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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-282 敵の敵は敵


 万が一、魔族がブリガンディ王国王都を占拠したなら……。

 その影響はかなり大きくなる。王都を兵站拠点とすれば東西そして南に魔族軍を派遣するのは容易だろう。

エクドラル王国や東の王国も関所や国境線に多くの軍勢を派遣することなど困難だ。貴族連合は最初の1戦で瓦解してしまいかねない。


「連合軍……。そうなるじゃろうな。とはいえ、主力はエクドラル王国軍に、貴族連合となるじゃろう。ワシ等も当然参加することになるんじゃないか?」

「現状でも、エクドラル王国軍と一緒に同盟軍を作っています。名目的ではありますが、ブリガンディ王国の王都攻略ともなるとさすがに1個小隊ということは出来ないでしょう。最低でも1個中隊規模が必要です」


 困った事態だと、皆が眉を顰める。俺達の戦力はどうにか共和国を防衛出来るだけだからなぁ……。


「レオンに案は無いのですか?」

「依頼があった時には、エニル部隊を率いて参戦しようと考えています。即応部隊の2つ目ですし、そもそもがこの地の東を意識して作った部隊ですからね。銃兵が3個小隊に砲兵が1個小隊の中隊に拡大できました。砲兵には新型砲を使わずに、石火矢を使わせればそれなりの活躍が出来るものと考えます」


 美味そうにワインを飲んでいたガラハウさんが、笑みを浮かべて俺に顔を向ける。


「300発で十分かな?」

「旧型を300発に、例の火薬を使った石火矢を100発。同じ火薬を使ったフイフイ砲用の爆弾を50発。場合によってはさらに増やしたいところです」


「王都を焼くのか!」

「それぐらいしないと皆さんの恨みが晴れないのでは? そもそも俺達の仇を俺達に断りなく虐殺する連中ですからねぇ」

「敵の敵は味方では無いということですか……。確かに、それだけ撃ち込むなら王都は炎に包まれるに違いありません」


 王都を焼くということで皆の恨みが少しは晴れるようだ。

 うんうんとしきりに頷いているからなぁ。

 ガラハウさんが胸を叩いて、至急製作すると請け負ってくれたけど、かなりの数だから1か月ほど時間は掛かりそうだ。

 最後にレイニーさんからエクドラル王国との調整役を仰せつかったけど、予想していた通りだから黙って頷くことで了承を伝えることにした。

 

 散会になったところで指揮所に残っているのは、俺とレイニーさんそれにエルドさんの3人だ。

 改めてカップにワインを注ぐと近くに寄って、雑談を交えながら今後の対応について話し合う。


「問題はレオンがいない間の魔族対策だな。方向的には西の尾根ということになるんだろうが……」

「今までと同じ対処で問題は無いかと。新型石火矢なら2つ先の尾根まで射程圏内ですし、尾根を攻め込む前に部隊を調える向こうの尾根まで旧来の石火矢は届きますよ。谷に下りたなら爆弾をカタパルトで放てば、石垣に取り付く魔族は何とか出来るでしょう」


「それでも2個中隊以上欲しいな。民兵達の動員数を再度確認してみるか」

「私も参加したいと思いますが?」

「レイニーさんは此処で住民を守ってください。万が一魔族が尾根を越えたなら、この地を防衛する指揮はお願いします」


 エルドさんがやんわりとレイニーさんの参加を断っている。

 参加したくてうずうずしている住民も多いんだよなぁ。とはいえ、気持ちだけで倒せる相手ではないからねぇ。そんな連中を納得させるためにも、1個小隊規模の防衛部隊を残しておいて、彼らの下に民兵としての参加を認めることで納得させることが出来るようだ。

 移動式の柵を西に向かう道に並べて、焚火を焚くだけらしいけどね。

 それでも魔族との戦いに参加しているという子持ちを持つことが出来るんだろうな。


「ところでレオン殿は何時頃王国が動くと考えているんですか?」

「早ければ1カ月後、遅ければ3カ月後だと思っています。3カ月後にエクドラル軍が動かなければ、貴族連合は瓦解するでしょう。その時は、申し訳ありませんがオリガン家を保護させてください」

「保護というより、この地で暮らしてください。オリガン家には住民の誰もが感謝しているんですから」


 そうは言ってもなぁ……。人間族であることは確かだ。

 俺達が渡河した地点に、小さな村でも作って貰えば良いのかもしれない。

              

 数日後。俺の在所を確認する通信がエクドラル王国から届いた。

 直ぐにマーベル共和国本国にいる事を光通信で連絡すると、グラムさん達が訪問するとの返信が帰ってきた。

 やはり俺の推測をかなり気にしているようだな。

 やってくるとしても5日は掛かるだろうから、ゆっくりと待つとするか。

 到着前には、魔族がどこを襲撃したか分かるだろう。

               ・

               ・

               ・

 グラムさんと2人の士官、それにティーナさん達が指揮所に現れたのは、連絡を取ってから4日後の事だった。どうやら馬を乗り継いでここまでやってきたらしい。

 やはり、ティーナさんの告げた内容は衝撃的だったのかもしれないな。

 挨拶を済ませ、ナナちゃんがお茶のカップを皆に渡して俺の隣に腰を下ろす。

 グラムさんが俺を見る目はかなり厳しいものがある。

 ということは……、魔族の襲撃結果を知っているということなんだろう。


「ティーナの話を聞いて、皆がその場で笑っていたのだが……。昨夜宿泊した砦で貿易港からの知らせを聞いた。レオン殿が危惧していたことがどうやら起こりつつある。その真意を確認しようとやってきたのだが、その知らせを受けたとなればこれからの対応について考えねばなるまい。当然レオン殿の事、対応策はあるのではないか?」


 やはり起こったか……。

 これでブリガンディは地上から姿を消したことになる。

 既に王都は魔族に蹂躙されているだろう。助けることなど出来ようもないし、そもそも俺達にそのつもりなど無い。

 

「慌てることはないでしょう。既に起こってしまいました。2つ確認して頂きたい。王都に魔族が攻め入ったのは何時なのか? その後魔族はどうしているのか? 最後の確認事項については、10日を過ぎても魔族が王都から退かないとの確認でも結構です」

「10日ほどで魔族が北に帰るなら今まで通り。帰らぬ時は……、魔族の地上版図が出来るということになるか」


「落ちぶれたとしても、少しはブリガンディ王国も抵抗はしたでしょう。魔族の軍勢が増援を迎える前までに、今後の対策を考えれば十分かと」

「3カ月ほどの余裕があるということか……。その後は、魔族が西に向かうか、それとも東に向くか。それよりも街道が閉ざされてしまうのが問題かもしれん。これはかなり大きな問題になるぞ」


「エクドラル王国だけの問題ではないはずです。貴族連合、それに東の王国とも会談を行うべきかと」


 会談は、いかに魔族をブリガンディ王国の王都から排除するかになるだろう。

 それを考えてか、グラムさんの表情が険しくなっていく。

 各国で派遣軍を出して連合軍を作れば、それなりの軍勢になると思うんだけどなぁ。


「王都の城壁内に籠った魔族を追い出すともなれば数個大隊をもってしても困難と言わざるを得ん気がするが?」

「王都を無傷で攻略しようとするからです。王都を破壊するなら容易ではないですか?」


「破壊だと! まさか! いや、可能なのか……」

「父上、どうしました?」


「ああ、さすがはレオン殿ということだな。確かに王都を手に入れる必要はないのだ。我等が危惧するのは、王都という城壁に籠った魔族の大軍だ。四方からフイフイ砲で爆弾を放てば、容易に陥落するであろうよ。ワシには王都を破壊するという考えは無かった」

我が軍のフイフイ砲は王都の屯所に4台ですぞ。王都の四方から放つとなれば各方面に数台は用意しませんと。それに放つ爆弾は200個程度でしょう」


「3カ月の余裕がある。フイフイ砲数台は作れるだろうし、場合によっては本国から運んで来れるはずだ。爆弾も工房を使えば2倍を超える数を用意できるに違いない。それにだ……。マーベル国の参加をお願いしたいと思うのだが?」


 前もって相談しておいて良かった。

 その答えは準備しているからね。


「俺が1個中隊を率いて参加したいと考えています。銃兵と砲兵ですが、砲兵には石火矢を400発用意しますし、例の代わった火薬を使った爆弾を50個、フイフイ砲で放てる大きさで提供しましょう」

「西の尾根で魔族を苦しめた、あの火薬か! ありがたく使わせて貰おう。王都は周囲をぐるりと城壁で囲んでいる。あの火薬ならかなり効果がありそうだ」


 同行してきた士官が首を傾げている。

 フイフイ砲で放つ爆弾は見たことがあるんだろうが、毒ガス兵器のようなあの爆弾の存在は知らないだろうからなぁ。


「だが、それらを我等に見せても問題はないのか? ワシと娘はその威力を見たことがあるが、貴族連合や東の王国はその存在を知らんのだぞ」

「それよりも魔族を追い払うのが先です。存在を知ったとしても、技術提供を行わない限り問題は無いかと」


 使わざるを得ないと判断した以上、仕方のないことだ。エクドラル王国も試行錯誤を繰り返しているようだが、未だに石火矢を作ることが出来ないからなぁ。


「マーベル国の存在を恐れるかもしれんぞ?」

「弱小国だからこその兵器ですからね。その辺りを説明すれば理解して頂けるかと」


 苦笑いを浮かべながら小さく首を振っている。

 やはり他国を凌ぐ兵器は、色々と問題が出てくると考えているに違いない。

 今回50発提供する失敗作の爆弾にしても、海を隔てた王国から火薬を手に入れている限り作ることは出来ないからなぁ。思っていたよりも技術拡散については心配しないで済みそうだ。


「レオン殿が1個中隊を率いての参加を明言したとなれば、レオン殿は王都に魔族が居座ると考えているのだな?」

「相手は魔族。少なくとも2個大隊は必要でしょう。戦力比は10倍を超えるはずですから、2個大隊の戦力に達しない場合は王都攻略は不可能と考えます。しっかりと関所を守ればエクドラル王国はこれまで通りとも言えます。貴族連合は瓦解するでしょうから、オリガン本家をマーベル共和国で引き取ることを考えています」


「確かにエクドラル王国に大きな影響はないだろう。だが隣国が魔族となれば、今後の防衛が難しいに違いない」


 貿易港の安全性がかなり低下しそうだ。

 街道を使った取引は停止するだろうし、魔族の攻撃がいつあるか分からないような貿易港なら、商船も近付くことが出来ないだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 用意した300発は銃弾のことだと思うのですが、一個小隊あたり100発は少なくないですか? 獣人族が王国に入り込めば敗残兵や山賊、それに各地の貴族軍が全てが敵になる可能性があるので、魔族軍と対…
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