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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-364 もう1つのマーベル国


エクドラル王国とマーベル共和国との友好を今後とも深めることを互いが了承したところで昼食ということになった。


「済まぬな。本来なら歓待すべきところであるのだが、グラムがそれは無用と告げてきた。さすがにワシの矜持もあるから、それなりの形を整えたかったのだが……」

「ご心配無用です。元々が田舎暮らしの貴族であったことから1日3食頂けるだけでも十分です。エクドラル王国の御厚意で何度か宴席にも招かれたのですが、どうのように食べて良いのかわからず、ご婦人方から目を伏せられる始末でした」


 俺の言葉に王妃様と第1王子の姫様が口元を抑えて顔を伏せている。

 やはりある程度の作法は必要になるんだろうなぁ。

 でも、覚えなくとも命にかかわるようなことにはならないだろから、その暇を武術の訓練にあてたほうが良さそうだ。


「軽く摘まむ程度にしておるぞ。迎賓館に戻ったなら存分に食事を取れるよう準備をさせておる。

 さて、もう少し魔族の迎撃に付いて教えて欲しい。摘まみながらで構わん。ここにいるのはワシたちだけだ」


 薄く切ったパンに、果物のスライスやハム、ジャムなどが挟んである。

 透き通ったスープは、お茶のように飲める。これなら手掴みで食べても問題ないだろうけど……。ふと隣のナナちゃんを見ると、ティーナさんがしっかりと膝の上にハンカチを広げてくれていた。

 良いお姉さんだな。改めてティーナさんに頭を下げる。


「それでは、ということでもう少し詳しい話をいたします。先に魔族の侵出方向を調査して頂きました。旧サドリナス領に1か所、エクドラル本国領に2か所あるようです。旧サドリナス領の侵出点についての正確な位置は不明ですが、俺達の国を守る西の防壁である尾根より2つほど先に存在していると推しております。これは過去の魔族との戦に置いて魔族の集結場所から推定した次第です。

 となれば、旧サドリナス領に魔族が侵攻する際には、かなり前に俺達の監視網で知ることが出来ます……」


 エクドラル王国が建設中の長城に押し寄せる数日前に、知ることが出来るんだからその効果は絶大だろう。

 さらには、魔族が長城に全軍をぶつけることも想定しにくい。マーベルが後方に控えているからだ。5個大隊を撥ね退ける軍勢の総数が1個大隊にも満たないとは魔族側にとって考えも付かないことだろう。大部隊を要していると考えるのが常識とも言える。


「なるほど、マーベル国が背後を突く可能性を無視できないということになるのか。となると、進路は政庁市より西になりそうだな。東西に長い防衛線を築かずとも防衛の厚みを調整することが出来よう。なるほど大規模な増兵をせずとも済むわけだ。だが、本国領にはマーベル国が無いぞ。西の王国は北に遊牧民の王国があることで魔族の脅威をあまり感じることは無さそうだが、ここはそうでもない。ワインズ、どのような手を打つつもりだ?」


 国王から顔を向けられたワインズさんが、手に持っていたワイングラスをテーブルに戻して姿勢を正した。


「それについては、かつてグラム殿を交えてレオン殿と話し合ったことがあります。基本は長城だと教授されたこともあり、国王陛下の裁可のもと、北の砦間を結ぶ長城を築いているところです。現状で3割程の進捗ですが、その場でもう1つレオン殿より提案を受けました。さすがに私の権限を越えた話でもあり、そのような状況でもないと考え、いまだ私の胸の中に抑えてあるのですが……」


「長城という考えは、今まで誰も持たなかった。ワシの功績ともなるだろう。資材の不足は宰相達に申し出よ。見た目で作るのではないぞ。城は堅固であることが一番だからな。

 だが、もう1つの案と言うのも気になるところだ。ワインズを持って、それをワシに話すのを躊躇うというのが面白くもある。この場で披露するが良い。雑談の1つとして聞き流すことも出来よう」


 使えそうなら採用するし、それは出来ないと国王が思うならこの場限りの話にするということかな?

 それなら、話してみるべきだろう。


「エクドラル王国の北西部に新たなマーベル国を作るという提案でした」


 ワインズさんの言葉に、誰もが俺に鋭い視線を向けてくるんだよなぁ。ワインズさんも端的過ぎる気がする。もう少し穏やかに説明して欲しいところだ。


「……と言っても、マーベル国の飛び地を要求したわけではありません。マーベル国のような独立出来る領地を作り辺境伯にその運営を委ねるということです。

 さすがに直ぐに経営を安定させることなどできませんし、その任に堪える人物の後継ぎが必ずしもその度量を持つとも思えません。

 永続的に辺境伯としてエクドラル王国の北を任せられる貴族が思い浮かばなかったことも、陛下に耳打ち出来ぬ1つでした」


「あまり驚かせてくれるな……。だが、考え方は理解したつもりだ。貴族に任せるとなればその家が永代で任を行うことになる。だが、長くその任に着くともなれば、当主の技量が変化しないとも限らないということか……。

 マーベル国を作るとワインズが行った時には驚いたが、マーベル国は王侯貴族による永代統治ではないと聞いた。要するに常に能力のある人物が統治できるということになる。さすがにエクドラル王国で取り入れるのは無理だが、辺境伯は1代限りとして対応すればいいのではないか?」


 できれば定年制を導入したいところだな。

 だけどドワーフ族やエルフ族の血を引いていたなら長く統治することが出来るだろうからなぁ。

 統治期間と種族を加味した年齢制限辺りが落としどころになるだろう。


「とは言え財源が問題でもある。何もない土地で1個大隊を越える軍を養うことになるだろう。住民規模は数千人を超えるに違いない。確かに産業の育成も必要だろうな。それもあっての新たなマーベル国ということになるのか……」


「任せられる人物が王宮内に何人いるのでしょう? 私には絵物語のようにしか思われませんが?」


「それを現実化するのが王家の務めでもあるのだ。大貴族でももてあますとなれば王族以外の誰が行うのだ。新たなマーベル国はかなり有効に使うことが出来る。東と西の北方の備えということになるのだからな。両者間を長城で結び、中央に機動運用が可能な戦力を置けば、魔族への対処はかなり容易になる。宰相達で辺境伯の詳細を詰めて欲しい。とはいえ、考えるべきはその地での産業になるな」

「御意……。出来ればマーベル国と重複しない産業を今後調整したいと考えております」


「調整ではなく提案して貰うのだな。その提案を元に商会ギルドで調整すればよかろう。かなり大きな借りが出来てしまうが、その対価はグラムより事前に聞いたあれで良いのか?」


「十分です。何といっても民衆を食べさせねばなりません。開墾して直ぐにライ麦を作ることなどできません。それには大量の肥料が必要ですし、魔族相手の戦では火薬を多用することになります」


「シャンデリアの対価が肥料だと歴史書には記載したくないな。別途王子達と相談して追加したいところだ」


 俺としてはそれでも良いと思うんだけどなぁ。相手国の農業事情を考慮して肥料を贈ったというのであれば美談として残りそうにも思えるんだけどね。


「オルデウスよ。ワインズと図り、しっかりと北を固めるが良い。国庫は潤っておる。貯めるばかりでは、愚王を世に知らしめるだけになるぞ」

「了解しました。私案をまとめて、ワインズ殿と協議いたします。エイドマン殿、早急に隣国の大使と話し合ってくれぬか。基本は1個大隊としたいが増える分には全く問題は無い」

「承りました。明日にでも使者を使わせるつもりです」


 うんうんと国王が頷いているところを見ると、これで一段落という事かな。

 これでエクドラル王国から貴族連合まで長城が繋がることになる。

 倍の魔族が襲ってきたとしても十分に迎撃は出来そうだな。


「それにしてもワシの代では無理だろうが、オルデウスの子供の代にはステンドグラスを作る事ができるだろう。陶器は無理だろうな……、シャンデリアともなると想像もつかん。まるで水晶を加工したような品に見えたが、マーベル国ではその技術を持っているということになるのだろう。我が王国の工房も勢いを増すであろうな」


「陛下。確かに勢いは増すでしょうが、直ぐに諦めるのではないかと……。工房では売れるものを作ります。たまに試作は行うでしょうが、大きく現状を変えるようにはならんでしょうな」

「それは理解しておる。彼らも家族を養っているのだ。試作ばかり行っていては、路頭に迷いかねん。頃合いをどのように保つのか、これは考えるところではあるな。

 とはいえマーベル国にしても、それは同じはず。どのように新たな技術を探っているのか教えてはくれぬか」


 簡単な話なんだけど、さてどうしたものか……。

 ある意味試行錯誤の世界だからなぁ。たまたま集まった連中が研究熱心だったせいもあるんだろうけどね。


「色々と試行錯誤を繰り替えしております。先程の国王陛下の言葉通りで、試行錯誤を繰り返すだけでは利益を得ることができません。ですが新たな製品を作る上では必要な事ではあります。

 そのような工房で作られた製品は確かに貴重ではありますが、売るための品では無いからです。マーベルでは彼らの生活に必要な金額を毎月渡すことで彼らの生活が成り立つようにしております」


「なるほど……。だがそれでは、職人達を飼殺すようにも思えるのだが?」

「競わせるのも手かと考えております。成功の暁には別途褒美を与えることもありますよ」


 褒美と言っても、酒を2杯ぐらいだけどね。

 それでも、自分達の成功を他者に認められるのは嬉しんんだろうな。


「それに命題を与えることも必要でしょう。例えばこの皿ですが、まだまだ俺の望んだ姿ではありません。『雪のような白さ』それを作ろうと今でも努力し続けていますし、『血のような赤さ』については更に遠くにあるように思っています」


 その色を追求する過程で、いろんな色が作られている。

 おかげで陶器の表面に、絵を描くこともできるようになってきたからね。

 もっとも、その原画はナナちゃんが描いているんだよなぁ。

 絵心は中々育たないみたいだ。でも、ナナちゃんの描く絵のような、人の心に訴えられるように女性達が頑張っているんだよねぇ……。


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