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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-293 炸裂音と銃声だけが聞こえてくる


 火事が発生したとの連絡が、攻城櫓の観測班から入ってきた。

 一か所ではなく複数同時に発生したようだ。

 位置的には西側と東側ということだから、フイフイ砲で撃ち込んだ大型の爆弾が原因なんだろう。

 石火矢は既に30発近く撃ち込んでいるんだが、煙は出ているけどまだ火災には至っていないらしい。

 一度に放つ石火矢の数は2発になっているし、次の発射を砂時計で計りながら放っている。それでも1時間に10発以上は放っている勘定だ。

 だいぶ撃ち込んではいるんだけどなぁ……。


「直ぐに魔族が門を開くと思っていたのだが……」

「飛距離が短い旧型ですから、門の向こう側の広場にも落ちているようです。たぶんそれが原因で集結出来ないのではと考えているんですが」


 城壁には続々と魔族の兵士が集まっている。ライフルの発砲音が聞こえるのは、魔族の弓兵や指揮官を狙撃しているのだろう。外れても鈴なり状態だから、誰かには当たるんじゃないかな。

 たまに弓兵が残念そうな表情で俺に顔を向けるんだけど、この距離では矢が届かないからなぁ。


「櫓から連絡にゃ。火災が起きたにゃ。場所は……、この辺りにゃ」


 ナナちゃんがテーブルに広げた地図に指を差してくれた。位置的には広場の直ぐ北側だな。風は強くないが南南東の風だ。北に向かって延焼してくれるとありがたい。


「エニルに連絡だ。『昼過ぎに遠距離攻撃を開始する。有翼石火矢を準備せよ』以上だ」

「了解です。直ぐに伝えます!」


 伝令の少年が見張り台から飛び降りている。ネコ族だから身軽なものだ。俺だったら足を挫いてしまうんじゃないかな。


「いよいよ始めるのか?」

「俺達だけが実行できますからね。エクドラル王国と東の王国が魔族を中央区画に追いやってくれてます。火事も発生しているようですから、予想以上に有利に展開していると思いますよ」


 昼近くになってくると、さすがに爆弾の投射間隔が長くなり始めた。フイフイ砲の移動を始めたに違いない。現在聞こえてくる爆弾の炸裂音は少し小さくなったからカタパルトを使っているのだろう。


「戦をしている実感が無いな。今後はこのような戦に推移していくのであろうか?」


 見張り台の下にあるテーブルで昼食を取っていると、ティーナさんがそんな呟きを漏らしながらため息を吐く。

 分からなくもない。武門貴族の誉れを知らしめるような白兵戦が無いんだからね。

 聞こえてくるのは爆弾の炸裂音であり、王都を見れば城壁内が煙で満たされているような状態に火事が広がっているとのことだ。


 だがここは我慢すべきだろう。

 少なくとも1両日はこの状態を継続しないと、城壁を乗り越えた連合軍が圧倒的な魔族の数の前に屈しないとも限らない。


「ティーナさんの出番は必ずやってくると思いますよ。先ずは魔族の数を削ぐことを考えましょう。何といっても十数倍の差があるんですからね」

「そうか! それなら待っていれば良いな」


 ティーナさんが急に顔を輝かせると、ユリアンさんに向かって頷いている。

 ユリアンさんは苦笑いを浮かべて頷いているけど、そんな事態が生じないように祈っていたのだろうか。


「最初の火事の発生場所はこの辺りです。南南東の風はそれほどではありませんが、魔族に消火活動が出来るとも思えません。北に向かって広がっているなら俺達には好都合です」

「あの煙だからなぁ。攻城櫓の上からの監視にも支障があると聞いたぞ」

「仕方ありませんから、食事がすんだところで長距離攻撃を始めます。宮殿の位置は分かっていますから、撃ち続けて行けばその内当たると思っています。それに少し風も出てきました」


 観測射撃がどこまで出来るかで効果の程が決まりそうだ。

 新型石火矢や大砲と違って2番目に作った石火矢に羽を付けた代物だからね。最大飛距離は2コルム程飛ぶんだが、今日の風を考えるとかなり反れてしまいそうだ。


 相変わらず、旧型石火矢が思い出したように飛んでいく。

 既に50発は超えているから、南門近くの建物は破壊されているんじゃないかな。

 攻城櫓の観測班からの状況報告では、南門広場に集結しようとした魔族が石火矢でかなりの被害を出しているようだ。

 

「ナナちゃん。有翼石火矢を放つから、着弾点の確認を指示してくれないかな」

「分かったにゃ! 直ぐに連絡するにゃ」


 発射準備を終えたらしく、砲兵の1人が見張り台に向かって赤い旗を振っている。白い旗を振って了解を知らせると、腕を上にあげて観測班が準備中であることを知らせる。

 

「終わったみたいにゃ。『準備完了』を告げているにゃ!」

「なら始めるか!」


 赤い旗を手に取り高く掲げると、直ぐに炎と白い煙を残して有翼石火矢が飛び立っていった。

 さて、着弾はどの辺りになるんだろう。

 攻城櫓を見上げていると、長点3つの信号が送られてきた。着弾したということだな。続けての信号が無いから、とんでも無い方向に着弾したわけでもなさそうだ。


 ナナちゃんに着弾点の連絡が届いたら教えて欲しいと頼んだところで、見張り台を下りる。

 テーブルの地図を広げて待っていると、エニルが走ってきた。やはり着弾点が気になるんだろうな。

 パイプを咥えようとしたら、入り口の上からナナちゃんの顔が見えた。


「連絡が来たにゃ。『E-06』にゃ! 1つは大きな建物に当たったみたいにゃ」

「ありがとう。連絡が来たらまた教えてくれよ」


 笑みを浮かべて頷いているけど、頭が反対だからなぁ。ナナちゃんの頭が消えたところでテーブルの地図に視線を移す。


「丁度この辺りですね。宮殿には届かなかったようですが、貴族街ということでしょうか」

「飛距離は1トレムとちょっとだな。もう少し伸ばせるか?」

「300ユーデは可能かと。次も有翼石火矢を使いますか?」


「新型は夜間で良いだろう。とはいえ夕暮れ前に1発は放っておきたい。位置が少し西に流れているようだから、1度程東に修正してくれないか」

「了解です。旧型の発射の合間に3発ずつ放っていきます」


 やはり風の影響は大きいな。飛距離が1トレムだからそれほどの誤差になっていないけど、最大飛距離で使う時に東や西の風だと見方を誤射してしまいそうだ。

 パイプに火を点けて外に出る。

 見張り台の上のナナちゃんを呼んで、次も教えてくれるように声を掛けておいた。

 

 西と東の方はどうなってるんだろうな。

 門に向かって布陣する兵士を見ながら考えていると、ユリアンさんが西から馬を駆ってきた。

 ティーナさんは一緒じゃ無いみたいだな。

 首を傾げていると、前線から歩いて来るティーナさんを見付けた。

 門が開くのをジッと待っていたのかな?

 今まで開けられなかったから、今後も開けられることはないと思っているんだけどねぇ……。


 どうやらユリアンさんは西の状況を確認しに向かったらしい。

 何かあれば光通信機で連絡が入るだろうが、あまり変化が無いなら連絡をすることも無いだろうからなぁ。


 テーブルに乗せた地図を使ってユリアンさんが説明してくれたことによると、6台のフイフイ砲を2台ずつ北に移動しながら爆弾を放っているらしい。


「南門付近にはカタパルトを使った攻撃を継続してますが、夕暮れ前には北に移動すると教えてくれました。攻城櫓から見る限り、南門に何度か魔族が集結しようとして失敗しているそうです」

「開くことが無い! ということか?」


「それもグラムさんの作戦です。魔族が開けないなら俺達で開けることになりますよ。西と東は攻城櫓が2台ありますけど、俺達は1つだけですからね。明日には攻城櫓を城壁に付けて、部隊を突入させることになると思っています」

「総指揮官殿もレオン殿と同じ考えでした。カタパルトで小型の爆弾を投射しながら攻城櫓を城壁に付けて、一気に城壁内に突入する考えです」

「そうなると突入位置が問題だな。東もタイミングを合わせるだろうし、俺達が遅れると問題も出てくるだろう」


 突入は東西の南端近くに違いない。

 出来ればその前に南門付近を制圧したいところだ。


 少しずつ有翼石火矢の着弾点を伸ばしていく。

 10回目を越えた頃、宮殿に石火矢が着弾したことを観測班が知らせてくれた。

 残った有翼石火矢の数は30本にも満たない。夕暮れまでに使い切ってしまうだろう。

 夕焼けが空を染め始めたところで、新型石火矢を放ってみた。

 さすがに有翼石火矢と違って、風の影響が少ないようだ。宮殿を飛び越えて着弾したらしいが、火事が発生したところを見ると宮殿の北側にも建物があったようだ。


「夜は新型を使います。K通りから南は今朝方からの石火矢攻撃で建物がかなり破壊されていますし、火災が北に向かって伸びています。城壁内の突入開始前に、数十発の石火矢を再度K通りから南に撃ち込めば魔族の迎撃を少なくすることが可能に思えます」

「昼過ぎに攻城櫓に上ってみたが、この辺りはかなり酷い状況だった。闇に紛れて南の門に集結することも予想されるが、大多数は北に逃げたかもしれんな」


 攻城櫓に上がってきたとはなぁ……。

 だが報告を聞くよりは実際に見た方が確実だ。

 ティーナさんがその目で確認した結果であるなら、やはり明日の城壁内への突入は確実だろう。


 夕食が荷車で運ばれてくる。後方300ユーデほどの場所で作っているから、さすがに手で運ぶというわけにもいかないらしい。

 少年達が荷車で小隊毎に運んでくれる。

 俺達は攻城櫓にいる連中と一緒になると、ナナちゃんが情報を仕入れて来てくれた。


日が傾き始めた頃になって、ヴァイスさんが見張り台にやってきた。状況報告をしてくれるのかな?

 

「10体以上倒したにゃ。昼食後はあまり出てこないにゃ。たまに擁壁に隠れて顔を出すにゃ」

「銃兵達の獣性も午後はまばらになってたからなぁ。やはり北に移動したとみるべきだろうが、夜の監視もよろしくお願いします」

「任せるにゃ!」


 ヴァイスさんが大きな声で請け負ってくれたけど、さて魔族は本当に北に向かったのだろうか?

 火事が発生して一時は城壁内の建物が見えなくなるほどだったらしい。

 北に向かって延焼が続いているようだが、煙は風が吹き去っているから、城壁内の様子を良く見ることが出来るらしい。

 有翼石火矢の観測射撃は今のところ順調だ。

 宮殿の3か所から煙が上がっていると知らせてくれたから、ぼやが発生したに違いない。このまま撃ち込めば火の手が上がるだろう。


「大砲は、まだ使わないのかにゃ?」

「宮殿の破壊が思うようにいかない時には使おうと持ってきたんですが、確かにもったいないですね。今夜で有翼石火矢が尽きますから、明日は大砲を使ってみます」


「あの大砲では宮殿には届かんだろうに?」

「新型ですよ。エクドラル王国の工房が作れなかった大砲です」


 威力を知ったら驚くに違いない。

 グラムさんも欲しがるに違いない。あの大砲なら模造できるだろうが、砲弾は無理だ。丸い砲弾を鋳造して使うなら、フイフイ砲の方が遥かに威力がある。

 とはいえ城壁や城門を破壊するなら破壊槌よりも遥かに容易で、兵士を失うことも無いだろう。

 どんな兵器であろうと、その性能と欠点を理解出来ていなければ無用の長物となりかねない。その辺りはグラムさんも理解しているんじゃないかな。


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