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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-289 攻めるにも準備がいる


 王都の南門前に陣を構えたとレイニーさんに伝えると、予定を少し遅れたからだろうだいぶ心配していたようだ。

 それでも、1番乗りをしていることを伝えると、エクドラル王国も貴族連合も既に出発しているとのことだ。

 人数が多いから、のんびり行軍してくるんじゃないかな。

 兄上が用意してくれると言ってくれた丸太が届かないと、柵も作れないんだよね。

 とりあえずは王都の南門に向かって、常に1個小隊が銃を構えるという時間が過ぎていく。


「報告します。南より軍勢がやってきました。エクドラル王国の軍旗ではありません。鳥の図案にも見えるんですが?」

「こんな図案かな?」


 メモにオリガン家の家紋を見せると、「そうです!」と少年が頷いてくれた。

 兄上が率いてきたに違いない。

 現場指揮所のテントを出て王都に続く道の真ん中に立って南を見据える。

確かにやって来るな……。望遠鏡を取り出して眺めると先頭の騎馬が持った旗に描かれているのは正しくオリガン家の家紋だった。

その隣の偉丈夫は兄上に違いない。チェーンメイル姿でヘルメットを被っている。

 武器は長剣だけだが、兄上は槍だって使えるんだよね。


 貴族連合の軍が近付いたところで、道から外れて立つ。

 暇な連中も俺の後ろに並んで、近付いてくる軍を眺めているようだ。


 俺に気が付いたんだろう。兄上がヘルメットを脱いで小脇に抱え、列を離れると俺の傍に馬を寄せてきた。


「だいぶ早かったな。ここで様子を見るということか。私は少し北で向きを変えよう。東門から1コルムに陣を構える。最後尾に丸太を積んだ荷車が20台程続いている。押してきた兵士共々、レオンに預けるぞ。獣人族の混成部隊だ。武器は槍と弓だから少しは役立つだろう」

「俺も昨日到着したところです。援軍を出して頂きありがたく思います」


 騎士の礼を取った俺の頭をぐりぐりと強く撫でつけ「頑張れよ!」と言ってくれた。

 場首を返して、兄上が北に向かって馬を走らせる。

 怪我等しないで欲しいな。もっとも、兄上の方が俺を心配してくれているはずだ。苦笑いを浮かべながら小さく頷くと、目の前を通り過ぎる兵士達を眺める。


兵士達の列が終わると、次は荷馬車の列が続く。

 フイフイ砲やカタパルトを分解して運んできたに違いない。長い柱が何本も荷馬車の荷台から突き出している。

 荷馬車の列が途切れると、少し間をおいて荷車を押してやって来る一団があった。

 あれが約束の丸太に違いない。

 明日から移動式の柵を作れそうだ。


 パイプを楽しみながら荷車を待っていると、伝令の少年が壮年のイヌ族の男性を俺のところに案内してくるのが見えた。

 彼が援軍の隊長ということなのかな?


「マーベル国の援軍として1個小隊を連れてまいりました。私が隊長のレクドルです」

「何分寡兵ですので、援軍はありがたいです。ところで、あの荷車が丸太ということでしょうか?」

「そうです。直径3イルム、長さ5ユーデの丸太が350本。持ってまいりました。食料も荷車1台分を持参しました。槍兵、弓兵共に2個分隊です。矢は3会戦分を持参しています」


 俺達とそれほど変わりはないな。

 ヴァイスさん達と合わせれば弓兵だけで6個小隊だ。200本を超える矢が一斉に放たれるなら、それなりの効果も期待できるだろう。


「夕食後に現場指揮所のテントに集まってください。食事は一緒に取れるよう手配します。鍋を叩く音がしたなら、食事が出来ますよ」

「助かります。それなら食材を早めに渡して置きます。現場指揮所は、あの旗が立ったテントですね?」


 レクドルさんに頷いたんだけど、何時の間に旗を付けたんだろう?

 よく見ると、旗ではなく赤いリボンのようだ。俺達が寝泊まりする小さなテントには白いリボンだからナナちゃんが気を利かせてくれたに違いない。


 昼食を終えると、後方からトントンという音が聞こえてきた。

 さっそく先を作り始めたみたいだな。

 数本の丸太を譲りうけて、現場指揮所近くに簡単な見張り台を作る。高さ3ユーデ程だからさすがに城壁内を見ることは出来ないが、門は良く見えるとのことだ。

 早めに攻城櫓を作る必要がありそうだが、俺達用の櫓はエクドラル王国軍が作ってくれるとのことだから、まだまだ戦には時間が掛かりそうだ。


 夕食を現場指揮所のテント内で食べていると、伝令役の少年が立派な鎧を付けた士官を案内して来た。

 食事を下げて貰い、指揮官をテーブルに付いて貰う。

 まだ半分しか食べていないけど、後でナナちゃんからお菓子を分けて貰えば良いだろう。

 ネコ族のお姉さんが俺達にワインのカップを配ってくれる。


「レオン殿と初めてお会いいたします。工兵を率いるワンデルというものです。エクドラル王国軍も、本日西門より西に1トレムに陣を作りました。明日から東西そして南に布陣する連合軍に攻城櫓を作ります。レオン殿のところには攻城櫓は1つで良いとのことでしたから3日で何とかなると思います」

「ご苦労様です。小さな見張り台を作ってみました。さすがに城壁の中は見通すことが出来ませんのでよろしくお願いします」


 ワインを飲んで足早に帰って行ったけど、俺達にきちんと騎士の礼を取っていたのはさすが王国軍の士官だけのことはある。

 俺達の軍はあまりそんな事をしないからなぁ。上官に向かって平気で文句を言うぐらいだ。だが士気が低いわけでは無い。獣人族の同族意識が形に現れているだけなんだろう。別に矯正しなくても良いだろう。皆仲間なんだからね。


「食事は中途半端になってしまったが、これで全軍が揃ったということになるのだろう。エクドラル王国軍が最後だとは……」

「それだけ大部隊だったのでしょう。規模が大きくなればなるほど苦労しますからね」


 それにしても攻城櫓を3日で作るのか……。

 城壁に取り付くための機能だけでなく、弾着観測のための櫓でもあるから王都を取り巻く城壁の高さより高い櫓になるはずだ。

 当然城壁に向かって動かせる櫓なんだから、かなり作るのが面倒だと思っていたんだが3日で作れるとはねぇ……。


 翌日。ワンデルさんが荷馬車を10台ほど従えて俺達の陣を訪れた。挨拶もそこそこに早速攻城櫓を組立始めたのだが、荷馬車の車体が攻城櫓の台車になるとは思わなかったな。

 道理で頑丈そうな荷台だったわけだ。

 荷台の車輪を取り外して、新たに小さな車輪を取り付ける。元々が1ユーデ半もありそうな大きな車輪だったのだが、新たに取り付ける車輪は三分の二ユーデほどの直径だ。スポークも無いから、丸太を輪切りにしたように見えてしまう。それが1台に4つも付けられるらしい。

 前後に2台ずつ荷台を並べて、太い梁で前後左右に固定する。その4隅に柱を立てて上に伸ばすとのことだが、途中に何か所か床を作るとのことだ。

 見ていて興味が尽きない構造なんだけど、ずっと見学しているわけにもいかないから現場指揮所に引き上げることにした。

 

 地図でも眺めようと、盾を2枚横に並べたテーブルに紙を広げているとナナちゃんが現場指揮所に戻ってきた。

 コンロに載せてあったポットでお茶を作ると、2つのカップを手に俺と隣に座ると1つを俺に渡してくれた。


「ありがとう。どこに行ってたんだい?」

「小母さんが井戸があれば良いと言ってたから、水脈を探してたにゃ。トラ族のオルガンさん達が頑張って掘っている最中にゃ」


 井戸か……。気が付かなかったな。

 ここに井戸があるなら確かに便利に使える。そうなると焚き木も心配になる。

 荷の梱包用の木箱をバラしても、それほどの焚き木を作ることは出来ないだろう。


「焚き木も集めないといけないね」

「少年達が出掛けたにゃ。荷馬車5台で出掛けたから昼過ぎにはたくさん集めて来るはずにゃ」


 あちこちの灌木を集めて来るのかな?

 夜間の見張り用にも必要だから常に5つ程焚火を作らないといけないだろう。荷馬車5台分ならしばらくは持ちそうだな。

 ナナちゃんとお茶を飲んでいると、ティーナさんとユリアンさんが入ってきた。ナナちゃんがお茶の用意をするのをティーナさんが笑みを浮かべて眺めている。

 俺に状況報告をしてくれたのはユリアンさんだった。


「移動柵は20個程出来上がっています。まだまだ丸太がありますから最終的には100個近い数になるでしょう。出来た柵を10個ほどヴァイスさん達が引き取って細かな調整をしているようですが……」

「たぶん石火矢の発射台にしようとしているんじゃないかと思います。たぶんもう10個程持っていくと思いますよ。石火矢の命中率は悪いですが、広範囲に着弾しますから城攻めを有利に行えるはずです。威力はフイフイ砲の放つ爆弾よりは劣りますけど、カタパルトで放つ爆弾よりは上ですからね」


「父上も期待しているとのことだった。やはり数十発を同時に放つのか?」

「東西からも爆弾を放つんですから、そこまでは必要ないでしょう。出来れば昼ではなく夜にしたいですね。それだけ相手に恐怖を与えることが出来ますし、夜間では魔族もネコ族ほどにものを見ることは出来ないでしょう」


 とは言っても、魔族の住処は地下だからなぁ。人間族よりは視力が優れている可能性もあるかもしれない。


「攻城櫓の方も見てきたのだが、あれなら十分に3日で仕上がるだろう。西門には3台、東門には2台と聞いているが東の国が何もせず見ているだけとは思えん。東の攻城櫓は数台になるだろうな」

「多い分には困らないでしょうが、この状況を長く続けるのも問題ですよ。少なくとも10日以内には攻略を開始したいですね」


「父上もその考えのようだ。今のところ伝令が馬を駆って状況を伝えているが、攻城櫓が出来たなら光通信機が使える。連携を密に行えるぞ」

「街道沿いに中継所を作ってくれましたから、この陣からでもマーベル国に状況を伝えられます。やはり通信網の整備は効果が大きいですね」


「作ったのは我等だが、それを考えたのはレオン殿だ。エクドラル王国では偉大な知恵者との評判だぞ」

「そこまで偉くはないですよ。それを作った王子殿下の功績として伝えられるに違いありません」


 俺の謙遜に、2人が笑みを浮かべている。

 王子殿下の功績は軽くは無いと王国内では考えられているのだろう。計画立案が第二王子でそれを指揮したのが第一王子であるなら宮殿内の問題も無いだろうし、第一王子の功績として国王就任もすんなりと運ぶに違いない。第二王子は辺境伯として貿易港を領地に持ちサドリナス領内に睨みを効かせる存在になるのだろう。


「戦前に、最後の協議が行われるはずだ。5日以降にはならんだろう」

「総攻撃の日時調整ですね。了解しました。ところで魔族が城壁の上に取り付いています。こちらを見ているだけですが、あまり時間を掛けるようでは魔族が打って出る可能性がありますよ」


 ティーナさんが苦笑いを浮かべて小さく頷いた。

 重々承知ということなんだろう。

 寡兵だからなぁ。荷馬車で急ごしらえの柵は作ったが、あんな柵なら直ぐに突破されてしまう。

 早く準備を調えて攻撃に移りたいところだ。


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