるでしょうが、敵の先戦能力を侮ると危険ですよ。俺なら旧来の兵器だけでこの防壁を突破して見せます。油断こそ最大の敵だと自覚すべきかと……。

 新たな魔族の種族とは、伝説に出てくる大型の怪物です。数は少なくともドラゴンをけしかけられたら簡単に破綻しそうです」


 俺の言葉に2人が大きく目を見開いて互いに顔を見合わせる。

 そこまで考えるのか! と言う感じだが、可能性があるならとことん対策を考えるべきだと思うな。それは想定外だ! と騒ぎ立てるような醜態をさらしたくは無いからね。


「ドラゴンは伝説でしかないのでは?」

「何かの事態を目撃した人物がそれを後世に伝えた。と俺は考えています。さすがに口から火を噴くとは思えませんが、大型の魔獣が町の城壁を破壊した後に魔族が火を放ったなら、遠くから見た生き残りの住民が『ドラゴンの火で焼かれた』と言い出しても不思議ではありません」


「なるほど……。伝説は、それに似た状況がかつてあったことを我等に警告していると見るのか。その対抗策となれば、バリスタと言うことになりそうだな」

「バリスタは強力ですが、命中させるには数が必要ですよ」


 バリスタは大型クロスボウそのものだ。

 至近距離でなら厚さ数イルムの杉板を3枚ほど貫通すると聞いたことがある。

 だが、至近距離で大型魔獣を相手に冷静に攻撃することができるだろうか?

 100ユーデ程まで接近したら逃げるんじゃないかな?

 それを加味すると、バリスタが放つ太い槍の貫通力は杉板1枚がやっとのように思える。


「当座はそれで充分に思えます。でも余裕があるなら、こんな物を作っておくと将来役立ちますよ」


 長さ1ユーデ直径1.5イルムの鉄の棒だ。先端を尖らせ、前後に4枚の薄くて短い鉄の羽根を付けてある。羽根を含めて高さは2イルムにしてある。


「バリスタ用ですか……。この丸くて短い木の棒も役立つということなんでしょうか?」


 木の棒の長さは2イルム。直径も2イルムだが、これが無いと役立たない。


 ワインズさんに笑みを返して、「役立ちます」と答える。

 最初から教えると攻城兵器に発展しかねない。今はどのように使うかは教えないでおこう。


「ドラゴンのような全くこれまでとは異なる脅威が生じた時に、使い方を教えます。そうでもないと、これが一人歩きしかねません」

「強力な兵器になるということだな? だが、その準備を我等がして、かつそれを使った戦が行われた時には……、マーベル国の脅威になりかねないということになるということか?」

「さすがに、これだけでマーベル国を落とすことは出来ないでしょうし、使う前に破壊することができるでしょう。ですが他の王国との戦に使ったなら、容易に王都を落とすことが可能になります」


 現国王が覇王を目指さなくとも、将来がどうなるか分からない。それに、暗愚な王を抱くようであれば貴族が王国の統治に口を出すだろうからなぁ。

 責任を取ることなく利権だけに着目する貴族が統治に加わることが一番恐ろしくもある。

 大砲で鉄の棒を打ち出すならドラゴンにも通用するに違いない。とはいえ、かなり接近しないといけないだろうが、バリスタと異ってそれほど大きなものにはならないだろう。

 土塁や城壁の隙間から狙うなら、バリスタの操作よりも恐怖感は少ないと思うんだが……。


「作っておくか……。だがどのように使うかは、その時になってからと言うことだな」

「エクドラル王国にも賢人は多いと思います。でもそれを理解できるとは思えません。ですが、原理はそれほど難しい物ではありませんよ」


「エクドラルの賢人がそれを理解した時には?」

「量産するでしょうね。でも、防御兵器として使うには物足りない代物です。それこそ家ぐらいの大きさの獣相手に使う武器ですから」


 俺達も用意しておいた方が良いのだろうか? 

 首を傾げている2人を見ながら考えてみたんだが、新型大砲があるなら十分にそれを越える力があるに違いない。

 炸薬を砲弾に込めずに、単なる鉄で同じ大きさの物を作れば良いことだ。

 10ミラル近くまで砲弾を飛ばせる大砲で、至近距離を狙ったならその効果は追って知るべしということになるだろう。


「用途不明の武器を用意するというのも考えてしまうな」

「全くです。本当に、このような代物で伝説に伝わる魔獣を相手に出来るのですか?」


「ええ、使えると思っています。ですが、あくまでそのような事態が起きた場合にしか役立ちません。それ以外であるなら、他国と戦をした時だけでしょう。防戦では役立ちません。相手の王国を攻める時だけです。それでも使い方を知りたいですか?」


 城門の破壊には最適だろうが、1つだけでは無理だろうな。

 だが、フイフイ砲と連動して使うなら、案外容易に城門を破れそうに思える。


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