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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-281 やはり王都に向かっている


「全く困った人物だ。常に先を見据えて行動しているのだからなぁ。可能性が少しでもあるなら……、いや万万が一ほどの事態に備えるのだから王子殿下も欲しがるわけだ」

「根が臆病なんでしょうね。でも、今ある兵器以降の開発計画はありませんよ。これ以上の兵器となると、用兵に用いることが出来なくなります」


 現在の軍の組織を抜本的に変えねばなるまい。それに弾着観測を行うとなれば、優秀な前線観測兵を育てる必要がある。光通信は利用できそうだが、見通し距離でしか使えないからなぁ……。


「兵器を見ただけで模擬することは出来ないということか。しかもエクドラル王国軍では効果的にその兵器を使えんということだな?」

「有翼石火矢を見たはずです。かなりの飛距離を得られますが、目標に当てることは期待できません。10発程放って、その内の1つが近くに着弾する感じですね。もしも次にエクドラル王国軍がマーベル共和国に攻め入った時には、攻撃地点が見えない場所から正確に軍勢の真ん中に着弾させることが出来ますよ。そんな兵器を作りましたが、マーベル共和国の防衛用だけに使いたいと考えています。ティーナさんなら見る機会もあるでしょう。ユリアンさんがそれを正確に描いたとしても、ドワーフ族に作ることは出来ないはずです」


 俺の話に、何時しか笑みを浮かべている。

 困ったお嬢さんだな。根っからの軍人なんだからねぇ。


「石火矢でさえ再現できんからな。見せて貰えるだけでもありがたいと思わねばなるまい。だがそんな兵器を魔族相手に使えると考えているのか?」

「魔族の恐ろしさは、その数にあります。オーガは強敵ですが、1体だけならグラム殿なら十分でしょう」


 魔族が一か所に集まらぬようにするのが、俺の基本的な戦術だ。

 最初は爆弾だったけど、石火矢が出来たからその先まで対処できる。一か所に集まれば倒すのも容易だが爆弾が無くなれば死に物狂いの戦になってしまう。

 出来るだけ離れた位置を攻撃して、少しでも魔族の集結を阻害する。新型石火矢なら1コルム先に届くし、有翼石火矢ならさらにその先を牽制出来る。その時に問題になるのが石火矢の破壊力だ。

 現状では新型石火矢でさえ、俺が投げる爆弾2個分ほどの威力だろうし、そもそも周囲を延焼させるのが目的だからなぁ。

 爆発するとかなり派手に火炎を周囲に散らすから威力があると皆が思っているようだけど、実際はそうではない。


「有翼石火矢の先を正確に狙えるとなれば……、攻撃範囲がかなり広く取れそうだ」

「エクドラル王国の長城に魔族が接近した時には、後方より援護したいと思っています。数コルム離れていても、フイフイ砲の先を攻撃できるでしょう」

「なら問題あるまい。そのような兵器があると分かればエクドラル王国も少しは考えるであろう。それに、国王陛下は覇を唱える人物では無いと、父上も言っておるぐらいだ」


 再び苦笑いを浮かべる。

 それが王国制の大きな課題と言えるだろう。

 次期国王はどのような国政を布くのか。代が変わって数年ぐらい経たないと新国王の腹の内は読めないだろうな。


「でも、俺は魔族が王都を攻めるのは傍観すべきだと思っていますよ。王都で済むなら貴族連合は痛くも痒くもありませんからね。魔族が完全に王都を占拠してから行動に移すべきです」

「時期的には3か月後辺りということか。王都内の住民は既に虐殺されているであろうな」


「因果応報と言う奴です。自分達がしてきた行いを魔族に受けたからと言って、俺達を恨むことはないでしょう」

「それはそうだが……」


 王国軍は正義の軍であれ! そういう考えなんだろう。

 間違ってはいないが、案外正義という定義は曖昧だからなぁ。自分の良心に恥じない行いが正義だと俺は思っているぐらいだ。


「もし我等がブリガンディ王国の王都から魔族を追い出すために軍を動かすなら、マーベル国は参加してくれるか?」


 王都を手に入れてどうするのだろう?

 サドリナス領でさえ手に余らしているように思えるんだけどなぁ。

 貴族連合にエクドラル王国軍、それに俺達を合わせた軍勢なら何とかできそうに思えるが、その後をどうするかを聞かせて貰えない限り軽々しく返事は出来ない。


「さらに東に領地を伸ばすと?」

「さすがにそれは出来まい。せいぜい、前に関係国と協議した範囲で我慢することになるはずだ。だが、目の前に魔族がいるとなれば安心も出来ないだろうよ」


「俺の考えたかなり低い可能性が起こったなら、再度関係国と協議すべきでしょう。その結果を聞いてからマーベル共和国の防衛会議に諮ることになるはずです」

「さすがに約束は出来んか……。明日は、父上の下に向かうとしよう。やはりレオン殿はかなり深く考えている」


 明日なら、魔族の進路が少しは分かってくるだろう。さらに東に向かうのか、それとも南進するのか……。

 俺に騎士の礼を取ってティーナさんが現場指揮所を出て行った。

さて、俺もそろそろ眠るとするか。

 明日が楽しみだな。


 翌日朝方に測定した魔族の位置は、煙が遠くに拡散していることからかなり誤差が出ている。

 計算された魔族の位置は此処より南東に40トレム位置はさらに2度程南下している。

 やはり……、ということになるのだろう。


「単なる南下ではなさそうだ。レオン殿の推測が正しいかもしれんぞ」

「かなり確度が上がりましたね。貴族連合にも伝えてください。ですが、これで貴族連合も少しは安堵出来るでしょう」

「戦になるとしても、小競り合いで終わるということか……。となると、次の対応が大事になるな。それでは、失礼する!」


 ティーナさんが現場指揮所を出ていく。直ぐに馬の嘶きが聞こえてきたから、真っ直ぐに砦に向かうのだろう。

 さて、レイニーさんにも知らせて来るか。

 場合によっては、俺達も参加することになりそうだからなぁ。事前に了承を得ておかないといけないだろう。


 エミルが現場指揮所に戻ってきたところで、1度レイニーさんに状況説明に向かう事を告げる。

 レイデル川は平穏だし、魔族の2番手がやって来るとも思えない。魔族の侵攻方向が王都から見れば北東方向になるから、あえて魔族に向かって逃げ出す連中はいないだろう。


「現状をレビ殿と一緒に維持します。対岸に異変があった時には直ぐに知らせます」

「そうして欲しい。ボニールを2頭借りていくよ。遅くとも5日にはならないはずだ」


 伝令の少年にナナちゃんを探して貰う間に、テントの中の荷物を整理する。

 直ぐに戻ってくるつもりだから、魔法の袋に入るだけの荷物で十分だ。

 やがてやって来たナナちゃんが、さっさと荷物をバッグに詰め込むと用意されたボニールに騎乗する。


「急いでいるなら、早く走らせるにゃ!」

「結構早く走るんだよね。それじゃぁ、ナナちゃんが先だ。後ろからついていくからね」


 俺に顔を向けてナナちゃんが笑みを浮かべる。

 ボニールのお尻をポンと叩くと、ナナちゃんが乗ったボニールが北に向かって駆け出した。

 結構早いな……。追い付けないときは、止まってくれるかな?

 そんな疑問を浮かべながら、俺もボニールのお尻を叩く。

               ・

               ・

               ・

「魔族2個大隊以上の勢力がブリガンディの王都を襲うと!」


 レイニーさんが俺の推測を聞いて、絶句している。

 エルドさんやヴァイスさん達も目を見開いているぐらいだからなぁ。かなり驚いたに違いない。

 黒板に屯所で観測した、魔族の駐屯位置の変化を簡単に描いてみたんだが、それを見る限り魔族の移動方向が王都であるのは皆も理解できたようだ。


「現在のブリガンディ王国に魔族2個大隊以上の勢力を跳ね返す力はないでしょう。王都を襲わずとも瓦解は確実。場合によっては王都が魔族に線量される可能性が出てきました」


「全く、よくもこんな状況を魔族は知ったものだな。魔族のスパイが潜んでいたのかもしれんぞ」

「さすがにそれは無いでしょう。過去の戦の経緯と現状を確認した結果で判断したと考えられます」

「王都の城壁は分厚いにゃ。とても破壊できないにゃ」


「王都全体を囲む城壁ともなると、4方向全てに兵士を配置できるものではありません。1個大隊程度の軍では、防衛は出来ないでしょう。門を破壊しなくとも、4方向から攻城櫓を押し寄せれば城壁を越えられます。魔族1個中隊が城壁内に入れば蹂躙の始まりになりでしょうし、門を内側から開ける事もできます。魔族2個大隊が王都内に侵入したなら1日も経たずに王都は魔族に占領されてしまうでしょう」

「魔族の怖さは、その数だからのう……。ワシ等に代わって、魔族が恨みを晴らしてくれるとはのう……」


 ブリガンディに手を出すことはない。

 ここで結果を待つしかなさそうだが、何となく俺達がやらねばならなかったことを敵にやられてしまう悔しさが残るんだよなぁ。

 指揮所に集まってきた連中の顔を見ると、結構険しい顔をしているから俺と同じ思いに違いない。


「問題はその後になります。果たして魔族は北に帰るでしょうか? 王都ならそれなりに魔族の食料となり得るものが溢れています。魔族の大きな出城になりかねません」


 全員の表情が固まった。

 テーブルにカップを落とす者、ワインが気管にでも入ったのだろうゴホンゴホンンと咳き込む者や、ポトリとパイプを落とす者までいるんだよなぁ。

 その後は、蜂の巣を突いたような騒ぎで収拾がつかなくなってしまった。


 バン!

 レイニーさんが片手で大きくテーブルを叩いた。

 皆が驚いてレイニーさんに顔を向けるから、途端に静かになる。


「前にレオンが話してくれましたね。魔族もいくつかの王国を持っているのではないかと。もし、王都に魔族が居座ったなら地下世界に影響が出ることもあり得ると推測をしているのですか?」

「他の魔族よりも優位に立てるかもしれません。王都以北が新たな魔族の版図になるとなればそれだけ人口を増やすことも可能でしょう。地下世界よりも地上の方がより収穫も得られるはずです」


「貴族連合では奪回出来まいのう。東の王国はそれほどの戦力を待たぬし、エクドラル王国軍は自国の魔族対策で手一杯になってしまうじゃろうな」

「だが、各国が力を合わせれば……」


 それなら何とかなるんじゃないかな。

 その考えが、俺以外から出てくれたのが嬉しいところだ。

 後は協議への参加と俺達が出せる戦力ということになる。


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